2019/12/28に「人喰いサメの稚魚を見に行く」という名前で葛西臨海水族園にサメを見に行く遠足を企画しました。そこで「遠足のしおり」としてサメについて知ってもらいたいことをまとめたものを、こちらに加筆修正して転載します。
水族館で観察できそうなポイントには 強調 を加えました。みんなでサメを学びましょう。
シャーク。
追記:12/28 水族館を実際に訪れた後のメモを枠内に書きました。
1. 人喰いザメはいません
「人喰いサメの稚魚を見に行く」というこの会の名前は釣りです(魚だけに)
人間がサメに襲われ死亡するインシデントは世界中で年8〜12件です。これは人が雷に打たれる確率の1/80です。事故どころか、そもそも野生のサメに遭遇する回数が少ないんですね。
しかしながら映画『ジョーズ』のせいで「サメ=人喰い」という誇張された認識が蔓延し、恐怖にかられた当時のアメリカ人はなにもしていないサメを駆除するようになってしまいました。スピルバーグの罪の一つです。
人食いザメにまつわる数奇な歴史に、アメリカ重巡洋艦「インディアナポリス」号の顛末があります。
インディアナポリス号は1945年に、日本に投下される予定の原子爆弾のパーツを運搬した米軍艦です。原爆のパーツを運搬した「あと」、インディアナポリス号は太平洋フィリピン沖で沈没しました。海上で生き残った乗組員は食料・水分の不足で大勢死亡しましたが、南洋に生息する「ヨシキリザメ」や「ヨゴレ」による食害もありました。
サメは水中の血の臭いを感知すると非常に好戦的になる性質があります(狩りのボルテージを上げるためです)。多くの怪我人が海中に入ったことで、近辺に生息するサメが刺激されたのがこの事故の原因でした。
by. https://ja.wikipedia.org/wiki/インディアナポリス_(重巡洋艦)
2. サメが人を喰う件数より、人がサメを喰う件数の方が圧倒的に多い
サメの肉はフカヒレ・肝油・かまぼこを作るために利用されています。
世界三大珍味のひとつキャビアは「チョウザメ」の卵ですが、チョウザメはサメの仲間ではなく硬骨魚類です。見た目がサメに似ている(?)ためにサメと名付けられてしまいました。あと「コバンザメ」もサメではありません。
人間を襲うサメよりも、フカヒレのためにサメを乱獲する悪い人間の方がはるかに問題になっています。
彼らは釣り針や網にかかったサメのヒレだけを切り落として回収し、サメ本体を生きたまま海に捨ててしまいます。ヒレを失ったサメは海中で動くことができずに溺れ死にます。
これではサメがかわいそうなので、人間も同様に四肢を切り落として海に捨てられるべきかもしれません(過激思想)
地中海の島国マルタの日曜朝市の様子 サメ…
サメは体内にアンモニアを溜める性質があるので、きちんと処理しないと身は美味しくないと思います
キリスト教の教えでは「うろこの無い魚は食べてはいけない」と言われています。敬虔なカトリック国であるマルタですが、サメやらイカ・タコやら海産物は気にせず頂いちゃうようです
「海岸に大量投棄されたサメの赤ちゃん、頭とヒレが切り取られていた」
2019年12月20日(金)ニューズウィーク日本版より画像転載・引用
“南アフリカの海岸で、頭や背ビレ、尾ビレを切り取られた赤ちゃんサメの死体が大量に捨てられているのが見つかり、地元警察などが不法投棄で捜査を開始した。”
“ブラックマーケットで高値で取引されるフカヒレが目的と見られ、地元警察が不法投棄で捜査を進めている”
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13653.php
3. サメの歯は無限に生えてくる
サメの歯は折れても何度でも生え変わります。
サメの歯は常にスペアが用意されており、古くなった歯は自動的に抜け落ちるようになっています。水族館のサメ水槽の底を見ると、抜け落ちたサメの歯が見つかることがあります。
サメの歯が見つからないときは、飼育員さんが掃除をした後です。
水族館は、回収したサメの歯を使ってアクセサリーを作り、お土産にすることで糊口をしのぎます(諸説あり)
「人の歯茎にサメの細胞を注入することで人間の歯も再生する」というネットニュースがありましたが、多分ガセネタです。いまググったけど一次ソースのないまとめサイトしか見つかりませんでした。
4. サメの雌雄の見分け方
サメは漢字で鮫(魚+交わる)と書きます。交尾をしてメスの胎内の卵に体内受精をするためです。サメのなかには卵を外に生むもの(卵生)と、子供が育つまで胎内で卵を育てるもの(胎生)がいます。
胎生のサメは、胎内で子供が卵から孵化(フカだけに)してから産むものと、胎内に胎盤を持ち哺乳類のように妊娠するものがいます。
そんなわけでサメの雌雄は見分けやすく、股間(ひし形の腹ビレの先)についているのがオス、ついていない(腹ビレしかない)のがメス です。
