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海辺新聞 号外:誕プレに「自創作アンソロ」サプライズプレゼント

2024年11月30日の誕生日に、私・山川夜高は「山川夜高作品オールジャンルの二次創作アンソロジー」を頂いてしまいました。いまからその話をします。

私の誕生日は11/30で、12/1に御本をいただいたのに、ブログ記事のリリースは半月後です。そういう文字数なので、お時間のあるときにお楽しみください。


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どういうことなのか

とにかく手短に言うと

誕生日プレゼントとして、総勢8名の方から、山川夜高の小説作品によせたファンアート(絵・小説)を1冊の本にしていただき、サプライズで頂きました。

A5フルカラー30ページで物理に存在する本です。本当にありがとうございます!

詳細を記すと

2011年4月から連載しているWeb小説『これは物語ではない』〜 2024年5月に発表した最新作の小説『ファング』(シリーズ『Drive to Pluto』関連作)までの山川夜高の小説作品のファンアートを、総勢8名の方からプレゼントしていただきました。

この10年ちょっとの間にSNS(Twitter、Misskey.design鯖)やその他の場所を通じて私および主催者と交流のある方々が作品を寄稿してくださりました。

 

主催は小町紗良さん有智子さんです。

小町紗良さんは、私が昨年2023年の小町さんのお誕生日に本当にガチャを回せる誕生日ピックアップガチャをリリースしたお相手です。

 

▼ピックアップガチャを贈った話の詳細はこちらの記事をご覧ください

リリース:小町紗良誕生日PUガチャ

 

▼ガチャを貰った小町さん側の記事はこちら

一次創作オタク、誕生日にファンアートのピックアップガチャをもらう

https://note.com/srxxxgrgr/n/n4828c7319610

 

本件アンソロの制作の動機は「ピックアップガチャへのお返し」だったそうです。人生、何があとに響くか分からないものですね(誕生日プレゼントにピックアップガチャを贈るというのもよくわからない話ですが……)


開封の儀

2024年12月1日開催のイベント「文学フリマ東京39」に出店しました。

イベント閉会後、山川のブースにお手伝いに来ていた小町紗良さん(ジャズバンドの小説『Diamonds Are a Girl’s Best Friend』を私のブースで販売していました)、出店者の風野湊さん と打ち上げの店に移動。

その日の朝に小町さんから「誕生日プレゼント持ってきたけど、打ち上げの席で渡すね」と言われていました。イベント開催時間中に手荷物が増えるとあたふたしてしまうので、打ち上げの席でプレゼントを渡すというのは普通の気配りだと捉え、なにも深読みをしていませんでした。

 

何も知らない山川「プレゼント何かな〜。株券かな? 不動産かな?」
全部知っている小町さん「そうかもね」

 

仕掛け人の小町さん、作品を寄稿したので事を知っている風野さん、何も知らない山川で「おつかれさまで〜す」と乾杯する。

写真:乾杯する小町紗良さん(左)、風野湊さん(右)、山川(手前・撮影者)

そのあたりで小町さんからプレゼントとして茶封筒が取り出される。

ん? なんか、そこそこの厚さの紙束……

何かを察知して、封筒から取り出しきらずに(きれずに)中身をチラ見する。なんか十字の意匠と『Crossroads』っていう文字が見えて、なんか青い。

写真:封筒からアンソロジーを少し取り出したところ

何も知らなかった山川、このあたりから「ちょっと……ちょっと待ってくださいね?」「ちょっと待って」「ちょっと待ってね?」しか言えなくなる。異常事態に直面すると、日頃小説を書き慣れてようが人は“ボキャ貧”(貧相な語彙力)と化す。

何も知らないのにマトモに直視すると「衝撃」がデカそうと思い、封筒から中身をちょっとずつ取り出していく。このまま見たら大変なことになる気がして、一旦裏返す。

写真:アンソロジー裏表紙

ええ〜〜〜〜! 有智子さぁん!?!?

表紙が エスプリVエンボス アラレ だ〜〜!?

ねこちゃん!!!(小説登場猫の松田くん・マスコットのねずみちゃん)

カワイイ〜!!!

 

で、表紙がこちらです。

写真:アンソロジー表紙

ええ〜〜〜〜〜!!?
有智子さんの海と有智子さんの長髪イケメンではない普通男子〜〜〜〜!?!?

