この記事は小説『ファング』のあとがきやネタバレなどを一旦アーカイブしておくページです。
ものすごく長文なので、読了後、とても暇なときにお目通しください。
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『ファング』通販のおしらせ・ほか色々
まとめクリップ
『ファング』関連 (Misskey.design)
2024.5.19発行 小説『ファング』のご感想・頂いたFAや、読了者向けの補足情報・プレイリスト、セルフ二次創作/クロスオーバー作品などをまとめています。
※ネタバレ注意
制作動機
もとはといえば2023年11月11日、前回の文学フリマ「文学フリマ東京37」で、バンド物のまあまあ充実した長さの小説本(タイトル未定のため以下『A』と称する)を出したかった。
当初『A』は Drive to Pluto の発表済み作品『ミッドナイト・ヘッドライト』(のリマスタリングと称したリライト)をあわせて、Drive to Pluto, SIGNALREDS, This Earth Is Destroyed, 環-Tamaki- の話を1作ずつ入れたオムニバス形式にしようと思った。そこにシークレットトラックと称して、書籍巻末にファイネッジレコーズ社長・木場の過去の話を載せようとした。
だがオムニバス形式だと構成が散らかってしまうので、『A』は再録なしの完全な1本の長編として書くことにした。(This Earth Is Destroyed, 環-Tamaki- をメインに据えて再構成する)
『A』の再構成により、巻末のシークレットトラックが浮いてしまった。これをシングルとして抜き出し、1冊のうすい冊子にしたものが『ファング』になった。
装丁・価格設定
目標は「チープな装丁でチープな値段」
今回2024/5/19「文学フリマ東京38」から、文学フリマの東京会場で入場料1000円が必要になった。
コミティアをはじめ入場料の必要な同人誌即売イベントは多々ある。コミティアは書店で事前に購入できるカタログが入場証になる。
一方、文学フリマはカタログをWebサイトで電子化しているので、入場料は当日券販売および「イープラスなどによるチケット前売り販売」のシステムを採用した。
文学フリマ東京の規模が年々肥大化していることから、文学フリマの入場有料化は驚かなかった。しかし前売りチケットがイープラスということにはめちゃくちゃ驚いた。
ライブか? と。
……じゃあ、本の単価を500円にしてD代と言い張ろうと思った。
消費税増税以降、最近(2024年現在)のドリンク代は600円が基本だが、『Drive to Pluto』の時代はまだ500円だったと思うので、販売単価が500円に収まるような装丁を目標にした。
ただでさえうちの本は平均価格が高いので(最低でも1700円)、気軽に手にとってもらえる価格にしたかった。
そうしたら自然と人件費をオミットした手製本になった。仕方がなかった。
予算が許せば「レトロ印刷」または「エディットネット プリンテック」の孔版印刷を使いたかったが、それをすると販売単価が1000円になるor赤字販売になるので見送った。
赤色の本はいままで作ったことがなかったので、赤い紙に白トナープリントで気持ちだけ「特殊印刷」の表紙とした。白トナーの発色が予想よりも美しく、作ってみてよかった。
文体
最初は怪談(ドライなホラー)を書こうとしたが、ホラー作品にはそこそこ親しんでいたと思っていたのにやってみると上手く書けず断念。ディケンズ『信号手』のような感じを目標にしていた。最初だけ。
その後はポール・オースターの初期3部作的な探偵小説風ハードボイルド実存文学、およびラテンアメリカのマジックリアリズム文体になればいいなと思って書いた。制作中にオースターが亡くなり、私はたいして熱心な読者ではなかったがそれでも寂しく思った。
メキシコ文学の『ペドロ・パラモ』という小説がとても好きだ。これは「おれ」の一人称による乾いた文体で、殺人や死や過去の出来事が魔術的に描かれている。(時代的にはガブリエル・ガルシア=マルケスの前の時代の作家だ)
『ペドロ・パラモ』(1955)
フアン・ルルフォ 作, 岩波文庫, 1992
https://www.iwanami.co.jp/book/b248477.html
「書きたい」と思ったものがあっても、当然「そのとおり」に書けるわけがない。『ペドロ・パラモ』やオースターの初期3部作と比べて、自分の文体は相当ナイーブな感じになったと思う。
昭和末期に青春を生きた男はもっと自らの弱さ・痛みに対して鈍感でドライなのではないか と反省している。でも彼らはバンドマンという外れ者だから、当時のマジョリティである男たちよりも傷つきやすく「優しい」のかもしれないとも思う(THE BLUE HEARTS『パンク・ロック』のように)。
そもそも始まりからして「怪談を書きたい」という理想が「私の文体では無理だった」わけで、この「やりたいこととできることの間の葛藤」は結果的には物語の主題の方にも流れ落ちて注ぎ込まれている。
あと、本作は、バンド物のシリーズ『Drive to Pluto』のキャラクター・舞台(インディーズレーベル)を知っている前提の作品ではあるけれど、なんとか純文学としても読める出来になればと苦心して書いた。あとから頂いたご感想によると、シリーズを知らない人でも純文学として読んでもらえたようで良かった。
モチーフ(命名の由来)
インディーズレーベル「ファイネッジレコーズ」のバンドは太陽系の惑星の名前が由来である。
土星:環-Tamaki-
冥王星:Drive to Pluto
(バンド SIGNALREDS はファイネッジレコーズとは異なるメジャーレーベルに所属している)
それから松田くん(事務所の飼い猫)の渦巻きタビー模様は、木星の大赤斑と陰陽魚をかたどっている。おまけに名前はアフラ・マズダーが由来なので、このなかでは一番立派な名前。
ファイネッジレコーズは社長による fine + edge の造語で、「鋭いエッジ」と晴天(つまり太陽)を示す fine のダブルミーニング。fineの響きは『ファング』とも韻を踏んでいると思う。
ファイネッジレコーズを取り仕切るのは「太陽」なので、太陽の同列である他の創設者たちの名前は恒星のもじりとし、2023年2月に発表した「相関図」の時点でそれぞれの名前は決めていた(さすがにキャラクターデザインやパートはこの時点では決めていない)
というわけで、木場=牙=ファングの連想や、あらすじで先出しされていた名前「ヒサシ」「謙太」から、これが何の話か考察することは実はできた。実際には人名よりもファングのイラストの雰囲気から気付いた人の方が多かったようだけど。
叶久(かのう・ひさし):りゅうこつ座カノープス
りゅうこつ座α星カノープスのもじり……えっ、カノウプスなのにドラマーじゃないんですか?? 詰めが甘い!!