サメの交尾器をクラスパーと呼びますが、クラスパーは なぜか2本ついています。片方はスペアらしいです。
追記:当日は皆でサメの股間(魚なので股はないけど)をジロジロ眺める会になりました。
5. サメはたぶんネコよりも頭が良い
サメは魚にしては「体に対する脳の大きさ」が大きいです。
体と脳の大きさの比率を脳化指数と呼びます。動物の知性は脳化指数によって比較できると言われています。脳化指数だけを比較すると、サメはネコより頭がよいかもしれません……と書こうとしたけど、手元のサメの本にはネコとの知性の比較が書かれていませんでした。
ちなみにサメとネコを良いところ取りした「ネコザメ」というサメがいます。
新江ノ島水族館では「タマ」という名前のネコザメが飼育されています。名前の時点でもう扱いが完全にネコです。このタマちゃんは飼育員さんにとても慣れており、水槽にダイビングした飼育員さんに自分から近寄って「なでて〜」と擦り寄ります。もうネコです。ネコよりも人間に有効的かもしれません。
また「ネコザメ」の仲間に、体表の模様が縞模様の「シマネコザメ」がいます。名前がすでにネコですね。
∴サメ=ネコ QED
ナマコを抱き枕にして休むネコザメ その姿は完全にネコである
(マリンピア日本海/新潟県)
穴の縁に顎を乗せて休むシマネコザメ(右) その姿は完全にネコである
(アクアワールド茨城県大洗水族館/茨城県)
キャットタワーの縁に顎を乗せて休むネコ その姿は完全にネコである
(保護猫カフェMiagolare/東京都)
ネコザメは葛西臨海水族園で飼育されていないかもしれませんが、おとなしい性格のため水族館でよく飼育されているサメです。見かけたら「ネコだなあ」と思いましょう。
追記:葛西臨海水族園にネコザメはいないかな〜と思っていましたが、タッチプールの方に予約制のサメコーナーがあるのをすっかり忘れていました。たしかドチザメ、ネコザメと触れ合えたような気がします。一度行ったことがあるのですが、すっかり失念していました。
6. ロレンチーニ器官
サメは主に視覚と嗅覚にたよって狩りを行いますが、人間にはない感覚器も持っています。サメは他の動物の筋肉が発する電磁パルスを感じ取ることができます。
“動物が筋肉を動かすと電流が流れ、電場が生じる(中略)水は電気伝導性が非常に高いため、サメやエイを含むいくつかの動物が、他の動物の筋肉運動により発達した微弱な電磁パルスを感知することができる。”
『世界サメ図鑑』スティーブ・パーカー, ネコ・パブリッシング, 2010, p. 92
この電磁パルスを捉えるセンサーを「ロレンチーニ器官」または「ロレンチーニ瓶」と呼びます。ロレンチーニ器官はサメの鼻先にあります。
葛西臨海水族園では「アカシュモクザメ」というサメを常設で飼育しています。シュモクザメ(ハンマーヘッドシャーク)の仲間は名前のとおりに、金槌のような頭を持つサメです。
この金槌頭の中身がロレンチーニ器官です。
シュモクザメの不思議な形の頭は、ロレンチーニ器官を発達させるためと同時に、舵をとるためとも考えられています。
前から見たシュモクザメ(葛西臨海水族園/東京都)
目を左右に離して眉間を広げることで、ロレンチーニ器官を増やしている
鋭敏な感覚器であるロレンチーニ器官をなでなですると、サメを催眠にかけることができます。しかしロレンチーニ器官があるのは「目と鼻の先」ならぬ「口と歯の先」です。うかつに素人が試すべきではありません。
7. 人喰いザメの稚魚の正体
さきほど「人喰いザメはいない」と書きましたが、サメによる事故は決して無いわけではありません。
今回の目当てである「イタチザメ」は、ホオジロザメに次いで人間を攻撃する事故の多いサメです。
イタチザメ(美ら海水族館/沖縄県) サバのような縞模様が分かりやすい写真
イタチザメは日本で別名「サバブカ(鯖鮫)」英語で「Tiger Shark」と呼ばれます。体表にサバのような縞模様があることと、マジで獰猛で何でも食べることが特徴です。魚や他のサメ・エイ(共食いも含む)、鳥類、海棲哺乳類、ウミガメ、ワニ、何でも食べます。
イタチザメは獰猛な性格に加えて、広いテリトリーを必要とするため、狭い水槽ではストレスがたまってすぐ死んでしまいます。国内では美ら海水族館(沖縄)でしか飼育されておらず、それも常設ではなく時々です。(たぶんたまたま網にかかったものを展示しています)
11月にツイッターでたまたま「イタチザメの稚魚が葛西臨海水族園で展示されている」という情報を見かけました。しかし水族館の展示は生き物なので、いつ展示が終わるか分かりません。加えてイタチザメはたぶん国内で繁殖に成功した例が無いので、稚魚を生かし続けるのも難しいはずです。今回は見られたらラッキーぐらいの気持ちです。
追記:葛西臨海水族園のクロマグロ大水槽の隅っこで、イタチザメの稚魚を見られました!
