野鳥いろいろ
外に出ると早速、他所さまの庭木に、なにかチュンチュン囁き合う群れが集っていた。
「シマエナガ!?」と思い近づくも……
「スズメですね」
「スズメかあ」
日本にいるスズメは英語で“Tree Sparrow”と呼ばれている。ヨーロッパではイエスズメ “House Sparrow”という別種が街に住んでいて、日本の“Tree Sparrow”は森のなかに住んでいる。
スズメはユーラシア大陸に広く生息しているが、地域によってこんな差があるのが面白い。
[amazonjs asin=”486255377X” locale=”JP” title=”にっぽんスズメ歳時記”]木々の上を、長い尾の小鳥が波を描くように滑空した。「ピ──ヨ、ピ──ヨ!」と大きい声だ。
「あれはヒヨドリ、鳴き声が『ヒーヨ、ヒーヨ』だからそのままヒヨドリって呼ばれてる」
「レアリティは?」
「……★1か★2かな? シジュウカラと同じくらい。日本ではよく見かけるけど、実は世界的には珍しくて、東アジアの一部にしか生息していない」
ピ──ヨ、ピ──ヨ! と叫んでいる尻尾の長い小鳥がいたらヒヨドリだ。鳴き声はTVドラマの野外シーンでもときどきマイクに拾われている。見た目はスズメよりも小さく、ハトより小さい。ムクドリやツグミと同じくらいの大きさだ。ぼさぼさの頭・赤い頬・V字にへこんだ長い尾の外見を覚えれば、簡単に見つけられる。
日本ではどこでも見かける野鳥だが、生息地は日本、朝鮮半島南部、台湾など、東アジアの一部に限られる。日本国外ではちょっと珍しい鳥ということだ。
ちなみに肉は鶏のハツ(心臓)のような濃い血合いの味がして美味しかった。以前ジビエ料理の店で食べたことがある。日本では鳥獣保護法で捕れないはずだが、私が食べたのはどこの産地のヒヨドリだったんだろう。
ヒヨドリの声はすぐ近くでよく聞こえるが、目当てのシジュウカラの声は遠い。まずはシジュウカラを探さなければ。
北海道の樹木
シマエナガは混群を作ってシジュウカラたちと一緒にいる。ではその混群をどうやって見つけるのか? 小鳥は果樹に集まっているだろうとなんとなく当たりをつけていたが、北海道の植生は東京とは違っていた。
「エナガは雑食性で、野生では虫を食べて、エサ台では牛脂をつついてるんだよ。あとは木の実とか樹液とかを食べてる。だから実のなる木に集まっているかも。カキの木とか……」
「北海道はカキないよ」
「……えっ!!」
自宅近所で見かけるシジュウカラ・エナガの混群は、柿・ミカンなどの樹木に群がっていた。私はそのつもりでいたのだ。
カキ(柿)は温帯の植物のため、亜寒帯である北海道での生育は不向きのようだ。北海道に柿が全く無いわけではなく、北海道南部の伊達市は比較的温暖な気候のため、柿が生育できる(外部サイト)。
北海道はミカンの栽培も行っていない。生育できないわけではないが、出荷用に栽培するには不向きらしい。国立研究開発法人国立環境研究所によると、たぶん未来永劫北海道でミカン栽培は向かないようだ(外部サイト)。
そういえば、アメリカ・ヨーロッパなどの地域には柿がないので、日本へ来る観光客は「冬になると実るオレンジ色の実」として柿を珍しがっている、と聞いたことがあった。私は主にイギリス・アイルランド・ベルリン以東の中欧を回ったので、そのあたりの風景を思い出す。夏涼しく冬寒い地域なので、ミカン(オレンジ)の実もあの辺りではあまり見かけないだろう。(地中海気候のマルタ島でもオレンジの木は見かけなかった気がする)
札幌郊外ではシラカバの木をよく見かけた。ヨーロッパの都市間をバスや電車で移動しているとき、シラカバ林を車窓に見た。都民の私には、シラカバ林は本州でも高原に行かなければ見かけない珍しい木で、ヨーロッパ旅行の思い出もあってとても異国情緒を感じた。でも道民にとってはこれが日常風景とのことだった。