 

何も知らない山川が動揺している間に食事が席に届いてしまう。とりあえず、カキフライと一緒に撮影。

写真:アンソロジーと注文したカキフライ

表紙をめくったらなんだかすごくキラキラしたファンシーペーパー(ミランダ あい)が遊び紙に使われている。事の重大さの割に頭の片隅は冷静で一歩引いていて、「ひとに選んでもらう『ミランダ あい』ってだいぶ『山川夜高の概念』だな……」などと思っていた。

目次ページを見たら表紙の有智子さんを含めて総勢8名がご参加されていた。うち参加者2名は目の前にいる(小町さん・風野さん)。
他の参加者、深夜さんも今日文学フリマ東京の会場でお会いしてきたし、ハトバさんも秋のコミティア140でご挨拶してきたし、ってことはマジで私だけ何も知らずにのうのうと世間話をしてたってこと〜!?

写真:寿司を見つめるねずみちゃんの後頭部

そうこうしている間に注文していた寿司が届き、わ〜い、になりました。


各作品紹介と感想

まずは本当に、こんなに大勢の方から作品を頂き、本当にありがとうございます。制作期間中と思われる時期に、体調を崩したり忙しくしている方々もいらっしゃったので、不調やご都合をおして作品を手掛けて頂いたことを恐縮に思います。

 

アンソロジーに参加してくれた方で、互いに活動を存じない方もいらっしゃると思います。また山川夜高の作品についても、全作品を読んでいる方は少ないと思います。

この記事では、各作品の制作者の紹介・山川夜高の原作の紹介を、各作品の感想と合わせて掲載いたします。

※制作者からWebで公開された作品は埋め込みリンクで表示させています。今後Web公開作品が増えたら追記します。

 

▼有智子さんの記事(経緯の解説)もどうぞ

山川夜高さんのお誕生日アンソロジーに参加しました日記

https://xfolio.jp/portfolio/7_ank/fan_community/102885

 

装丁(有智子さん)

書籍装丁(紙選び)、編集、DTPなど、書籍の制作は有智子さんのご担当だそうです。ありがとうございます!

表紙のエスプリVエンボス アラレは、光に反射する水面にもオイルペインティングのマチエールにも見えるエンボス加工の特殊紙です。いつか自分の作品に使えたらと考えつつも、PP加工ができないので書籍表紙での使用を見送っていました(紙同士がこすれると色落ちするリスクがある)

だから今回アンソロジーの装丁に使用されたのは全くの偶然なのですが、とても嬉しかったです。

遊び紙のミランダも、「自分では作品に使わないけれど、他者から『山川夜高のイメージ』として起用されたらとても納得ができる」という絶妙なチョイスでした。自分だったらカラートレーシングペーパーを使ってそうです(自分でラメを選ばないと思う)

 

表紙絵:Drive to Pluto / 松田くんとねずみちゃん

▼画像はこちらからご覧ください

https://xfolio.jp/portfolio/7_ank/fan_community/102885

原作紹介:『Drive to Pluto

1997年結成・2006年に活動を停止したインディーズロックバンド「Drive to Pluto」をめぐる「逸話」集。

表紙は左から、(Drums.)田邊徳仁、(Vocal/Guitar)秋山聖、(Bass.)青野理史

裏表紙は小説作中に登場する猫の「松田くん」と、うちのマスコット的立場のねずみちゃん。

制作者紹介:有智子さん

Website https://www.7ank.art/
Misskey https://salmonjerky.net/@7_ank
(以前のアカウント https://misskey.design/@7_ank

今回のアンソロジーの主催者。イラストと漫画で活動されており、ノブレス・オブリージュを体現したような長髪美形男子に定評がある。長髪イケメンという言葉は多分有智子さんのためにあります。

「うちの0っていうキャラクター、長髪じゃないけど超絶美形男子ですよ」とプレゼンをかけたら『Cipher』を購入してくださりました。ありがとうございます。

有智子さんに描いていただいた0
『Cipher』読了後に頂いたX
有智子さんにまた描いていただいた0
『ファング』の読了後にいただいた絵

以上の説明のとおり、有智子さん自身の創作には、海・カジュアルな雰囲気・現代日本の一般人のモチーフは全然登場しません。普段の作風の守備範囲外にもかかわらず、Drive to Plutoを描いてくださりありがとうございます。

全員の顔がみえない絵になっているのが、カジュアルなんだけど語られざる余白があり、夏ではない海の青さと海風の強さ・冷涼さを感じます。こういう距離感で海辺にいる野良猫っているよなあと思いました。

それと有智子さんのお住まいの最寄りの海は私がよく行く東京湾・相模湾ではないので、ここに描かれた海の青さから、異郷の予感を感じています(思い込みかも)

 

裏表紙の松田くん(猫)とねずみちゃんも、松田くんふわふわ・ねずみちゃんもちもちでかわいい……有智子さんはあまり動物やマスコットを描かないので珍しいです。

ありがとうございます!