体長60cmぐらいだったと思います。1匹で孤独に泳いでいました。元気そうでしたので、まだまだ見られると思います。
アカシュモクザメたちのサメ水槽に入っていると思っていたのですが、アカシュモクザメは群れで生活し、イタチザメは広いテリトリーを1匹で過ごすので、大水槽の方に分けられたのですね。
8. 葛西臨海水族園にいるサメ以外の生き物
マグロ
大水槽でマグロの回遊を再現しているのは都内で葛西臨海水族園だけです(あいまいな記憶)以前、水族館近隣で工事が行われた時に、振動のストレスでマグロが大量死してしまいました。
追記:葛西臨海水族園の最年長のクロマグロが5才だそうです。ちょうどマグロ大量死事故の生き残りかもしれません(※確認していません)
葛西臨海水族園の付属レストランではマグロの唐揚げなどが食べられますが、水槽に展示されているマグロとの因果関係は判明していません。
ペンギン
まだふわふわの羽毛なので水中に入れず、そのへんをうろうろするしかないオウサマペンギンの雛(葛西臨海水族園/東京都/当日撮影)
餌の時間なのに出ていかず、隅に寄せ集まっているフェアリーペンギン(葛西臨海水族園/東京都/当日撮影)
「フンボルトペンギン」、「イワトビペンギン」、「フェアリーペンギン」、「オウサマペンギン」がいます。フンボルトペンギンは他の水族館でも多く飼育されていますが、オウサマペンギンの飼育は珍しいです。時期によってはたわしのようにまるまる太ったオウサマペンギンの雛を見ることができます。
葛西臨海水族園のペンギンといえば、数年前にあるフンボルトペンギンが水族館を脱走して東京湾でしばらくサバイバルしていたことでも有名です。捕獲された家出ペンギンは、水族館で飼育している他のペンギンよりも筋肉がついていました。
クラゲ
展示数も水槽の規模もたいしたことないし(基本ミズクラゲのみ、たまにアカクラゲやその他の時期もの)クラゲ水槽のある「東京の海」エリアがまるまる改装工事中と思われます。クラゲが見たかったら素直に新江ノ島水族館か加茂水族館へ行ってください。
葛西臨海公園の人工海岸では、毎年春になるとたくさんの「カミクラゲ」が見られます。カミクラゲ(髪海月)は名前の通りにたくさんの細い触手を持つクラゲで、日本近海にしか生息していない珍しいクラゲです。カミクラゲは3月初旬の太平洋沿岸に大量発生し、あたたかくなるにつれてミズクラゲやアカクラゲが出現します。
追記:改装工事は一部分のみのため、東京の海エリアは問題なく観賞できました。
ミズクラゲ、アカクラゲ、ギヤマンクラゲ、カブトクラゲがいました(カブトクラゲはクラゲじゃないけど)
私は汽水域のドブ川に浮かんでいるクラゲが大好きなので、実は水族館のクラゲはそんなでもありません。
カミクラゲ 触手の根本にある赤い点々は光を感知する器官(≒目)です
新江ノ島水族館Webサイト「えのすい壁紙ギャラリー」2017年04月より転載
http://enosui.com/wallpaper.php?pageno=2
いつか春先にこのカミクラゲを見に行く会もやりたいなと願っています。
硬骨魚
俺は詳しくないのでわからん 以上
追記:間違えて「ギンザメ」のことを軟骨魚だと紹介してしまいました。本当ごめん。本当すみませんでした。ギンザメは硬骨魚(サメではない)です。訂正して深くお詫び申し上げます。
野鳥
葛西臨海公園内の鳥類公園には冬になるとたくさんの渡り鳥が集まります。公園内の遊歩道や林にはジョウビタキ・ツグミなどの小鳥が訪れ、池にはカモが、海岸ではシギなどの渉禽類が見られます。
ぶっちゃけ私は都市鳥ばかり見ているので淡水カモ・海水カモや渉禽類はちんぷんかんぷんですが、ここで数年前に葛西臨海公園の野鳥観察プログラムに参加し、絶滅危惧種のクロツラヘラサギを観察したことが印象に残っています。