(注:カノウプスというドラムメーカーが実在する)
地球からの距離は約310光年と遠いが、太陽を除いて全天2番目に明るい1等星。(上からシリウス、カノープス、ケンタウルス座α星の順)
りゅうこつ座は冬の星座だが、日本では福島以南の地域の低い空でしか見られず、さらに東京の街中では建物や光害に阻まれて観測は難しい。
隣接する星座は後述のケンタウルス座など。
p.10(久とファングの会話)では恐らくオリオン座や冬の大三角を観測していたので、その夜もカノープスは光っていたはず。
これはこじつけめいた偶然だが、ヒサシ=庇(ひさし、屋根・日除け)の連想もできて、「太陽」とは対の名前だったなあと思った。
在原謙太郎(ありはら・けんたろう):ケンタウルス座α星
ケンタウルス座α星(アルファ・ケンタウリ)のもじり。
ケンタウルス座α星はケンタウルス座α星A・ケンタウルス座α星Bの連星とプロキシマ・ケンタウリから成る三重連星で、α星Aとα星Bを合わせた明るさは全天で3番目。(上からシリウス、カノープス、ケンタウルス座α星の順)
地球からはケンタウルス座α星の距離は約4.3光年、プロキシマ・ケンタウリの距離は約4.246光年で、太陽系からは最も近い恒星である。プロキシマ・ケンタウリには惑星が発見されており、地球と同じように惑星表面上に液体の水を有する可能性があることから調査が行われている。
ケンタウルス座はりゅうこつ座の隣に位置する南天の星座で、日本からは星座の南側の領域を観測することができない。
日本のフィクションでは、ケンタウルス座は宮沢賢治の童話『銀河鉄道の夜』でモチーフに取り上げられている。作中の日付は「ケンタウル祭」というお祭りが開かれており、ジョバンニの行く先の「南十字星」と「コールサック」はケンタウルス座に隣接する星座「みなみじゅうじ座」の天体である。
上述「カノープスなのにカノウプスじゃない件」があんまりなので、謙太のライブハウスではドラムセットにカノウプスが導入されている設定(まだ作品には書いていない)。ライブハウス〈コールサック〉の備品はYAMAHAかPearl、つまり普通のよくあるドラムセットだったと思う。
コールサック
みなみじゅうじ座に位置する暗黒星雲(星間ガスや宇宙塵によって暗く見える領域)。
暗黒の領域が石炭袋に例えられ、『銀河鉄道の夜』作中では天の川に空いた真っ暗な“そらの孔(あな)”として描かれる。
p.11 「辻」がライブハウス〈コールサック〉に出現できたのは、暗黒星雲であるコールサックが南十字星の懐にある、という縁のため。
一応1980年代当時の高円寺南口のロケーションに〈コールサック〉に該当する実在のライブハウスは無いはず。当時のパンク・ロック、ハードコアの流行から2○○○○Vを連想される方もいるかもしれないが、この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。(本当にモデルとかではない)
木場太陽(きば・たいよう)
太陽系の中心にある恒星。地球の属する銀河系(天の川銀河)のなかではありふれた恒星(主系列星)
命名行為のもつおまじないまたは呪いについては、過去作『Solarfault, 空は晴れて』を参照。1989年までの彼は「牙」で、その後は「太陽」として振る舞う。
余談1:Googleで「日食」と検索すると……
余談2:制作中(製本段階)の5/10頃、太陽フレアの影響で通信障害などのリスクがある という報道を見て「このタイミングではしゃぐな!!!!!」とキレ散らかしたが、誰にも言えなかったので辛かった。
まるで平静を装って投稿したポスト(5/10)
プレイリスト
イントロダクションに書かれた楽曲『クロス・ロード・ブルース』と、登場人物の好きな楽曲(アシッド・フォーク、スラッシュメタル、オルタナ)の詰め合わせです。
一応(作品発表前に尋ねられた時にはぼかしましたが)作中の出来事の時系列順に関わる感情順に並べたので、物語中の感情の抑揚に近い体験をできるような気がします。要するにイメージソングでした。
- Cross Road Blues – ロバート・ジョンソン (1937)
- The Conjuring – メガデス (1986)
- Idiot Rule – ジェーンズ・アディクション (1988)
- Dress Rehearsal Rag – レナード・コーエン (1971)
- あんまり深すぎて – 吐痙唾舐汰伽藍沙箱 (1970)
- To Live Is To Die – メタリカ (1988)
- Unsatisfied – リプレイスメンツ (1984)
- Time Has Told Me – ニック・ドレイク (1969)
ブルース:1
フォーク, SSW(ファングの趣味):4, 5, 8
メタル(ヒサシの趣味):2, 6
オルタナ(謙太の趣味):3, 7
Spotify派の人は頑張って自力で探していただいて…… 全部いい曲なのでね。
登場人物の好きなジャンル/アルバム
ファング
サイケデリックフォークが好き。メンバーのなかでは少しだけ懐古趣味。
パンクスや他のジャンルも、紹介されたら割と幅広くなんでも聴く。
好きなアルバムはニック・ドレイク『Five Leaves Left』(1969)
ヒサシ
スラッシュメタル、ハードコア、その他耳を聾する轟音が好き。
89年時点ではメタルのサブジャンルはそんなにややこしくなかったはず……