 

p.3 絵:ファイネッジレコーズ

原作紹介:ファイネッジレコーズ

小説:『Drive to Pluto』『ファング
キャラクター紹介:創作バンドまとめ

Drive to Plutoが所属する、架空のインディーズレーベル「Finedge Records(ファイネッジレコーズ)」の所属ミュージシャンたち。

中央:木場太陽(社長)

左:「Drive to Pluto」青野理史、秋山聖、田邊徳仁
「This Earth Is Destroyed」明日未、抱っこされてる松田くん

右:「環-Tamaki-」土家泰寛、弟子丸魁、和田幹央、嘉嶋元気

制作者紹介:11号彗星さん

リンク集 https://lit.link/11thcomet
Misskey https://misskey.design/@11thcomet

ロックミュージックにも造詣のある、主に絵で活動されている方。平成味を感じるレトロポップ・クールな画風で、私は この絵がすごく好きです

『ファング』制作中、キャラ造形の深堀りのために描いたヒサシの絵に対して「Axstar使っているスパイスカレー好きのベーシストは絶対変態だろう」的なコメントをいただけたのが、本当に制作の励みになりました。私の中では『ファング』のスペシャルサンクス枠です。

『ファング』読了後に頂いた バンドメンバー3人(ファング、ヒサシ、謙太)の絵 がとても良かったです……

ギャングの事務所!?!?

ちがった、ただの弱小インディーズレーベルでした。

 

p.2の目次を見ようとしたらp.3のこの絵が飛び込んできて本当に一瞬そっちの事務所かと思いました。COOLすぎ……

「引率の太陽先生と若者(生徒)たち」というコメントを頂いていますが、目を離したときに最初にどっかいなくなってるのは引率の先生というのはここだけの秘密です。

 

キャラクターデザインは確かに私なんですが、全人物がすごく良い意味で、11号彗星さんの世界観にチューニングされていて、「アレンジ」としての二次創作の醍醐味って感じがしました。

画面右側のいつもは目が点 ・ヮ・ の人(和田ちゃん)や笑顔 ^▽^ の人(嘉嶋)のアレンジは、作者自身も「あっ こうなってたんだ〜」と目からウロコ?でした。

 

『ファング』を書いたあとに思ったのですが、この男が「良い」と思った若手バンドは良いに決まってるんですよね……と、皆の眼差しや面立ちを見ながら改めて確信しました。

文字通りに紫煙の「煙に巻かれるような」魔力のある絵をありがとうございます。

 

p.4 絵: 『Cipher』/ p.5 絵:『Solarfault, 空は晴れて』

原作紹介:『Cipher』

小説:『Cipher

全ページが黒い紙に印刷された「読めない本」。場末の酒場のピアニスト・Xと、人気の悪役舞台俳優・0の交流を描く。

左:0、右:X

原作紹介:『Solarfault, 空は晴れて』エクリさん

小説:『Solarfault, 空は晴れて

青い小口染め加工の小説本。マジックアイテムの「青い水」を挟みながら、小説を志す青年「ぼく(ハルキ)」と恋人の「エクリさん」の関係を描く。

制作者紹介:ハトバさん

Webサイト https://kudenhonpo.sakura.ne.jp/
Misskey https://misskey.design/@nabelhouse

ポップな画風のイラストを描かれている方。「小説コミック」として、ゲームの会話ログやリプレイのような会話劇で展開するストーリー『神経魔術師』を連載中です。

以前描いていただいたLive2Dアニメーションのセレスタ(小説『これは物語ではない』登場人物)をどうかご覧になってください。

11月のコミティア150に、私はハトバさんのサイバー×ロックの創作『NOiZ』のキャラクター ヴィーさんのファンアート を描いて差し入れに持っていきました。でも、そのときにハトバさんはすべてをご存知だったんですね……

この2作品は本で見開きに掲載されており、テイストの異なる2作品(でも書籍作品という共通点がある)が同時に目に飛び込んでくるのが鑑賞体験としてすごく良かったです。

『Cipher』の方はハトバさんの画風によって私の絵柄よりもポップな印象になっているのですが、色数の抑制が効いていてとてもオシャレです。すごく良い意味で「グッズ展開ぽい」と思いました。ハトバさんの絵柄は三白眼や力強い目が印象的ですが、Xのようなハイライトなしの黒い目も静かな良い出汁が出ています。