イチイの木もよく見かけた。小指の先ほどの大きさで、赤いベルのような小さな実をつけた常緑針葉樹だ。赤い実と緑の葉のコントラストが美しい。
「イチイの木だ」と私が言うと、「オンコの実がどうしたの?」とルチアナさんが言う。イチイは東北と北海道でオンコという名前で通っている。道民にとってオンコ(イチイ)は特別に親しまれている樹木なんだろうと思った。
イチイも寒冷地に適応した樹木で、赤い実が美しいのでヨーロッパの庭園に用いられた(プラハの宮殿の庭木にも見かけた)。イチイの種子をおおう赤い果肉は食べられるが、種子本体やその他の部分には毒を含んでいる。
植生も空気の冷涼さも、北海道の空気はたびたびヨーロッパを思い出させた。どこでもいいから、未踏の地を歩くのは大好きだ。ヨーロッパ滞在中の二ヶ月間はだいたい毎日どこかを歩き回っていた。アウトドア・スポーツの経験はないが、もしかして、これから登山やトレッキングも好きになれるかもしれない。今までは街を歩くのが好きなのだと思っていたけれど、丘や平原や崖っぷちの風景がとても好きだと気づいた。
しかし、北海道も東京も沖縄も「日本」の風景は均質化している。それぞれ異なる歴史を歩み、異なる気候の街であるにもかかわらず、住宅地の表層はどこでも似通っている。ニュータウンに生まれた私は、遠い札幌の街に対しても、自分の街と似ているところを探してしまった。坂道、橋梁、公園、神社、歩道橋にカフェ、ラーメン屋。異郷のはずなのに既視感が拭いきれなかった。
私が見た札幌の都市の表面が、東京と似ていると感じたのは、訪問したその時が穏やかな季節(秋)だったからだろう。いまごろはとっくに街の姿を変えているに違いない。10月半ばを過ぎた札幌で見事な紅葉を見たが、東京はいま(11月下旬)が紅葉の見頃だ。
(札幌の初雪は平年10月下旬ごろに降るが、今年2018年は平年より23日遅く、11月20日に降雪した。/札幌 ついに初雪 128年ぶりの遅さ @tenkijp)
シジュウカラ発見! 身近な賢いやつ
昨日キタキツネを見た公園に到着した。高いケヤキの木の上の方で、小鳥の鳴き声が聞こえる。木々の葉は美しく紅葉していた。バードウォッチングにはまだ少し早い季節だったかもしれないが、もう少ししたら今度は雪で動きづらくなるだろう。
バードウォッチングの季節は冬が好ましい。冬はエサを求めて鳥たちが人里近くまでやってくるうえ、木々に葉がないので小鳥を見つけやすい。さらに重要な理由として寒さで羽がもふもふしてまん丸でかわいいというのも外せない。
樹上にいる鳥が降りてくることを願いつつ、しばらく公園で時間を潰した。
とにかく、シジュウカラはいる。いっぱいいる。
シジュウカラ(四十雀)はビル街よりも庭や公園のある住宅地を好んでいる郊外型の小鳥だ。黒い頭に白い頬、背中の色は青緑で、黒いネクタイのような模様が特徴である。
さえずりは「ツツピー♪ツツピー♪ツツピー♪」とリズミカルで、地鳴き(≒素の鳴き声)も「ツッピ♪、ジリリリ」と繊細でかわいい。
英語では tit, 北米では chickadee と呼ばれている。tit と chickadee はともに擬声語で、鳴き声から名付けられた。
和名「四十雀」の由来は「この鳥1羽をスズメ40羽と交換したから」「たくさん群れる習性から」「鳴き声を称した」という説がある。カラ(雀)は小鳥全般の古い呼び方で、○○カラという名前の鳥はたくさんいる。
日本で見られるシジュウカラは学名 Parus minor といい、東アジアに生息している。ユーラシア大陸とアフリカ大陸の一部に分布している近縁種の Parus major は日本のシジュウカラより大きいので、英語では Great tit と呼ばれている。