好きなアルバムはメガデス『Peace Sells… But Who's Buying?』(1986)
謙太
カレッジロック、オルタナ、ミクスチャーが好き。
要するに元気で行儀悪い系の音楽。
好きなアルバムはリプレイスメンツ『Let It Be』(1984)
プレイリスト未収録の楽曲
終わらない歌 – THE BLUE HEARTS (1987)
ブルーハーツはサブスクリプション配信していないので未収録。
後述するが、『パンク・ロック』などもすごい曲なので聴いてほしい。
サンシャイン – スピッツ (1994)
楽曲名がネタバレなので除外したが、本作の着想はこの楽曲から。
……ちょっと待ってください、ファイネッジレコーズの事務所がホコリが舞って汚いのは『サンシャイン』のせいってことですか?(歌詞参照)
教えてもらった曲
太陽のうそつき – ゆらゆら帝国
同時代・高円寺で活動していたバンドの楽曲。
GRAVEYARD – GRAPEVINE
私は『Gifted』の方を聴いていました。こちらも良い。
オマージュ
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
ライブハウス〈コールサック〉と南十字星の縁、全般にかかる天体モチーフ、それから全体のストーリーライン(友達との別れの話)
THE BLUE HEARTS
あまりにも有名な日本のパンク・ロックバンド。誰もが嫌でも影響下にある。
p.13の貸しスタジオ「スタジオ・コーモト」はフロントマンの名前だし、p.27のテレビに映るパンクロッカーの様子もその人を映している。
※この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。
特に参照した楽曲は1stアルバム収録の『終わらない歌』。p.26上段の「おれたち」のための歌。
ほか 1st, 2nd, 3rd アルバム収録曲をメインに『パンク・ロック』『青空』などの楽曲を参照した。『リンダリンダ』や『TRAIN-TRAIN』は何度聴いたっていつまでも色褪せない。
更に余波を広げると『旅人』の“プルトニウムの風”は Drive to Pluto の方へと吹きつけている。
クロスロード伝説・27クラブ
「辻には悪いものがいる」という民間信仰は世界中に分布する。日本では、ムラの内と外の境界である辻に像を立てて邪悪なものをムラに入れまいとする道祖神信仰が有名。遡れば古代ギリシャの魔女たちも、悪魔との儀式を夜の十字路で執り行っていた(出典を忘れた……)
「悪魔と契約して27歳で没するミュージシャン」(かれら27歳で死んだミュージシャンを総称して27クラブと呼ぶ)の逸話も、オカルティズムやサブカルチャーでは有名な話なのでオタクなら全員知ってると思ってたが(主語が大きすぎる)、知らない人もいるかもしれないので、冒頭に「イントロダクション」として概要を記述した。
本作はファングくんの素性が特大のネタバレになるせいで、本文冒頭の試し読みを公開できず、代わりにイントロダクションを先出しで公開したが、イントロの文体が「格好良い」と評判を頂いてそれはそれで嬉しかった。
悪魔の名前にロノウェも上げられているのは、オカルティズムには全く関係なく「ゴエティアの序列27番目がロノウェだから」というしょうもない理由のようだ。『ゴエティア』や『地獄の辞典』などの悪魔学によるとロノウェは芸術にまったく関係ない。
(自分は『メギド72』プレイヤーなので、なんだぁ? と敵を煽るメイン盾の幻聴が脳裏をよぎる)
マトモな文献ではクロスロード伝説や27クラブの悪魔にロノウェの名前が上がることはなく、これはインターネットの適当情報に由来しているようだ。マトモな文献では、サタンか、アフリカの文化に由来するハイチの神パパ・レグバや、ヨルバ人の神エシュの名前が上がる。
ミシシッピ・デルタのクロスロード伝説から渋谷スクランブル交差点に文脈を接続できたのが面白かった。
読んだ本
フィクションに対して「参考文献」を書き連ねるのは、文献(学術資料)をしょせんは娯楽に使用する面の皮の厚さが気になるので好みではありません。
ここに挙げるのは参考文献ではなく、あくまでもただの“見てきた物や聞いた事”(THE BLUE HEARTS『情熱の薔薇』)です。「聞いた事」は上述の「プレイリスト」を参照してください。
『ザ・ブルーハーツ ドブネズミの伝説』
『ザ・ブルーハーツ ドブネズミの伝説』
陣野俊史 著, 河出書房新社, 2020
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309290942/
昭和末期〜平成初期にかけたブルーハーツの活動年と社会情勢を、ブルーハーツの歌詞のみに注目し、ブルーハーツを現代詩として読む文芸批評。(音楽的な批評ではない)
時代の歴史とその「空気感」もさることながら、バンド結成のエピソードも解散に至る出来事も胸に迫る。
『ダーク・ミューズ オカルトスター列伝』
『ダーク・ミューズ オカルトスター列伝』
ゲイリー・ラックマン 著, 谷川和 訳, 伊泉龍一 解説, 国書刊行会, 2023
https://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336075161/