『Solarfault〜』のエクリさんも描いていただきありがとうございます!
『Solarfault〜』はあまり絵の更新というかキャラいじりをしない作品なので、私の作品の中でも影が薄いと思っていたのですが、今回のアンソロジー内で『Solarfault〜』のことも忘れられていなかったことが嬉しいです。

私はハトバさんのキャラクターのイェッタさん(『神経魔術師』登場人物)のような「ミステリアスお姉さん」の表現がとても良いなと思っていました。この機会に彼女を描いて頂き本当に嬉しいです! 含みのある印象的な表情で、ずっと見ていられます。変な着眼点なのですが、青い世界のなかで彼女の頬の血色が良くて、とても嬉しい(?)と思いました。

2作品もいただき、ありがとうございます!

 

p.6 絵:土家(環-Tamaki-)

原作紹介:環-Tamaki-

「環-Tamaki-」土家泰寛(つちや・たいかん)
キャラクター紹介:創作バンドまとめ

Drive to Plutoが所属する架空のインディーズレーベル Finedge Records 所属のマスロックバンド「環-Tamaki-」のボーカル・作詞・ギタリスト。寺生まれでイニシャルがT。

制作者紹介:些々細さん

ブログ http://srwminus.blog87.fc2.com
Misskey https://misskey.design/@_ntn_slp

日本の田舎の異界(和風)、西洋風の世界、地方都市のバンドマン(現代日本)の絵を描かれている方。以前開催した架空のバンドマンによる架空の年越しフェス「No Exists!」では大変お世話になりました。

本当に今までたくさん私の創作の人物を描いて頂いています。本当にありがとうございます。
ファング、ヒサシ、謙太(『ファング』)
カシマ(環-Tamaki-)
聖(Drive to Pluto)

絵の第一印象が「悟ってる?!」でした。ニルヴァーナ(オルタナ)ってことですか……!?

些々細さんは日頃「印刷画質に満たない低解像度キャンバスで描いている」とおっしゃっていたので、まさか印刷物のアンソロジーに絵を寄稿されると思わず、本当に驚きました。

寺院の金と朱色の画面が荘厳なのですが、きらびやかすぎず、些々細さんの和風創作の『かのきし』のような「不穏とまではいかないけれど翳りや含みのある」感じが非常に印象的です。柄シャツにも晩秋を感じて、素晴らしいチョイスだと思います。撮影にスタイリストさん入ってますか?

後述のp.7の絵とあわせて、この見開きは同時に鑑賞すると、とても良い感覚になります。

ツッチーを推していただきありがとうございます。はやく小説で動かしたいです。

 

p.7 絵:荻原(小説『これは物語ではない』)

原作紹介:小説『これは物語ではない』

小説:『これは物語ではない
登場人物:荻原(おぎわら)

2010年代の東京のベッドタウンを舞台にした不条理群像劇。バンドDrive to Plutoは『これもの』の作中作の扱いだった。
画中の人物・荻原は、活動停止後のDrive to Plutoのファンである高校生・八月一日(ほずみ)の友達。ゴシックファッション(ロリータやゴスロリではない)を愛好する女子高生。

制作者紹介:あたのさん

Twitter https://x.com/atanonata
Skeb https://skeb.jp/@atanonata

普段は『東方Project』の絵を描いている方。昔々、スケッチブック1冊まるごと私の小説のFAで埋めてくれたことのあるどえらい偉人です。

今までお願いしたSkeb(ものすごい数をリクエストしている)
セレスタ(小説『これは物語ではない』)
田邊、聖、青野(Drive to Pluto)
明日未(This Earth Is Destroyed)
カシマ(環-Tamaki-)

そろそろSkeb依頼しようかなと思っていたら作品が収録されていてとても驚きました。

この彩度の低いミントグリーンの絵が、先述p.6の金・赤の些々細さんの絵と見開きに表示されていてとても良かったです。印刷所の特性で目やリップのピンクの発色がかなり良くて、印刷物でも印象的な画面でした。

こんなに余所行きの格好をした少女がどうして背の高い茂みのなかに立っているのか、どうして空が重い曇り空なのか、彼女が親しげな笑みを向ける先には誰がいるのか、というのは、小説『これは物語ではない』に直接そのシーンがあるわけではないのですが、読んだ方なら頭の中でこの絵の物語を組み立てられると思います。

もしこのアンソロジーが手元にあって、まだ『これは物語ではない』を読んだことのない人はぜひ読んでほしいなあと改めて願いました。

いつも本当にありがとうございます! あたのさんのSkebおすすめです(宣伝)

 

p.8 小説:『ここにない話をする』(『これは物語ではない』)