参考文献
- 『世界サメ図鑑』 スティーブ・パーカー(著), 仲谷一宏(日本語版監修), ネコ・パブリッシング, 2010
- 『Sharks サメとその生態』ビバリー・マクミラン、ジョン・A・ミュージック(著), 内田至(監修), 昭文社, 2008
- 『美しき捕食者 サメ図鑑』田中彰(監修), 実業之日本社, 2016
- 『サメのおちんちんはふたつ』仲谷一宏(著), 築地書館, 2003
画像ライセンス
- ホオジロザメ:pixabay(ライセンス表示不要)
https://pixabay.com/ja/photos/鮫-海-オーシャン-水-魚-3004153/ - 「海岸に大量投棄されたサメの赤ちゃん、頭とヒレが切り取られていた」:2019年12月20日(金)ニューズウィーク日本版
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/12/post-13653.php - カミクラゲ:新江ノ島水族館Webサイト「えのすい壁紙ギャラリー」2017年04月
http://enosui.com/wallpaper.php?pageno=2 - ほか:自作
おまけ:他の写真
参加者に人工島(東なぎさ)の消波ブロックが見たい方がいらっしゃり、私も海辺を歩きたかったので、特別歩きたくはない他の参加者も巻き添えにして、往復1km程度を歩きました。砂の上は土や歩道の上よりも歩きにくく、後日筋肉痛になりました。
なにか色々と喋ったりしながら人のいない場所を歩くのはとても良い経験でした。この散歩もそうだし、私は水族館や海に行くときはたいてい一人で行くので、誰かがいるというのは新鮮な気分です。
でも、その場で一番うれしかったのは、友達と喋っていることよりも、友達を置き去りにして一人で波打ち際に歩み寄る瞬間でした。喋っている友達の声が遠ざかり、波の押し寄せる音が頭の中を占める。言葉の意味が遠ざかり、「無意味」が満ちる瞬間。
海は水の量もその中で暮らすものの種類も豊かで、そして本当に人間が理性で理解する意味を持たずに、何の「為」でもなくただ巨大に存在しているだけ(=無意味)なので、私は海が大好きです。
次回予告
また遠足を開催する予定です。今後の予定は時期が近くなりましたら Twitter @mtn_river で宣伝・募集をかけます。(1)Twitterで連絡が取れる、(2)関東に来てくれる、(3)ルールを理解し最低限の良心がある(つまり他の参加者さんに迷惑をかけない)方であればどなたも参加できます。
今後の予定
□ 3月「クラゲが落ちてる」 in葛西またはお台場:
春になると野生のクラゲが湧くのでそれを見に行きます。水族館では見られない、へたれたドブ川のクラゲを見られます。(私は水族館で見るクラゲよりも、野生のクラゲが大好きです)
□ 4〜5月「ケシの花と合法ハーブ」 in都内某所:
都内で唯一、合法的にケシを育てている秘密の場所があるので、合法的に見学に行きます。
(文フリが近いので私が無事に行けるか不安です)
あまり「内輪向け」「クラスタ」「いつものメンツ」に固まりたくないのですが、なんとか風通しの良い形で、学校や職場以外にオルタナティブな「社会」または「サロン」(これも風通しの悪くなりそうな表現ですが、知識の交換や、新しいジョークを仕入れる場ができればという感じです)を設け、皆が心地よく過ごせることを願っています。
すごく遠回しな表現をしましたが、要は「友達を大事にしたい」ってことです。
昨年はたくさん遊んで頂いたり、わずかな制作物のなかから作品を見ていただき、大変お世話になり、ありがとうございました。お住まいが離れていてまだお会いできていない方も、いつも気にかけていただきありがとうございます。本年もよろしくお願い致します。