啓蒙時代から第二次世界大戦頃までをめぐる哲学史・芸術史。オカルティズムの著名な活動家や、思想の根底については本書で説明がない(分かっている前提で進む)ので、予習しておくのがオススメ。
『現代オカルトの根源 ─霊性進化論の光と闇』
大田 俊寛 著, 筑摩書房, 2013
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480067258/
※未読ですが、後述「きりたんと学ぶスピリチュアルの精神史 vol.1 神智学」の参考文献に上がっているので紹介。
動画「きりたんと学ぶスピリチュアルの精神史 vol.1 神智学」(ニコニコ動画)
現代スピリチュアル・詐欺・トンデモ系ライターの雨宮純氏(著書『あなたを陰謀論者にする言葉』など)による解説動画なので、信頼してオススメできます。
動画「世界の奇書をゆっくり解説 第17回 「知覚の扉」」(ニコニコ動画)
『奇書の世界史』『奇書の世界史2』著者・三崎律日氏による解説動画(書籍のもとになった動画)
幻覚剤によるサイケデリック体験を書いた『知覚の扉』オルダス・ハクスレー (1954) と、サイケデリックが当時の世相に与えた影響の余波を解説している。音楽は例えばビートルズへ、テクノロジーは例えばアップルへ。
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ』
『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ いかにしてオカルトはロックンロールを救ったのか』
ピーター・ビーバガル 著, 伊泉 龍一 訳, 駒草出版, 2022
https://www.komakusa-pub.jp/book/b10038554.html
オカルティズムの主要人物やミュージシャン、音楽史・音楽ジャンル等について親切な解説はまったくないので、上述の資料+音楽の通史を多少「分かってる人」向けの本です。
第1章の初手がロバート・ジョンソンです。そういう本です。
白状するとまだ読み終わっていません…………長くて…………
音楽史の通史は『はじめてのアメリカ音楽史』が一番読みやすいと思うけど、イギリスや本邦のシーンを見逃してしまうことに一応注意。
『はじめてのアメリカ音楽史』
ジェームス・M・バーダマン 著, 里中 哲彦 著, 筑摩書房, 2018
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480071934/
それから、やっぱりサブジャンル(ロックンロール→ロック→プログレ→パンク・ロック/HRHM→ポストロックとか多岐にわたるなんやかんや)までは網羅していない。サブジャンルの相克関係は『シーズン・オブ・ザ・ウィッチ』の方が明るいけど、サブジャンル自体へのアクセスは自力で頑張ってください。聴いてりゃ覚えるよ。
『高円寺フォーク伝説』
『高円寺フォーク伝説』
杉並区立郷土博物館 編集, 1996
https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000002555249
杉並区立高円寺図書館蔵書。1996年に杉並区立郷土博物館で開催された企画展の図録。絶版で入手は難しい。
1970年代ごろから日本のフォークミュージシャンが(新宿へのアクセスしやすさと家賃の安さから)高円寺に集い、80年代前半からはパンクロッカーが、80年代後半のオーディション番組「いかすバンド天国」(イカ天)の影響で音楽を志す若者が高円寺に集まっていた。
高円寺にミュージシャンが集まったのは結構なところがさまざまな偶然によるもので、他所から集まってきた若者の影響であとからレコード屋や古着屋が出来てきたという経緯などが記されている。ほか、高円寺で生まれ育ったり、そのころ高円寺にいたミュージシャンへのインタビューなど。
あとは『るるぶ 高円寺』だか『東京Walker 高円寺』だかを読みましたが書名・出版年を忘れました。
人物の裏話
10割が叶久の悪口です。
ヒサシ(叶久)
「秩序・悪」のやべー奴。高学歴(地方から上京してくる程には高学歴)・高身長(180cm)・高収入(バブルで勝ち逃げ)・高慢。他人が作った曲に自分が弾きたくなったからベースソロをねじ込む男(p.19)
ベーシスト、アレンジャー(編曲家)、コンポーザー(作曲家)、結果的に作風の方針を決めるのでプロデューサー。
作中の使用機材はIbanez Axstar AXB1000。もし「白いボディの変形ベースしか買わない」みたいなこだわりがあったらキモい(誹謗中傷)
煙草は付き合い用・煙草休憩用・やさぐれた気分の時用にピースを持ち歩いている。当時(1989)も今(2001〜)もそんなに吸わない。
1989年には全国ネットでサブリミナルコンプライアンス違反を行い、なぜか未だ業界を干されることなく、2001年に事務所の所属ミュージシャンにパワハラ(ボディタッチ)をしでかす悪人。
過去作『Cipher』のやべー奴こと0は「悪役」だったが、ヒサシのキャラクター造形は「悪人」にしようとした。ヒサシはファングのことも謙太のことも大好きだったが、彼らの生き方の不器用さを見下すと同時に憐れんでもいた。
2001年の彼は本物の悪魔よりも先に「契約」を交わす悪魔として「悪魔的に振る舞う」ことで厄払いをしようとしていた(のか?)