原作紹介:小説『これは物語ではない』

小説:『これは物語ではない
登場人物:404号室の3人

2010年代の東京のベッドタウンを舞台にした不条理群像劇。あるマンションの404号室の住人・帆来くん、そのへんにいた謎の透明人間・ザムザ、なぜか喋らない少女・セレスタの生活を描く。

制作者紹介:深夜さん

Twitter https://x.com/bean_radish
カクヨム https://kakuyomu.jp/users/bean_radish

怪奇小説、都市伝説に題を取った小説、探偵もののパスティーシュ小説などの作品を書かれている方です。

昨年2023年11月、「喋る生首」を主題とした連作小説『首の夢』の15話「猫」で、山川夜高の小説世界のオマージュを書いていただきました。
そのときのブログ記事:2023年11月に頂いた作品まとめ、または膝に猫を受けた話

『首の夢』以前・以降も度々「喋る生首」を主題に書かれています。つまり生首属性の方です。

ザムザ君、そんな姿になって……!(透明人間だから首だけになろうと見えない)

深夜さんがやりたい主題(生首)を通すことと、原作ありきのパスティーシュであることを両方叶えているので、小説がうまい! と、とにかく思った作品です。

生首は深夜さんの属性だし、冒頭はザムザの名前の由来であるカフカ『変身』を援用しているし、ところどころ山川夜高の文体を参照しているのがわかります(一人称文と三人称文のシームレスな接続、合間合間に入るラフな言葉遣いが、明らかに『これは物語ではない』の文体です)

私にはパスティーシュや二次創作の経験がないので、もし逆の立場になったときに、こんなにうまく書けないだろうと思います。

p.11

セレスタは『いつにする?』と期待の滲んだ青い目をほころばせた。少しだけ先の話をするとき、この子供は都市相当の高校生らしさと呼ぶにはいくらか幼い表情を見せる。

大人(ザムザ)から少女(セレスタ)への慈しみと、少しの彼女の弱さ・柔らかさみたいなものを見出してくださり、ありがとうございます。

 

ストーリーのフラグ回収などの諸般の事情により『これは物語ではない』の情報露出や更新が少なく申し訳ありません。文体などが荒削りで古いけれど、大事な作品なので、ぜひ、この記事を読んでいるなかで『これもの』未読の方には読んでほしいと願っています。

素晴らしいパスティーシュをありがとうございました。

補足1:書籍掲載のあとがきについて

私が携帯電話(スマートフォンではなく、フィーチャーフォン)でHTMLをベタ打ちしてWebサイトを作ってたのが2008年8月8日、『これは物語ではない』1話を公開したのは2011年4月1日でした。

そのときの最初のサイトの名前が「lib」で、現在のWebサイトのURL「libsy.net」に名残があります。

「携帯サイト lib」時代を知っている読者は本当に限られていて、このあとがきの内容は Twitter や Misskey.design から山川と交流を持った方は知らない話です。

そういう貴重な過去の思い出が印刷物として書籍の紙面に残り、SNSから山川の作品を知った方にも、思い出話が届いたことが非常に感慨深いです。

同時に、昔からの人間関係にとどまらず、自分の知らなかった世界とも日々交流を重ねていけることにも、大変感謝しています。

補足2:深夜さんの小説『面霊気』

深夜さんの怪奇ブロマンス小説『面霊気』で、語り手に多大な迷惑をかける根無し草の疋田くんが、山川の小説『ファング』のせいで最初はバンドマン設定になるところだったという没設定があるそうです。
深夜さんのX投稿(2024/6/10)

怖いですね〜。

 

p.14 小説:『Believe it or not.』(クロスオーバー)

原作紹介1:山川夜高の小説

これは物語ではない
Drive to Pluto
Solarfault, 空は晴れて』収録作「水底の街について」「あとがき」等

山川作品はすべて同じ世界観・ルールで動いていて、作品同士に関連があります。『これは物語ではない』(作中2010年代)に登場する活動を停止したロックバンドが Drive to Pluto の初出です。

『Solarfault, 空は晴れて』は『これもの』の“一方そのころ別の場所では”として書かれた小説で、ルールや下敷きにしているものが共通しています。
『Solarfault〜』収録小説の「あとがき」(書籍版のみ収録している、そういうタイトルの小説)に登場するロックバンド SIGNALREDS は、 Drive to Pluto と同時期に活動していた架空のロックバンドで、2010年代以降(きっと2020年代もその先も)引き続き作中で活動している設定です。