2016年に総合研究大学院大学の研究でシジュウカラには文法(語順)を理解する能力があることが明らかにされた。
研究グループが、2種類の声を組み合わせた「ピーツピ・ヂヂヂヂ」を再生したところ、周囲を警戒しながら音源に近づくことが分かった。一方、順序を入れ替えた「ヂヂヂヂ・ピーツピ」への反応はなく、語順を正確に認識し、音声の意味を読み解いていたことが明らかになったという。
シジュウカラ、「文を作る能力」あった 新発見、言語進化を読み解く鍵に – ITmedia NEWS
掲載論文 (Nature Communications):Experimental evidence for compositional syntax in bird calls (Published:2016/03/08 )
2017年には京都大学の研究で、シジュウカラは文法さえ合っていれば他の鳥の言葉も理解できることが分かった。実験で、シジュウカラとコガラという別種の鳥の鳴き声の合成音を聞かせたところ、シジュウカラは文法にそって意味を正しく理解したという。母語と外国語の合成文から正しく意味を聞き取る能力が、シジュウカラにもあるということだ。
本研究グループは、同種・他種の鳴き声から合成した人工的な音列を聞かせることで、シジュウカラが初めて聞いた文章であっても文法構造を正しく認識し、単語から派生する文意を理解する能力をもつことを明らかにしました。
ヒトは文法を用いて新しい文章や多言語が混在した文章からでも意味を理解することができますが、この能力がヒト以外の動物において確認されたのは今回が初めてです。本研究成果は、文法能力の柔軟性を動物において初めて明らかにしただけでなく、私たちの言語がどのようにして進化したのか解き明かす上でも重要な発見です。
文法を操るシジュウカラは初めて聞いた文章も正しく理解できる — 京都大学(2017/07/28)
シジュウカラすごい! でも今回の目当てはシマエナガだ。シマエナガは……脳みそがシジュウカラよりも小さいから、シジュウカラよりも阿呆だと思う。たぶん。
ヤマガラ発見! シジュウカラのお友達
シジュウカラの群れの中に、ポケモンの「色違い」のような個体がいくらか混ざっている。シジュウカラのオレンジ色の「色違い」を見つけたら、十中八九ヤマガラ(山雀)だ。
ヤマガラは東アジアの一部地域のみに生息している。頭がよく芸を覚えたので、以前は「ヤマガラのおみくじ引き」などが見世物にされていた。(現在は鳥獣保護法で野鳥の飼育が禁止されている)
ヤマガラのおみくじ引きは見たことがないが、鳥のおみくじ引きは私も台北で見たような、気のせいのような……
江戸時代に書かれた『食物和歌本草』によれば、ヤマガラを食べると聡明かつ長命になるという。「神絵師(≒上手いイラストレーター)の腕を食らうと自分も絵がうまくなる」というネットのジョークみたいなことは江戸時代から言われていたようだ。
ヤマガラはシジュウカラより個体数が少なく、シジュウカラ以上に林・郊外の環境を好む鳥だ。ヤマガラがいるということは、野鳥にとって暮らしやすい環境ということだろう。ここにヤマガラがいるということは、シマエナガもこの公園を気に入っているかもしれない……と期待が高まる。
場所を変えたり、しばらく待っていると、見通しのいい木々の上に混群が集まってきた。シジュウカラはいる。ヤマガラもいる。しかしエナガらしき姿はまだ見つからない。
いや、木の表面に、シジュウカラやヤマガラとはあきらかに違うシルエットの小鳥がとまっていた。鳴き声も違う。


