匿名で掌編小説を書き、Twitterのアンケート機能を使って作者を当てる企画「第2回ぷちへき企画」に参加しました。
小説による覆面企画です。
指定されたシチュエーションで小説を書き、(中略)
あなたが書いたものを予想してもらいましょう。お題:目を閉じるシーン
企画趣旨(公式ページ): https://note.com/hikonorgel/n/n900005387a6c
私はEグループで作品を発表しました。作品はTwitterで読むことができます。
「目を閉じるシーン」のお題に沿って匿名で掌編小説を投稿し、ツイッター投票機能で作者を当てる #ぷちヘキ企画 にEグループで参加します。
— 山川夜高✍︎テキレボEX2参加 (@mtn_river) 2021年2月1日
山川が書いた作品がどれか推理してリプツリーのアンケート機能でご回答ください!
回答期限: 2/8 正解発表: 2/9#ぷちヘキ企画_作品E → pic.twitter.com/MbAnbXsn2d
めちゃくちゃ得票が偏りましたが、E-1〜E-4のうち私が書いた作品はどれでしょうか?
答え合わせ
(承前) Q.「目を閉じる」シーンを書いた上記4作品のうち山川夜高が書いたものはどれでしょうか?
— 山川夜高✍︎テキレボEX2参加 (@mtn_river) 2021年2月1日
回答期限: 2/8
正解発表: 2/9
更に突っ込んで、作中のどの要素が私のヘキ(≒趣味や目標)かもコメント頂けると嬉しい&楽しいです🐟 #ぷちヘキ企画 →
答えは E-2 でした!
めちゃくちゃかんたんでしたね。
きょう未明関東全域で観測された非常に明るい火球について、東京都◯◯市付近からの目撃例だけが皆無だったことは特筆に値する。同地域のライブカメラには夜闇に閃くまばゆい光が記録されたが、カメラを設置した市内のアマチュア天体観測家たちはそろって瞬間を見逃していた。「急な目眩を覚えて横になり、気づいたら朝だった」ある天体愛好家は間の悪さを悔しげに語った。
流星が燃え尽きるわずか数秒の間、それぞれがごく些細な理由によって、同市内の全員が夜空の光を見逃した。ある者は目薬を点眼した直後で、外を行く者は目の乾きを感じてまばたきしたり目をこすり、また別の者は映画の終幕に感泣を浮かべるところだった。シャワーをかぶる入浴中の者や、終わらない課題に天を仰いで瞑目する者もいた。一日の終わりに音楽を掛けて安らぎに包まれながらうっとり目をつぶる者もいた。愛しい人へはじめて唇を重ねる者もいた。誰かは暗闇に頭を垂れて祈りを捧げていた。
ここに語られない多くの人々は眠っている時刻だった。
(十万人の瞼の裏で閃光が夜を裂く。閃光は音もなく燃え尽きる。)
(「感泣を浮かべる」より「感涙を浮かべる」のほうが適切だと思います。単に誤字です)
解説
何が「ヘキ」だったか
Q.ヘキってなに? A.性癖のことです。性癖とは、性質の偏りやクセのことで、広義に解釈されます(混同されがちな性的嗜好は狭義的に含まれるもの) 気づけばいつも書いてしまうシチュエーション、頻繁に登場させてしまう性格・設定のキャラクターや関係性、または舞台などなど。森や空の描写が多い、登場人物をよく笑わせる。そういうものも性癖のひとつだと思います。 つまりヘキというのは、あちこちに散らばっている作者の王道でもあるのです。
引用元: 第2回 #ぷちヘキ企画 執筆者紹介
ヘキ1: 私の世界・私とあなたの世界のどちらでもない開いた世界
まず前提として、「Aを選ぶ」ことは「Aではないものを選ばない」のと同義であることを確認させてください。
「何が嫌いかより何が好きかで自分を語れよ!」
(引用元)というネットで有名なセリフのとおり、余計な喧嘩を起こさないためには何が好きかを語る方が得策なのですが、私は否定神学的な語り方でしか語り得ぬものがあると思うので、あえて「Aが好き」ではなく「Aではないものを選ばない」ことについて書かせてください。当然ながら私が「Aではないものを選んだ」と表明するのは私の価値観の明示が目的であり、Aの愛好家を下に見てはいません。(最近NHK番組「100分de名著」のテキストでブルデュー『ディスタンクシオン』の解説を読んだためその影響も受けています。)
否定神学: 形而上の存在である神は「神は〜ではない」という否定形でしか語れないとする方法論。