原作紹介2:小説『新月をグラスに注いで』風野湊

小説:『新月をグラスに注いで

透明人間の少女・月代(つきよ)とサバサバした美容師・里沙の交流の話。月代ちゃんは山川の小説『これは物語ではない』の透明人間ザムザと比較すると、非常に弱々しく内向的なキャラクターなのが印象的。

風野湊さんの初期の小説作品で、私はこの小説がけっこう風野さんの作風を語るのに重要だと思っています。のちに発表された作品『竜の花嫁』『すべての樹木は光』と比較して読むと、発見というか、救いまたは可能性があるかもしれません。

制作者紹介:風野湊さん

Webサイト https://kokyushobo.com/
Twitter https://x.com/feelingskyblue
Misskey https://misskey.design/@feelingskyblue

純文学寄りの幻想文学(剣と魔法のファンタジーではないが、魔法は存在する)を書かれています。猫を崇拝し、樹木に並々ならぬ関心(執着)を寄せられています。ときどきこわいです

昨年2023年11月の山川の誕生日祝に、『Cipher』の二次創作小説として「『街』の野良猫になって『Cipher』世界を歩く猫視点二次創作夢小説」を頂きました。
風野さんは本業Webサイト屋で、この小説に用いたプログラムも自作されています。野良猫には決まった名前がないので名前変換はできませんが、好きな毛並みを選べるにゃん!(どういうこと?)

→ 猫視点Cipher夢小説『Gymnopedie

本作『Believe it or not.』は書籍をお持ちの方も、ぜひ、どうか、一旦この記事を離れて、Webサイト版をご一読ください。

Believe it or not.

 

読みましたか?

私は書籍を読んだあと、Web版を読んで「おい! Web屋!!」と叫びました。

またJavaScriptに猫がいるよ!!

 

風野さんの仕込んだ仕掛けは、本当に、「Web小説『これは物語ではない』」へのオマージュなんですよ。

山川の小説は、装丁(=テキストを掲載する媒体)と本文が相互に関係するのが特長です。黒い紙に印刷された小説『Cipher』が顕著ですが、その他の作品も、その媒体で発表することに強い理由や価値があります。

本作(Webサイト版)のスクロールに連動する色調変化は派手な仕掛けですが、それだけでなく、CSSによる組版(本文明朝体に挿入されるゴシック体)も、自分で言うけど明らかに『これは物語ではない』へのトリビュートになっています。

(小説に対するメタ情報ですが、JavaScriptの定数の命名もある意味で詩になっていて、これも「メタフィクションである『これは物語ではない』」へのオマージュを感じます。あとなんかソースコードに猫が4匹いるので開発者ツールを使える人は見物に行ってください。ニャーンじゃないんだよ)

 

風野さんによるオマージュ・トリビュート元の解説はこちらです。私の思ったことが全部書かれています。

https://misskey.design/notes/a1ht58n5p0v2681d

p.19

記憶に打ち寄せる波が、砂を幾度も平らに均し、すべての痕跡を流し去っても、そこに連れ立って歩いた誰かがいたことは、足音が刻まれた事実は消えない。

この一文にもすごく、すべての作品(に登場した海辺)へのオマージュを感じます。

一緒に歩いてくれてありがとうございます。

補足:『これは物語ではない』act.5 当時の評価について

act.5「眠りに着くまで」(最初から読んでほしいのでリンクなし)を発表したとき、風野さんには「難解で、何が書いてあるのか理解できない」みたいなご感想を頂きました。

(現在発表しているver.は初稿からちょっと読みやすく改稿した(=手加減してやった)原稿ですが、文脈をすっ飛ばして初見で読んでもまったく内容が分からないと思います。
「眠りに着くまで」はとくに技巧的かつ抽象的な内容を主題にしているからです。)

このアンソロジーへの寄稿のために、『これは物語ではない』を再読していただいたそうです。

そうしたら「読めた、意味がわかった」とのことで、 先の風野さんの Misskey.design アカウントのノートを引用すると

『Cipher』『Solarfault』『Drive to Pluto』『ファング』を通過した後で読むザムザさんの独白(act.3「ブラックバード」)と、act.5「眠りにつくまで」めちゃくちゃ良かったです

ということで、私は「でっしょぉ〜?」とデカい顔をしました。

 

そしてお話はまだ続いていきます。お話の路線が伸びたら、また同じページに戻ってきてください。

ザムザは読者を労うために待っています。

 

p.22 小説:『For He’s a Jolly Good Fellow』(クロスオーバー)

