制作:山川夜高 @mtn_river 公開:2017.07.29 ※最後にCMがあります※
要約
- 「登場人物紹介」の用途は次の2種類に分かれる。それぞれの目的を間違えないように注意する必要がある。
- 事前・読み途中・再読時に「人物リスト」をほしい
- 読了後に「設定資料集」をほしい
- 「人物リスト」「設定資料集」ともに要・不要は作品によりけりである。
アンケートの動機
私は普段webで小説を発表しています。
このたび、自身のwebサイトのリニューアルにともない、ユーザーの利便性のために「登場人物紹介」のページを設けるべきか、検討の材料としてアンケートを実施しました。
当初、知りたかったことは以下の2点です。
- 読者としてはwebで読める小説に「登場人物紹介」がほしいのか
- 登場人物紹介を読むとしたら、どのような用途で使うのか
ありがたいことにそこそこの投票数をいただけたので、他のwebで作品を発表している作家の参考になるのではと思い、結果と考察を公開いたします。
アンケート方法
方法:Twitterの4択アンケート機能
期間:2017/07/15(土) – 7/22(土)
当該ツイート:https://twitter.com/mtn_river/status/886195930432643072
(以下、このアンケートつきの投稿を「当該ツイート」と表記)
webで小説を発表している作家や、web小説を好む読者のツイッターアカウントによる当該ツイートのRTにより、投票者を集めた。
【アンケートのお願い】オリジナルweb小説の「登場人物紹介」について思うことをお答え頂けると幸いです。
1 ほしい(小説を読む前に読みたい)
2 ほしい(読む途中・読了後に読みたい)
3 どちらでもない・あれば読むかもしれない
4 いらない・あっても読まない
投票結果
1 ほしい(事前):24%
2 ほしい(途中・読了後):29%
3 どちらでもない:34%
4 いらない:13%853票・最終結果
【アンケートのお願い】オリジナルweb小説の「登場人物紹介」について思うことをお答え頂けると幸いです。
— 山川夜高/アンケート集計中 (@mtn_river) 2017年7月15日
1 ほしい(小説を読む前に読みたい)
2 ほしい(読む途中・読了後に読みたい)
3 どちらでもない・あれば読むかもしれない
4 いらない・あっても読まない
得票数から判明したこと
- 読書前・読書中・読了後問わず、積極的に「登場人物紹介」を求める読者は全体の半数にのぼる。
- 積極的に「登場人物紹介」を求めず「あれば読む」程度の読者も合わせると、「登場人物紹介」の需要は8割強から9割弱に達する。
- 「登場人物紹介」を希望しない読者は約1割存在する。
得票数のみを考慮すると、過半数の読者が「登場人物紹介」を望んでいるため、登場人物紹介は設けたほうが良いという結論を導き出せる。
しかし、ここで記載すべき「登場人物紹介」とはどのようなものなのか。
当該リツイートへのコメントを読むと、アンケートの得票数だけでは分からないことが判明した。
コメントの分析
当該ツイートへのコメント(リプライ・引用RTのほか、当該ツイートのRT先でアンケートに言及している投稿)を togetter で公開した。
https://togetter.com/li/1130801
- 掲載順はおおむね投稿時間順とし、前後の会話等がある場合、読みやすいよう調整した。
- 掲載許可を得た鍵アカウントからの投稿を、テキストとして引用で掲載している。
- 「私は1に投票しました」だけの投稿など、投票理由を記載していないコメントはまとめていない。
実際の意見はtogetterまとめを参照してほしいが、意見の傾向を見ると、アンケートで用意した
1 ほしい(小説を読む前に読みたい)
2 ほしい(読む途中・読了後に読みたい)
3 どちらでもない・あれば読むかもしれない
4 いらない・あっても読まない
という区分とは異なる動機が見られた。
登場人物紹介の目的 ──「人物リスト」と「設定資料集」
意見を読むと、おおむね以下の A, B, C, D に分類することができた。これはアンケートで用意した4択とは異なる分かれ方をしている。
- 事前または読書中に登場人物紹介を読みたい
- 読後に目を通したい
- その他(一般書籍よりもキャラクターに重点を置くことの多いweb小説特有の理由?)
