架空のロックバンドDrive to Plutoの3rdアルバム『she/see/sea』のレコーディング風景と、リリースライブに対する架空の4000字インタビュー。
「顔を上げると、締め切られたガラス戸の向こうでふたりはまだ議論を重ねていた。」
BlueWall / 降霊術 | libsy.net/dtp/bluewall
架空のロックバンドの架空の4000字インタビューを掲載した架空の紙面を作りました。架空の3rdアルバムの収録曲リストと、架空のリリースツアーが開催される架空のライブハウスおよび架空のセットリストも掲載しています。
架空のバンドの架空のライブグッズ(バンドTシャツなど)はこちらのストアから購入できます。
https://www.ttrinity.jp/shop/libsy/collection/13445
お久しぶりの新作です。
元々はもっと長い連作の1シーンにするつもりでしたが、キリが良かったのでこのシーンだけで切り取ってインタビューの文章と紙面のデザインを添えました。
追記:以下に本作『BlueWall / 降霊術』のあとがきを追記しました。
今回は p.1『BlueWall』(レコーディング風景と発売されたアルバムの情報)と、p.2『降霊術』の二部構成にした。
小説の着地点は毎回悩ましい。物語の余韻を残す、突然終わるブツ切り、気の利いた一文で〆るなど、色々な方法が考えられるようでいて実際は数パターン程度に分類できそうだ。今回はレコーディングが成功して、Drive to Plutoがバンドとして一歩成長したことを直接的ではない方法で示したかった。例えば最後にメンバーが疲れ切ってるけど晴れ晴れした表情でスタジオを出るシーンを書けばレコーディングの成功を暗示させられるが、今回は別の方法を取りたいと思い、一旦、青野が音楽に対して悟る瞬間でブツ切りにした。(“別にこいつらの、怪物(おまえ)の代わりに、俺の身体はここにいるわけではないよなと、ふと確信した。”)
原稿を書いているとき、小説を編集しているテキストエディタの末尾にBlueWallで収録した3rdアルバムの曲名リストをメモしたら、曲名リスト自体が小説のエピローグとしてかなり良い感じに働いた。私は SCP Foundations の報告書のように、叙情的な散文ではなくデータなどの集積で「語らずに語る」方式が気に入っている。
最初はBlueWall本文、アルバム『she/see/sea』の情報、リリースライブ「ナイトフライトは難しい」の予告、「ナイトフライトは難しい」の当日のセットリストを同じエディタで書いていた。しかしアルバムリリース日の7/11とライブ当日の8/3は間が開いており、同じ画面で掲載するのは不自然だったので、リリースライブ情報とセットリストの間に時間経過を示す情報を配置しようと思った。
*
そのころSkebで友人のあたのさんに「うちの作品の登場人物の誰かを描いてください」と発注していた絵が納品された。「DtP(Drive to Pluto)が音楽誌にスタイリストがついてピンナップ付きインタビューが載ったときの巻末応募者抽選プレゼントの写真」という設定で絵を描いていただき、お礼の連絡を入れる時に、実際の音楽誌なら『ロッ*********』よりも『音*と*』の方が丁寧な特集を組んでくれそう、など「無い」話題でひとしきり盛り上がった。(こいつらファンへの愛想が全然無いなとふたりで笑った)
skeb納品しました!
— あたの (@atanonata) July 4, 2021
DtPが音楽誌にスタイリストがついてピンナップ付きインタビューが載ったときの巻末応募者抽選プレゼントの写真です。https://t.co/5bxX9jmwVX pic.twitter.com/CioS3oyHic
あたのさんが絵に理由付けしてくれたことがとても嬉しかったので、手元に資料として保管していた『I***** magazine』をぱらぱらめくって時代の雰囲気を懐かしんだ。一時代前のカルチャー誌特有のあのノリの文体と誌面をコピーできたら楽しいだろうと思い立って、リリースライブに対するインタビューを書いてみたら、ちょうど4000字程度の使いやすい文量になった。
『I***** magazine』を参考にしてA5判の誌面をそれっぽく組んでテキストを仮に流し込んだときには、誌面の「それっぽさ」にゲラゲラ笑った。和文フォントは「中ゴシックBBB」と「見出ミンMA31」を使い、少し重くレトロな印象を持たせた。欧文フォント(バンド名の部分)は最初「Impact」を使ったが、あまりにもレトロっぽすぎて90sのイメージになってしまったので(めちゃくちゃ笑ったが)、もう少し垢抜けた感じを出すためにセリフ体の「Cochin」にした。
誌面の上には黄ばんだ再生紙風のテクスチャを載せて2001年発行の古本に見えるようにした。誌面を作ると、インタビューのテキストを作品として掲載する必然性や説得力が段違いに上昇した(架空の人物に対するインタビューは、それだけだとけっこう痛々しい妄想だ)。