原作紹介1:小説『ファング』

小説:『ファング

1989年12月、根無し草のギタリスト・ファングの失踪を同じバンドのベーシストの視点で追った微・怪奇小説。2024年5月発行の山川夜高最新作。

原作紹介2:小説『駆け落ちはバニラの味』『Bの行方』小町紗良

小説:『ミス・ブルーのこと』
作品紹介(文学フリマ東京39 Webカタログ)
通販ページ

B(ベーシスト) 「駆け落ちはバニラの味」登場人物
ダン(トランペッター) 「Bの行方」登場人物
人物紹介用読み切り小説:「この街が淀んでるのは、ベーシストがいないからだ」

ギャングの息がかかっている治安の悪い海辺の街で、去っていく者たち・置いていかれる者たちを描く短編小説集。

制作者紹介:小町紗良さん

カクヨム https://kakuyomu.jp/users/srxxxgrgr
note https://note.com/srxxxgrgr
Twitter https://x.com/srxxxgrgr
Misskey https://misskey.design/@srxxxgrgr

今回のアンソロジーの主催者。最近は架空の外国を舞台にジャズミュージシャンの小説を多く制作されている。海外翻訳のティーンズノベル・ライト文芸のような作風だと思っています。テンポが良くてオシャレでキュートだけどビターな味わいです。

以前小町さんの誕生日祝に小町紗良・誕生日記念ピックアップガチャをプレゼントしたのが、今回の山川夜高誕生日記念アンソロジーのきっかけになったそうです。人生なにが起こるかわかりませんね。
(そもそも「小町紗良のピックアップガチャ」も、何度見ても 何? って字面ですが)

小説『ファング』の出来事のあとで世界を放浪するファングが、旅先の治安の悪い街で全身に刺青を宿したベーシスト・B、気の良すぎるトランペッター・ダンと一時の交流をする話。

このクロスオーバー作品の前には Misskey.design で私と小町さんがやりあっていた軽いジャブがありました。本作は(1)前提のクロスオーバーです。

(1) 小町さん作:Bとファングの小説(ダン目線)

「俺は十字路に立たない。ギター弾きじゃないからな」
https://misskey.design/notes/9tsiajet0w

(2) 山川作:(1)に対するイラスト

https://misskey.design/notes/9u6rk10vst

(3) 山川作:放浪するファングがパンクロックバンドのドラマーの女の子と話す小説

https://misskey.design/notes/9tvd3s0h4z

 

p.7 あたのさんの荻原の絵から『これは物語ではない』由来の作品が連続したあとで、2024年最新作『ファング』のクロスオーバー作品が最後に掲載されているのが、やっぱり書籍の掲載順が良いなあと思いました。p.3(本文最初のページ)の11号彗星さんの絵とあわせて循環を感じます。

『ファング』は最新作ですが、物語(私の小説は全作品に関連があります)の時系列順では過去の話(西暦1989年)というのも趣き深いです。

 

このアンソロ全体の感想にもなりますが、収録された作品の「祝祭感」がほとんどないように思いました。これは「誕生日記念アンソロジー」としてやや特異な特徴であると思っています。
いずれの作品もきっちりキメたハレの日か日常かで言えば、やや日常の方に転んでいる気がしています。深夜さん・風野さんの小説はなかでもとくに日常寄りで、「日常であるが不思議または異様」という落とし方をしているように思いました。
この「祝祭ではなく日常」という立場は、読者が、山川夜高という名義で発表された小説を読んで得た「山川夜高という人物」のイメージなのかなと思ったりもしました。

収録作のなかで一番祝祭感のある作品なのがこの小町さんの小説で、でも一番作中の治安が悪いのも小町さんなので、面白いなあと沁み沁みと思います。
そして、その祝祭も、猥雑な都市の明かりを背景に夜の海でひっそりお祝いするという、すすけた日常の延長にあるパーティーで、でもこういうちょっとした思い出って、細く長く心の支えになりますよね。

 

小町さんの作品は少女小説のイメージがあると思いますが、裏メニューの「ヒリついた男の友情」も乙ですよ。最近は『ミス・ブルーのこと』収録作の「雨傘」が秀逸でした。
本作クロスオーバーも、相手を甘やかしはしないし暗い感情も抱きながらも、しずかな思いやりを感じて、良かったです。

自分(原作者)の立場でファングのことを語るは野暮かと思ったんですが、でも、こいつはたぶん同じ場所にずっといることができないけれど、人懐こいんだろうと(小説『ファング』も思い出しながら)思いました。

 

企画立案と作品をありがとうございます。


ありがとう

大変なものをいただいてしまったので、記録のためにもしっかりと文章を書いたらとんでもない文字数になりました。
改めて本件制作に携わった皆様へ、最大限のお礼を申し上げます。