その上で私がこの掌編に込めたヘキ(ここでは執筆の目標)は、「私の世界」「私とあなたの世界」のどちらでもない開いた世界でした。
まず本企画の文字数制限が500字強(文庫本片ページ相当)とミニマルな規定であり、おそらく「私が目を閉じる独白」または「私とあなた二人の世界で、私またはあなたが目を閉じる」語り方がポピュラーで書きやすいだろうと考えました。
そして「私の世界」「私とあなたの世界」は私のヘキではない=それは書いても楽しくないと強く思いました。
つまり、私の世界・私とあなたの世界のどちらでもなく、制御できない多くの他者を書こうと決めました。
(「(恋愛関係的な)ふたりだけの閉じた世界を信じられない」旨は『ツーリスト』でBa.が語っていますが、『ツーリスト』の収録はDrive to Plutoではなく『これは物語ではない』なので推理は難しかったと思います)
(とはいえ『She Sells Sea Shells by the Seashore』や『フラジェル』は閉じた世界の話です。She Sells〜は若干「大勢の社会の中で今は二人きり」みたいな語り方ですが)
目を閉じるシーンはさまざまな状況と動機、意図がありえます。また目に関する慣用句も多く、例えば「悪事に目をつむる」という表現が使えます。どのような「目を閉じるシーン」を書くか考えるうちに、シーンや目を閉じる人数を一に絞らなくても良いと考えました。
そうして「奇跡1が起きる」「奇跡1を全員が何らかの理由で見逃す(目を閉じていた)奇跡2が起きる」筋書きになりました。
アイディア出しの段階では「1.街中の猫が後ろ足で立った」「2.誰も見ていなかった」案がありました。
ヘキ2: モチーフ「(ローカルとしての)東京都」「夜」「宇宙」
全員が見逃した内容は素直に流星になりました。隕石にする案もありました。ピンチョン『逆光』が好きなので……(参考: ツングースカ大爆発)
題材を惨劇(例えば交通事故やパブリックな建築の崩落)にはしたくない、また凶事を全員が見逃したことで惨劇が起こる展開にもしたくないと考えていました。
最初のメモでは「"全員が"見逃して流星を誰も観測しなかった」と書きましたが、流星の観測可能範囲を調べるうちに特に火球レベルの強い光では"全員"が見逃すのは無理と知り、都市のある一つの区画がまるごと目を閉じたようにしました。これは宮沢賢治『銀河鉄道の夜』で書かれた銀河にあいた穴のような暗黒星雲(コールサック)をちょっとだけ意識しています。
東京都◯◯市なのは、地方としての東京都が好きだからです(最初の案では◯◯県でした)。これは完全にヘキ。
参考作品『Drive to Pluto』
というわけで私のヘキは「東京都」「夜」「宇宙」そして「多くの人々がばらばらに各々の生活をしている」でした。
『Drive to Pluto』の『ミッドナイト・ヘッドライト』には全要素があるのでヒント用の作品に選定しましたが、『ミッドナイト・ヘッドライト』が普通にちょっと長い作品なのではじめましての方に試し読みをさせるには酷だったと思います。
あと『ミッドナイト・ヘッドライト』をヒントにするにはバンドものや若者の恋愛の要素がノイズになったかもしれません。
参考作品に『これは物語ではない』を挙げる案もありますが、これはタイトルから「なんかおかしい作品だ → つまりEで一番おかしい作品の作者だ」と推理されそうだったので外しました。いまにして思えば無駄な抵抗でした。
あと、書いているときは本当に意識していなかったんですが、「存在したのにその瞬間誰も(その街の人は)見ていない」「誰にも見られず音もなく燃え尽きる」存在と存在を知覚する者の関係みたいなものが山川さんぽかった
(
というご感想もあり、これは本当に私の癖かもしれないです。
作者当てクイズを逃げ切るか・当てられて照れるか
覆面を外さず作者当てクイズを逃げ切るかも考えたのですが、覆面でも分かっちゃうぐらいの個性を認められた方が遊びとして楽しいと判断しました。
作者当てクイズの結果
バレバレでした。
私に隠す気もなければ似た作風の人がグループ内にいなかったので、一行目からすぐバレました。
13票目まで全員がE-2を選び、14票目ではじめてE-2を外して票を入れた方がいましたが、たぶん14票目ではじめて企画のタグを辿って来た初見の方が現れたんだと思います。
いずれにせよ1〜4のどこに投票した方も、偏るどころかほぼ一択だった途中経過を見て笑ったことでしょう。