- 不要
それぞれの目的を分析すると、「登場人物紹介」として読者が希望しているのは、 簡易な「人物リスト」 と 詳細な「設定資料集」 という用途の異なる2種類に分かれるのではないか。
定義:登場人物紹介に含まれる二種類の用途
- 人物リスト
- 人名や物語での立場などを、本編のネタバレを伏せて表にしたもの
- 設定資料集
- 物語本編のネタバレや、物語本編に登場しない仔細な情報を含むもの
A. 事前または読書中に登場人物紹介を読みたい
- 簡易な用途:読書の補助線として、名前・役割・主人公との間柄を箇条書きにした 簡易な人物リスト がほしい
- 長編
- 登場人物の多い作品
- 外国名などで名前を覚えにくい作品
- (ある一族の物語などで) 似た名前の人物が登場する作品
- 先に 設定資料集 でネタバレを読むのが好きという読者も少数存在する
B. 読後に目を通したい
- 簡易な用途:再読するときにすぐ思い出せるよう、簡易な人物リスト がほしい
- 詳細な用途:設定資料集 として、小説から独立して楽しみたい
C. その他(一般書籍よりもキャラクターに重点を置くことの多いweb小説特有の理由?)
- 簡易な用途:小説の感想を伝えるときに、キャラクター名を確認できる表がほしい
- 詳細な用途寄り?:小説の作者がキャラクターのイラストも手がけている場合、キャラクターの外見と名前を一致させたいのでキャラクター表がほしい
このように、小説から独立した個別のコンテンツとしてキャラクター紹介を要する事例もある。
D. 不要
- キャラクターの外見は自分の想像で読み進めたいので、最初から登場人物紹介で外見を提示されたくない
- 登場人物紹介で補完しなければならないような小説は、作品単独での説明を果たしていないので駄作である
これらは登場人物紹介の「人物リスト」を求められている時に「設定資料集」のような仔細な情報を与えられたケースへの苦言だろう。
「設定資料集」を読むことは読者の任意なので、「設定資料集」が必読となるほど小説本編の記述が薄い作品は避けなければならない。
ただし作風によっては例外もある。小説本編では含みをもって謎を謎のままとし、答えは読者の想像に任せ、作者として用意した回答は「設定資料集」で公開する、という作品もあり得るだろう。
コメントのまとめ
当該ツイートへのコメントを読むと、全29件のうち、「読書中に見たい」という意見が最多だった。
登場人物紹介を見るタイミング | 件数(重複回答あり) |
---|---|
事前に見たい | 3件 (12%) |
読書中に見たい | 11件 (42%) |
読後に見たい | 2件 (8%) |
場合による | 3件 (12%) |
不要 | 3件 (12%) |
その他(回答なし) | 4件 (15%) |
上記の票数、およびコメントにあった「人名を覚えるのが苦手」「読書中、人名や設定を忘れてしまった時に確認したい」「再読時に、内容を思い出す手がかりとして見たい」という要望から、
- 「人物リスト」と「設定資料集」は内容を分離する
- 「人物リスト」の設置は任意だが、あればユーザーフレンドリーなコンテンツになる
- 「設定資料集」の公開および閲覧は任意とする
以上が最適解だろう。
コメントを読むと「人物リスト」と「設定資料集」を混同しているのではないかと思われる発言が見かけられた。
web小説と一括りにいっても、作品のジャンルや読者層は同じではない。
またweb小説の読者はweb小説のほかに、web小説でない小説=商業書籍を読んだ経験もある。普段の商業書籍を読む態度と同じ態度でweb小説を読むのなら、web小説への価値判断はどのような商業書籍を読んでいたかに影響されるだろう。同様に普段はアニメ・映画・TVドラマなどを好む読者であれば、それぞれのメディアに適切な登場人物紹介(「人物紹介リスト」または「設定資料集」) を念頭に置くはずだ。
では、求められる「登場人物紹介」は、どういった要因で決まるのだろうか。