また、SNS投稿や他の場所で「誕生日に『自創作オールキャラ二次創作アンソロジー』を頂いた」という投稿を見て本件を知って、気にかけてくれたフォロワー・読者の皆様にも同様にお礼申し上げます。

 

今回は主催の小町さんと頻繁に交流のある方へ、アンソロジー参加のお声がけをしたそうです。もしお誘いがかからなったとしても、私またはアンソロジー主催者が誰かを邪険にした意図はなく、そのときの運や偶然にすぎません。
山川夜高が発表した作品は山川のものではなく読者ひとりひとりのものです。読者が読んだ作品が、ほかのなにかによって損なわれることはありません。
私は山川夜高の作品に対して公平中立である義務があるので、どうしてもこの点だけ記しておきます。

 

私はずっと小説を書き続けていて(小説の登場人物の絵も描いていて)、これからも書かなければならない作品はてんこ盛りで、なんとか生きているうちに完結できたらいいなと願うばかりです。

基本的に小説を書くのはひとりでやる営みですが、これからも誰かがずっと並走してくれると思うと、とても嬉しいです。

本当にありがとうございます。みんなにも良いことがたくさんありますように。


山川夜高の小説を読む

複雑怪奇になってきた、山川夜高の小説の読み順おすすめチャートです。

SeasideBooks 作品読む順おすすめチャート シーサイドブックスの小説は、舞台・時代・世界観・人物などが海を挟んでつながっている大きな物語群です。 メインストーリーは現状『これは物語ではない』→ 『Cipher』・『Drive to Pluto』 の順に読むのがオススメです。

SeasideBooks 作品読む順おすすめチャート

シーサイドブックスの小説は、舞台・時代・世界観・人物などが海を挟んでつながっている大きな物語群です。 メインストーリーは現状 ① → ②・③ の順に読むのがオススメです。 番号のない作品はサイドストーリーみたいなもので、いつ読んでもOKです。

①『これは物語ではない』 強いて言うなら日常系 時代 201X年 場所 東京 媒体 Web小説・連載中 →「act.3」まで読み終えたあと②・③ルートが開放される感じ。「act.5」まで読み終えると更に色々見えてくるかも

(サイドストーリー)『Solarfault, 空は晴れて』 時代 201X年(①と並行) 場所 東京〜神奈川 媒体 書籍・一部Web掲載 →②『Cipher』を先に読んだ方が後味良い

②『Cipher』 ページが黒い「読めない」本 時代 不詳 場所 不詳、演劇の街 媒体 書籍のみ・完結 →単品で読むならこれがオススメ。全編の半分をWebサイトで試し読みできます

③『Drive to Pluto』 あるロックバンドの「逸話」集 時代 1997〜2006年 *過去(約20年前) 場所 [此岸]東京 媒体 Web小説・連載中 →①『これは物語ではない』の登場人物が聴いているバンド。

読み切り短編『ファング』 時代 1989年 場所 東京 媒体 書籍 ③のスピンオフ作品 ここから読んでも大丈夫

(サイドストーリー)『入江にて』 水死体を拾って飼う話 時代 不詳 場所 不詳、さびれた漁村 媒体 Web掲載・完結 →短編小説なのでこれもオススメ

【注意】 読む順番の強制はできませんが、この順番で読むのが 情報開示の順番が自然で 読後感(後味)がよく 一番ショックが少ない と思うのでこれがオススメです。 ①②③の順番は、作品の発表年順なので情報開示順が自然です。 今後も過去作の情報を前提にした作品を発表していきます。

2023.01.25制作 2024.07.01改定 / 山川夜高・libsy.net・[Twitter] @mtn_river・[Fediverse] @mtn_river@misskey.design

各作品はTOPページまたはメニューの「フィクション」からアクセスできます。

これは物語ではない
Web小説|メタフィクション群像劇

Drive to Pluto
Web小説|架空のロックバンドの「逸話」

Cipher
書籍|読者を突き放す「読めない」小説

Solarfault, 空は晴れて
書籍|作家の「罪」の物語

 

二次創作ガイドラインもあります。

二次創作ガイドライン

ご清聴ありがとうございました。みんな本当にありがとうございました。

精進します。

Author : 山川 夜高

山川 夜高

libsy 管理人。DTP・webデザインを中心とした文化的何でも屋。
このサイトでは自作品(小説・美術作品)の発表と成果物の紹介をしています。blogではDTP等のTIPSを中心に自由研究を掲載しています。
お問合わせは contact からお気軽に。

twitter @mtn_river
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