検証: 作品を読まなくても作者を当てられるのか
本当にバレバレだったので、試しに私の小説を1行も読んだことのない私の弟に、どれが私の作品に見えるか聞いてみました。
弟「まずE-4はちがう。なぜなら、お前は残業しない」
私「それは正解だけど"しないこと"を書くことだってあり得る、殺人したことない作家でも殺人犯を書く」
弟「でもお前は自分が嫌いなものは絶対に書かない、俺には分かる」
私「なんでそう思うの」
弟「俺がそうだからだよ」
弟「それからE-3もちがう。なぜなら、お前は小さいカタカナの"ッ"を使わない」
私「それは正解」
弟「残ったE-1,E-2を比較して、E-1はちがう。なぜなら、お前は会話を書かない」 私「書くわ」
過程は間違っていますが結果的に正解でした。
ボツ
最後にボツ校とボツ理由を紹介します。
ボツ1: メタフィクション
気まぐれにショートショートの企画に作品を投稿しようとしたものの、36字×15行の文字数制限に早速私は悩まされた。企画のお題は「目を閉じるシーン」だが、これはどのようにも解釈できる自由題みたいなもので、発想が貧困な私は頭を抱えながらまずは「目を閉じる」を類語辞典で引いてアイディアを集めた。「まぶたを閉じる。瞳を閉じる。瞑目する。目をつむる。何も見ない。眠る。(永遠に)眠る。」エトセトラ。生活の中で目を閉じるシーンを連想して書き連ねてみた。異物が目に入る。眩しくて目を閉じる。祈るとき。瞬き。化粧をする。目薬をさす。都合の悪いことに目をつむる。目を閉じてイメージを思い浮かべる。瞳を閉じて君を描いたり、一番光るお前がいたり。照れながらも期待して目をつむってその時を待つ――いわゆるキス待ち――バカバカしい。これを書いているのは執筆期日の一月三〇日深夜十一時四四分。アイディアはバラバラないくつかの文節のままで小説に固まる気配は無い。椅子にどっかり腰を下ろして眉間を指で抑えながら、諦めて私は目をつむった。
と私は書いた。
ボツ理由: 〆切までに間に合わなかった時用に書いた作品のため。これを書いたのは〆切3〜4日前で十分余裕がありました。
ボツ2: ホラー
原因不明の奇病で視力を失っても、彼女は毎朝の化粧をやめなかった。手癖でやっているのよと彼女は言うが、今まで通りに居間の机に鏡を立て掛けて、見えない鏡に向かって目を瞑りアイラインを引くさまには毎朝目を見張るものがあった。たしかに彼女は日々憔悴していたが、私は彼女の代わりに化粧の出来栄えと彼女の変わらぬ気高さを称賛した。私は彼女の対面に座って、彼女が向き合う鏡の代わりに彼女の化粧が仕上がる様子を眺めているのが好きだった。
彼女は私達の家で看取られることを望んだ。私達は限られた大切な時間を我が家で過ごし、彼女は私と手を繋いだまま眠るように息を引き取った。
私の涙が枯れた頃、ようやく私は遺品整理に取り掛かった。あの頃を懐かしみながら化粧道具を一つずつ手に取るにつれ、私は不意に化粧をする欲求に駆られた。彼女の愛用品を私の顔に重ねることで亡き彼女と精神も重ね合えるのではないかと虚しくも願い、化粧道具を机に並べて、彼女の鏡を眼前に立てた。
はやる気持ちは一瞬のうちに砕け散り、私は目を疑いながらも、鏡に映る私から目を離せなかった。
彼女が毎日覗いた鏡の中には、目を瞑った私が映っていた。
「鏡に映った自分の顔が目をつぶっていたら怖い」というワンアイディアで書きました。
ボツ理由: 「ヘキ」=大好きを詰めた作品とは言い難い。
語り手の性別が名言されないことで、異性愛(マジョリティ)ではない可能性がある又は異性装が示唆されている点は(倫理的に)好きですが、それだけです。
投票ありがとうございました
企画の参加者数が多い(総勢28名!)こともあり、多くの方にお話を読んでいただけたことにお礼申し上げます。
今回の私のE-2の掌編を気に入っていただけたら、私の普段の作品もぜひ読んでくださるととても嬉しいです。
メタメタしい群像劇。東京都郊外を舞台に、喋らない少女と透明人間が青年の家に居候する話など。
1997年結成・2006年に活動停止した架空のロックバンドの「逸話」まとめ。
(ぷちヘキ企画に参考作品として提出しました)
書籍(同人誌)ではこういった作品があります。
黒い本文紙に黒いインクを使用した「読めない」特殊装丁本。
当サイトの「fiction」ページに各作品の説明があります。
これらの作品もお楽しみいただけますことを願います。