とりあえず無事にやっています。写真はツイッターにupしていますので、よろしければご覧ください。今日はツイッターに書きにくいことを2点。
1 旅の緊張がどこに来るか
「初めての場所に行った日はしばらくうなされて悪夢を見る」という、あるバックパッカーの先輩の先例を聞いていたので、自分にも似たようなことが起こりうると思っていたのですが、私の場合はこんな感じでした。
1日目・2日目:眠りが浅い(というかホテルがキングスクロス駅前で夜間も交通量がすごい)、妙に涙もろい(テートブリテンやナショナルギャラリーでキリスト教画を多く見た帰りのホテルのトイレで、「イエスという男はこんなに愛されていたんだな……どうしてこんなに優しい人が処刑されてしまったんだろう……われわれは処刑する相手を間違えたのではないか……」とふと思い、涙が出た)
3日目:引き続き涙もろい、シャワーを浴びていたら鼻血が出た
4日目・5日目:朝に洗顔すると鼻血が出る、量はだんだん減っている
緊張および欧州の乾燥で、鼻の粘膜がやられていたんだと思います。鼻血は毎朝見てくれが悪いので、早く治ってほしいです。
2 風景の意外性について、観光は期待を裏切ってほしい
出発前に長田弘の紀行文『見ろ、旅人よ』(朝日選書)を借りて読みました。
手元に本がないので引用があいまいですが、そのなかに「現実の風景は絵葉書どおりで、期待を裏切らなくなってしまった」というような旨の一節がありました。
ロンドンまではガトウィック空港を利用し、ガトウィック〜ヴィクトリア駅はバスをつかいました。車窓から見えるのは、まるでだれか建築家ひとりがお揃いに仕立てたような煉瓦造りの街で、煉瓦でない鉄筋コンクリートの新築物件もやはり煉瓦色。イングランドだ、ロンドンだ、遠くに来たんだと思う感慨と同時に、これはイメージ通りのロンドンでしかないという、すでにGoogle画像検索で知っている世界を超えられないという寂しさも感じるのです。
何事もなければロンドン市街地は過ごしやすいです。どこを歩いても美しい街並みが続きます(ただし、衛生的に美しくはありません。タバコはポイ捨てするものだし、犬の散歩は放し飼いが多いためか、落し物が目立ちます)。
ここ数日はカフェか公園で書き物をして、飽きたり煮詰まったり疲れたら散歩に出て、また適当な場所に落ち着いて読書をするという、すばらしい日々の過ごし方をしました。
歩き見る街はたしかに美しいのですが、それでも何か想像を超えないのです。あるイメージ通りの「ヨーロッパ」である。長い歴史の重みを感じながらも、テーマパークみたいだなという感想をぬぐえません。
私の小説『Cipher』は架空の欧州風の街(特定の国・場所に限定されない異世界、作中でしばしばテーマパークのようだと形容される)が舞台です。執筆中の私は、海外渡航経験がなく、テレビの観光番組やインターネットや写真集で見たことのある風景写真と、ファンタジーのテレビゲーム等によって既に翻案された「ヨーロッパ風」の意匠と、輸入代理店で買ってきた外国製チョコレートのパッケージから「イメージ」を膨らませて、「テーマパーク」風の舞台で繰り広げられる小説を書きました。
私は、現実には(百年千年、人の血が流れたこの歴史の上に立つ現実には)、どうかイメージを上回ってほしいと願っています。
もしかして、あまりにも「イメージ」に浸かりすぎた私の感受性がおかしくなっていて、何をみてもテーマパーク=作り物みたいだと感じてしまうのかもしれません。そうだとしたら私の感受性のゆがみを、この旅行で矯正したいです。
明日からは、リヴァプール→ヨーク→グラスゴー→エディンバラと、イングランドの地方とスコットランドを回ります。もしかして、東京と勝手のそう変わらない便利なロンドンに滞在していたから、こんなことを思ったのかもしれません。だとしたらいいなと思います。どうかこれからも期待に裏切られますように。
なんて言うけど不安だし、カタコトの英語が通じるたびにとても嬉しい(から非英語圏がいまから不安)ですし、関東との野鳥や植生の違いを楽しんでいます。身体と所持品とお金が無事なら、きっと大丈夫でしょう。