持って生まれた能力と自己実現との乖離に苦しんでいたが、後年(1990年以降)は経験を重ねて、高慢にも「悪魔の助けなんか借りずに」幅広い作風を手に入れる。あるいはファングは彼の分も払ってしまったのかもしれない。才能の出処なんて本人や周囲の人物には永久に分からないので、この件の真実が明かされることはない。
余談だが叶(かのう)と辻(つじ)の字が似ていることは全くの偶然。字面ではなく音や意味(恒星のカノープス、十字路の辻)で名前を決めているため、字面の類似は途中まで気付かなかった。
出身・家族関係
叶姓の分布は鹿児島島嶼部(奄美)に多いらしい。恐らく、彼の父方が鹿児島県の該当地域の出身で、どこかのタイミングで福岡県に移ったため、ヒサシ自身は福岡県の出身。ヒサシの両親は出兵はしていないが、幼少期に太平洋戦争を経験している年齢。
ヒサシの父はステレオタイプの九州男児とはかけ離れた温厚な文化人で、周囲からは軟弱者とそしりを受けていたかもしれない。職業は高校の英語教師で、フォークが好きなクリスチャン(これは裏取りをしていない全くの空想だけど、戦時中〜戦後すぐの頃の鹿児島のクリスチャンは世間の風当たりが強かったのではないだろうか)。
叶家は母親のいない家庭だったが、上述のとおり父がまったく温厚でよく出来た人間のため、母親がいないのは不仲等による離婚ではなく、不幸な死別が理由と思われる。叶父は後妻を迎えることなく、息子たち(男兄弟で3人? 後述の雨が2001年には成人していることを考えると、かなり年が離れているはず)を男手ひとりで全員東京へ送り出した。もしかしたら叶母の実家が裕福で、子供たちの成人まで多分に援助してくれていたのかもしれない。
まあ東京に送り出した兄弟の末っ子は大変なグレ方をして大変なことになりましたけどね。ヒサシくんって言うんですけどね。
家族仲は良好だが、子供たちは皆東京で暮らしており、いかんせん遠いのでヒサシが帰省することはあまりない。盆と正月の片方だけとか、その年は帰省しないとか、日曜礼拝がダルいとか。少なくとも1989年の大晦日には帰省していない。
ヒサシが仕事で作ったCMソングは関東甲信越ローカルが多いので(例えばスキー場)、たぶん仕事の成果物を録画したビデオを持って帰るか郵送している。その映像にもアレが入ってるのは置いといて……。
設定を盛りすぎた。というか父親の設定を盛りすぎた。たのしかった。お父さんには幸せになってほしい。
人物紹介の人名「叶 雨」について
ヒサシの年の離れた兄の子供。ちょっとまだ調整中でお出しできません、次の次の作品ぐらいで出るかも、出ないかも。2001年時点で成人済み。
また人物紹介図から職業に変更があり、音響エンジニア(PA)ではなく「ライブハウスの照明エンジニア」になりそうです。未定です。
情報を先出ししておくと、思春期に教育に悪い叔父の英才教育を受けてしまいヤバい人間に仕上がっているはず。たぶん小学校高学年〜中学生でスラッシュメタルをめちゃくちゃ聴かされている。
性格・職業・人間関係
外見や文体から想像される10倍は社交的な人間。不機嫌そうな面をしているが、付き合いがよく、物怖じせず距離をつめ、初対面の相手の前髪もめくる。
自分で「おれには才能があった」と思えるほどには高慢だし、要領の良さと、実力と、運と、(片親だったが)家族関係に恵まれていた。母親のいない家庭で育ったため、当時の独身男性としてはまめまめしく家事をこなす生活力がある。でも基本的に金で買ったほうが早いものは金で解決する。
新しいもの好きのガジェットオタクで、80年代に出たばかりのヘッドレス・ベースに飛びついていた。情報アンテナの感度が高いので、CMソングの制作が得意なのも納得できる。
歩(恋人?)との関係
p.07-08 一瞬だけ登場する恋人? 一人暮らしのリビングに恋人といちゃつけるサイズのソファを置ける生活をしている説明のためだけに登場した人物。性別がどうでも良かったので、どうとでも取れるような名前と記述にした。歩(あゆみ)さんまたは歩(あゆむ)くん。
もし歩が女性だった場合、平成元年当時の27歳前後の年齢は結婚を急ぐ瀬戸際の年齢だったが、ヒサシには結婚する気がまったくないので(つまり単に人恋しさを埋めるためにキープしている関係だった)、1990年に『ファング』のツアーをしている隙に愛想を尽かして逃げていった。
(歩が男性だった場合は、1989年の世相から同性愛への風あたり・同性愛者自身が抱く葛藤は非常に大きかったと思う。作中に特にその葛藤が描かれていないので、やや女性の確率の方が高いか)