今回のように媒体ありきで作品を作るのは『She Sells Sea Shells by the Seashore』や『Cipher』と同じ手法だ。私は、絵画をカンバスから剥がすことが出来ないように、文章も掲載媒体と不可分であることが可能だと考えている。
作品のアイディア出しをするとき、作家はアイディアの実現可能性を考慮する。面白いアイディアが予算や技術の不足でボツになることはありえるが、それと順序が逆転して、作家は予算や技術の範囲で実現可能そうなアイディアしかそもそも発想できない(予算・技術があらかじめ無意識のうちにイマジネーションを制限する)のではないかと私は思っている。今回はインタビュー記事を作る発想に至るだけの知識が私に備わっていてとても良かった。
*
小説のタイトルは、アイディア出し当初は『BlueWall』だけだったが、作品の意図などが伝わりづらかったので『BlueWall / 降霊術』とスラッシュで別の言葉をつないだ。スラッシュを使っているのはカッコイイからで、青野が名付けたアルバム名『she/see/sea』とセンスの出処はまったく同じだ。最初は「BlueWallであると同時に降霊術」と意味合いの共存を伝える魂胆だったが、作品が二部構成になたのでより素直にタイトルに必然性を与えられた(「BlueWallであると同時に降霊術」だし、『BlueWall』+『降霊術』)。
前半の小説部分は、最初は青野の一人称で書いていたが、私がピンチョンの『逆光』を再読して三人称視点も登場人物を突き放しながらも独特なトーンの叙情が出ていいなあと素朴に思ったので、一旦書き終わったあとに三人称視点に変更した。また本文はメンバー各人の音楽性を分析する内容なので、三人称視点のほうが自然な文体であると思う。
一面真っ青な壁のスタジオは正直気が狂いそうだと思いながら書いた。「プルシャンブルーに染まった壁」には明確な「死」、死の中でも特に「大虐殺」のイメージがあるが、ここで元になった話を記載すると本作の内容では虐殺の史実に対するフォローができないのでここでは書かない(念頭に入れなかったわけではないということだけ記しておきたい)。史実の代わりにブルーモーメントへの連想を書き足した。夕闇の時刻は『オトノヨキカナ』で聖が嫌っていた「終わり」の時刻の色である。誰そ彼時(黄昏時)には魔が出る。
冥界下りのイメージにはかれらのバンド名に潜む冥府の神ハーデース(ハデス)=プルートが現れている。ここではスターバックスコーヒーのアイコンのセイレーンと合わせて神話的イメージを漂わせた。セイレーンは歌声で人を惑わすとされる怪物で、人前で歌わない聖や、青野が朧げに感じ取っている「怪物」と対比させた。
今回の笑いどころは、前半部分のレコーディングでは「37分」と言っていた『ナイトフライト』が蓋を開けてみると「42分」に膨れ上がっているところと、青野がいい加減に喋った言葉が雑誌でリードに採用されてしまったところ。『ナイトフライト』は興が乗ってアウトロが5分追加されたし、たぶんリリースライブでは更に時間を押したと思う。口下手な聖と田邊が文字起こしでマトモに読める口調になっているのも面白かった。
*
Twitterで頂いた感想に「Drive to Plutoの物語をあの手この手で表現することも、架空のバンドをこの世に降ろす降霊術っぽい」と、作品のメタなテーマを見抜いてくださった方がいてとても嬉しい。
読みました✈️「ナイトフライト」聴いてみたいのに、ここまで現実かのように作り込まれているのに、架空なのだよな…と時々呆然としますね…。(Drive to Prutoの各作品もまた架空から彼らを呼ぶ降霊術なんじゃないかと思えてきます) https://t.co/JJEGyhskjL
— 風野 湊 (@feelingskyblue) July 12, 2021
メタテーマには実はもうひとつ仕込みがあるが、そちらはまだ気付かれていないのか、言及を避けられているのか分からない。
*
本作とほぼ同時に書いて次に公開する予定の作品があるので、そちらも早めに見せられたら良いのだが、けっこう扱いが難しい作品になった。短く淡々とした文体で、演奏シーンはないし、本作の雑誌誌面のような飛び道具を使ってなく、既存のシリーズでは『フラジェル』の続編みたいな位置づけになっている。
そこでは、ある素朴に良いとされる価値観または規範あるいは摂理に対して肯定と否定のふたつの立場を描いた。すごく微妙な機微でもって価値観に対するオルタナティヴを提案できればいいのだけど、人物が価値観に染まっていく様子にも取れるように書いたので、結局人物の立場がどちらなのかは簡単に分からないようにしている。
そもそも素朴に良いとされている価値観をわざわざ問題提起して作品にする私の思想がめちゃくちゃ偏っている可能性があるので、私が作品に期待するようなアンビバレントな読後感を感じさせるのが難しそうで困っている。もしかしたら友人の誰かに下読みを頼むかもしれない。
仮タイトルは『別の人生』。これももっと気の利いた言葉を用意してあげたい。
*
というわけでこの世界はまだ書き終わらないし、楽しいことばかりを書きはしないのですが、引き続き一緒に楽しんでくれたら嬉しいです。これからもバンド一同よろしくお願いいたします。
無いのは音楽だけ。