歩の性別にかかわらず、ヒサシの価値観が 恋人(家族の形成)<<< 友達・音楽 のため、いずれにせよ破局する関係。
ファング(友達)との関係
「失敗した『フラジェル』」(Drive to Plutoの田邊と聖の関係)を書こうとした。
ただし、『フラジェル』は「成功」の話ではない。あの作品は「別の失敗」を描いている。
本作からオカルト・ファンタジー要素と音楽表現を取り除けば、ここに書いたものは「福祉にアクセスできなかった人間の破綻」であり、その原因は社会の機能不全だ。たとえばヒサシがファングを支援してヒモにすることは金銭的にできただろうけど、自助によるその場限りの解決は、苦悩の原因である社会構造を変えることができない。それにそもそも自助を選べるほど「恵まれた」人はそういない。
だから私は「自助」による「個人間の愛(美談)」の話にはしたくなかった(そして『フラジェル』は自助を選んだ者につきまとう苦みの話だ)。
本作はファンタジーだが、例えば福祉でも自助でも救えずに「悪」によってしか助けられない人がいることを、私は(社会は)どうしたらいいんだろうか……という読み方もできる。
モデル(ではない)
※この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。
はい、「福岡県から出奔してきた脱・九州男児のバンドマン」のキャラ造形は完全に自分の趣味です(主に犬みたいな名前のバンドと箱に人が入ってそうな名前のバンド)
付け加えれば「ベーシスト出身のプロデューサー」というのも完全に趣味です。
前述の犬みたいな名前のバンドのプロデュースをしている亀みたいな名前のPがいて、有名な作品だと林檎みたいな名前の人と東京みたいな名前のバンドを組んでベーシストとして参加している方です(伏せ字の意味ある?)
※この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。
余談も余談ですがその亀みたいな名前のベーシストの方が「11月11日」の日付の並びを4弦に見立てて「ベースの日」と呼んで、クラウドファンディングで資金を集めて日本記念日協会に「ベースの日」を登録しました。
つまり、へ音記号のここ:投げ祭は間接的に亀だ――……!?
※この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。
やめよっか。
謙太(在原謙太郎)
「中立・中庸」、事なかれ主義とまではいかないが、基本的に静観しているタイプ。友達2人の奇行を止めず「いいんじゃない?」と眺めている。
『ミッドナイト・ヘッドライト』のジゾ君(青野の友達)のような「めちゃくちゃ良い奴」枠のつもりだったが、ギタリストとベーシストがアレすぎるし謙太の物語は描いていないので霞んでしまったかもしれない。
ネタバレを防ぐためSNSのかわりに執筆中のぼやきを全部メモしていた手元のメモには「在原謙太郎に心配かけた罪で叶と太陽は市中引き回し&打首」と書かれている。
「担任の趣味でしかない曲を合唱コンで自分のクラスの生徒に歌わせる1組の叶先生(保護者への面は良いので大人からは信頼されているが生徒は皆2組の在原先生がよかったって言ってる)」とも書かれている。
煙草はセブンスター。割とチェーンスモーカー。2001年時点ではどうだろう、禁煙するとしたら苦労しそう。
ファイネッジレコーズ事務所にも顔を出したいとは思っているが、ゴキブリが苦手なので足が遠い(『オトノヨキカナ』作中で事務所にゴキブリが出る描写がある)
ほかフナムシなど、足がワサワサして素早い小動物が苦手。
ほか「痛そうなもの」が苦手なのでホラーも嫌い。ピアス・刺青などファッションとして興味はあったが、痛そうなので絶対無理(p.17, p.27「怪我すんなよ」という気遣い)
実際の痛みは耐えられるので、本人が怪我をしても案外ケロっとしている。予防接種は注射よりも予約の電話を入れるときのほうが憂鬱。
出身・家族関係
東京都江戸川区出身。最寄りは新小岩・小岩のあたり。千葉に近い地域で、東京のなかでも「文化」がなく、「東京」にコンプレックスを感じるエリアの出身。
そういうわけで? 多分マックスコーヒーに親しんでおり、貸しスタジオのマズいコーヒーはマックスコーヒー風に砂糖とミルクをめちゃくちゃ入れて飲んでいた。
たぶん高卒。偏差値はぜんぜん高くない。出身中学・高校の治安が良くない+時代もあいまって未成年喫煙もしていたはず(この時点でジゾ君枠は無理では?)
実家に住んでおり、家族関係は悪くはないが、フリーターではなく安定雇用を望まれていた。
謙太のライブハウスについて
『ファング』作中では尺の都合で書けなかったが、せっかくなので上述の本来の新刊(『A』)で登場させたいなと思っている。
ライブハウス SHADE(シェード)
2000年ごろに開業。吉祥寺のあまりライブハウスのない駅南側のエリアにある。(地域未定のため、しれっと別の場所に移すかもしれない)
キャパ100〜200程度。はじめて音楽をやる・はじめてステージに立つという若手や、市井のアマチュアミュージシャン、ライブハウスで音楽を聴く体験に親しみのないお客さんにとっても居心地の良い場所になればな〜と思っている。清潔感第一で分煙している。
地元江戸川ではなく、結局中央線の「東京」カルチャーに与しているので、本人も葛藤も抱いているかもしれないが、彼にとっての青春は「江戸川にいた自分」ではなく「高円寺にいた自分」だったし、吉祥寺なら上京してきた学生さんもアクセスしやすいだろうという判断から出店した。どこかのライブハウスグループのフランチャイズ営業ではなく、独立した出店。
ハコの名前は、ビーチパラソルや木漏れ日の快適な日陰で日陰者たちも楽しく過ごせるように……という意向だが、まあ「太陽」と「庇」を内包している(それを意識して謙太が命名している)
とりあえずドラムセットはカノウプス。お金を払うと店長(ドラマー)ごと借りられるシステム。セッティングは店長の趣味。ドラムセットに星型(★)のエフェクトシンバルがある。
ファング(木場太陽)
しれっと登場して特大の爆弾を着火させた既存登場人物。
「混沌・善」のやべー奴。(結果を問わず「よかれと思って」の善属性)
契約について作中で語っていないことはまだあるので、いずれ山川夜高の別のタイトルの作中で語られることでしょう。
※シーサイドブックスの作品は全作品がつながっています。
1990年以降は「太陽」の方で呼ばせている。ヒサシと謙太は「木場」と呼んでいる。
煙草は周りの人から恵んでもらっているので自分で買わないが、初期案ではラッキーストライクだった。ファイネッジレコーズ内ではまったく吸わない(事務所にねこちゃんがいるからね)
アシッドもやったことがある(もらった)。1990年以降は旅先でシャーマンに進められるままペヨーテ等もやってみた。
※この作品はフィクションです。実在の人物・地名・団体などとの関係は一切ありません。また犯罪行為などを助長する意図は一切ありません。
多分(作中の出来事に関係なく)アルコールや医薬品の耐性が妙に高く、毒も薬もあまり効かない体質。アルコールの酩酊作用はよくわからないが、飲み物としての味は好き。
出身・家族関係
不詳。p.26下段の描写から「良くない」ことが察せられる。出身地は秘密。
どうも木場(きば)姓はあまりいない or もしかしたら実在もしない? らしく、鹿児島県東部に木場(こば)姓が見られるらしい(裏取りをしていないインターネット情報)
名字の字面は「太陽」に合わせたものだし、現在は存在しない東京都のライブハウス「新木場 STUDIO COAST」からの意味合いが強く、つまり東京都江東区の地名である木場(きば)・新木場(しんきば)に由来している。
なので木場(こば)姓と叶姓との分布の近さ(鹿児島県)は関係ないけど、p.17の焼酎は一応鹿児島県産。
本編で書けよって話だけど、聖(Drive to Pluto)のことは皆が思っているよりもけっこう気に入っているというか気にかけているんじゃないかと思う。
青野理史(あおの・さとし/Drive to Pluto)
ファイネッジレコーズからプレスしているインディーズロックバンド Drive to Pluto のベーシスト・作詞家。
ファンサービスとしてパワハラされるためだけに出演。
シリーズ未読の方には「誰だお前!?」ってなる登場人物。イラストでの露出回数が多いので、片目隠れ青年として見た目だけは知っている読者もいたかも。
最初はパワハラ描写はなく、本当に普通に対話して終わりだったけど、途中で手が出てしまった。叶は p.8 でも雑に手を出していたし、まあやっぱり悪人だと思う。
「ファンを名乗る初対面の中年男性に青野クンが前髪をめくられるシーンは涙なしでは見られませんでした!」
じっさい叶は若手ミュージシャンの心配をしているし、「飢え死にはさせない」(p.36)という覚悟は本当のもの。
小説『ファング』は作中モチーフが『ミッドナイト・ヘッドライト』(青野視点による Drive to Pluto 結成の話)といくつか重なるようにしている。誘われた手を取る・取らないなど、要素を読み比べてみると面白いかもしれない。
(手元のメモ帳には小説『ファング』について「汚いミッドナイト・ヘッドライト」と書かれている)
毛利信護(もうり・しんご/モールス)
シリーズ未読の方には「誰だお前!?」ってなる登場人物2。小説『Drive to Pluto』シリーズの若手カメラマン。モールスはあだ名。
出身は高円寺、なので子供時代に『ファング』の面々とニアミスしてた可能性はある。
詳しくは小説『Without Your Sound』を参照。
あとがき
振り返ればまあ楽しかったですね。普段聴き馴染みのない音楽ジャンルを聴いたり、舞台となる街を散策したりその街の図書館に足を運んだり、冒険しながら書いている気分でした。
ロックは、そのはじまりから奴隷として無理矢理に連れて来られた者たちが携えてきた、権力者(アメリカの白人と、彼らの教会音楽)にとっては不穏に感じられるリズムや旋律をルーツにしています。1950年代にブルースとフォークを祖にして生まれたロックンロールは、権力者(親)たちからは若者を性的にかどわかす「邪悪」なものであるとみなされて嫌悪されてきました。つまりロックという思想は、快適さや秩序の維持とは真逆の存在で、そのはじまりから「邪悪」なものだったと考えています。
そしてロックに宿るのはキリスト教徒にとっては異教の神で「悪魔」扱いされる霊性だったからこそ、ロックは清らかな救いを信じることのできない弱者や反逆者を「救える」のではないかと、自分もロックの「教徒」として思います。(今回のファングの救われ方は酷かったけど、たとえば快適な音楽を嫌悪して、スラッシュメタルに傾倒するヒサシのような人生)
『Drive to Pluto』の小説では、ロック・ミュージックを「邪悪」な謎に満ちたエネルギー(魔力)として描きます。なぜなら私はそのように信じているし、私の描く登場人物は多かれ少なかれ世間からはハズレており、彼らは「邪悪な神」(への執着)でしか救われない、ように感じています。(過去作『flat』ではそれを「怪物」と表現しました)
なによりも、この文化・この世界は、美しくて楽しいです。とても。
というわけで「ロックは邪悪な魔力である」というのが本作のステートメントでした。
自分の既刊作品は、ビザールな西洋風ダークファンタジー(スーツの美男子の品の良い会話劇)の『Cipher』、現代日本(といっても2010年代舞台だが)の大学生という親しみのあるモチーフで表紙のイラストも爽やかな『Solarfault, 空は晴れて』です。
今回の赤黒白の攻撃的な配色、ガラの悪い成人男性の表紙イラスト、1989年のバンドマンという誰得なモチーフの『ファング』が、いったい本当に面白いのか、話の筋書きはシンプルだし、視点人物は悪いこと(サブリミナルコンプライアンス違反)してるし、ガチのオカルトが出てくるし、読者がはたして着いてきてくれるのか非常に疑問で、不安な日々を過ごしました。
そもそも木場太陽やら青野理史やら、『Drive to Pluto』の既存の登場人物が主軸なので、『DtP』未読の方が着いてこれるだろうか、究極的に言えば 木場太陽(作中インディーズレーベル社長のうさんくさいおっさん)の過去話なんて誰得なのか という不安がありました。
頂いたご感想を読むと、『Drive to Pluto』未読の方やロックカルチャーに興味がない・詳しくないという方もお楽しみ頂けたようで、たいへんうれしく、胸をなでおろしています。
本作執筆では、テキストファイルの差分管理にGitを使用し、GitHubのリモートリポジトリと作業用Discordサーバーのチャンネルを組み合わせた監視所を作りました。リモートリポジトリにpushがない(=その日の進捗がない)とDiscordのメンバーにバレるという仕組みです。本作が無事に発表できたのは、この監視システムのおかげでした。
エディターはVS Codeで、今回から novel-writer プラグインを導入しました。各種便利機能のほか、これで1回の作業文字数(増減)がわかり、作業時のモチベーション維持に役立ちました。
印刷製本作業は苦痛を伴いましたが、特殊印刷などやりたいことはやれました。
一般的に2段組の文章は没入感を妨げ読みづらいものですが、本作は2段組による「予算ない感」「チープさ」も作中の雰囲気や事象にはまったかなと思います。
細かな点ですが、本文書体の「本明朝」も、この物語の組版に使用して良かったと思います。「本明朝」は1982年の写真植字時代からある本文書体で、1989年が舞台の本作に対して、程よくそっけなく、かつ読みやすく、80年代風の書物の風合いをプラスする良い仕事をしてくれたと思います。
『ファング』をお読み頂きありがとうございました。
またこの蛇足の長文もお読み頂き本当にありがとうございます。
今後、『Drive to Pluto』シリーズやその他の作品(※シーサイドブックスの小説は全作品がつながっています)で、『ファング』を前提とする物語を発表する予定です。
ぜひ引き続きシーサイドブックスの大洋の航海を一緒にお楽しみいただければ幸いです。
For some day our ocean will find its shore
(いつか僕たちの海が同じ岸辺に波寄せるまで 意訳・山川)
イラスト・セルフ二次創作・頂いたご感想はこちらにまとめています。
まとめクリップ
『ファング』関連 (Misskey.design)
2024.5.19発行 小説『ファング』のご感想・頂いたFAや、読了者向けの補足情報・プレイリスト、セルフ二次創作/クロスオーバー作品などをまとめています。
※ネタバレ注意
お読みいただきありがとうございました。