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ブックデザイン解説4:イラスト(扉)

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円のモチーフ

扉ページにもイラストがあったら親切&お洒落だろうということで、本文のイラストも構想の早いうちに決めていました。

これも単にカットイラストを置くだけでは、芸がないとまでは言わなくても何かしっくり来ませんでした。色々描いているうちに、「空」の観覧車を描いたとき、同じ場所に丸いモチーフを配置して、円環や繰り返しを暗示させる現在の案に落ち着きました。見た目的にも統一感があり、イラストを配置することに必然性が生まれます。

過去作の読者が本文をパラパラとめくったときに、書き下ろし「fault」「空」の絵を見て「こんなモチーフが作中にあったっけ?」と驚いてもらう意図もありました。

 

各作品の扉絵

『solarfault』:コップ

炭酸水の入ったグラスを上から見た様子

 

『水底の街について』:満月

『solarfault』でエクリさんが指した「新月」や、「ルナティック」なイメージもあると思います。

他作品の話ですが、『Drive to Pluto』登場人物の木場太陽は本当に「自称太陽」ですが、月くんは「月」ではありません。

 

『fragmetns』:ピザ

表紙のイラストはマルゲリータですが、本文中(p.91 小説内)で「工場長」と食べていたのは蟹マヨネーズでした。これは小説を書いている方の森澤が食べていたピザ(p.112)です。

っていうかマルゲリータピザを描いたあとに「作中のピザはマルゲリータじゃないじゃん」ってことで「キッチンでは食べかけのマルゲリータピザ〜」の一文を足しました。

『fragments』のモチーフといえば空のメッセージだとは思いますが、まあ描けないものなのでこちらで。

 

『あとがき』:灰皿と煙草

左・フィルターが茶色い吸いさし
ヒノモトのキャメル(小澤拓人と同じ煙草)

右・フィルターが白い吸い殻
神原のピース ひとが吸ったフィルターのヤニってきったないですよね

 

『fault』:カフェオレ

『solarfault』が真夏の冷たいソーダだったことの対比で、暖かい飲み物にしました。

あとはシルエットに変化をつけるために、カップを持つ手を加えています。

 

『空』:観覧車

モデルはp.178の情報「観覧車 直径○m 東京」でググればすぐ見つかります。(パッヘルベルのカノンが流れるのはたしかお台場の方だったような)

この観覧車の絵から「丸モチーフの反復」を思いついたので思い入れのある絵です。

過去作に観覧車は登場したことがありません(私の記憶が正しければ……)過去にない書き下ろしがあることを示すために、裏表紙の帯の下に配置しました。

 

各ボツ案

上:『fragments』のビデオの画角。端に何かしらの近景が見切れている。

中・左:『solarfault』コップ

中・右:『水底の街について』月くんのコンバース・ハイカットスニーカー。実際「満月」モチーフより、月くんによる踏破の記録の方が『水底の〜』のメインテーマっぽいですが、絵の都合で満月になりました。

下・左:『あとがき』の煙草または煙のみの案。

下・右:書き下ろし部分『空は晴れて』の案。このときは『fault』『空』に作品を分ける予定はありませんでした(まだ書いてなかったので)。最初は『fragments』のビデオの画角に合わせて、すべての挿絵を16:9比率で描く案もありましたが、揃っているというだけでそんなに必然性があるわけでもないのでボツ。

 

拍子のタイポグラフィ案と合わせて。ひどすぎるラフスケッチ。

 

表紙・p.1扉

丸く切り取られた水面の写真です。

https://twitter.com/solarfault

これはTwitterで「solarfault」と検索すると検索結果のTOPに出るアカウントです。このアカウントはもう更新されることはないようですが、『solarfault』発表当時(2012年)の様子が見られます。

Twitterで検索をした人と、この文章を読んだ人しか気付けない隠し要素ということで。

はじめての人物イラスト表紙

私は登場人物のイラスト表現もWeb上に公開していますが、本の表紙にイラストを配置するのは今回がはじめてです。

というのも今回は「初心者向け」を目標にしているため、イラストを表紙に使ったら、イラストから私の創作を知って小説をまだ読んだことがないという方も手に取りやすいだろうと考えたからです。

一方で私の小説の作風では、ライトノベルの表紙ほどイラストを全面的に押し出さない方がいいとも判断しています。ライトノベル風のイラストを配置すると「ライトノベルを好ましく思わない純文学趣味の読者」が敬遠すると思ったからです。本作のカテゴリはたぶんライトノベルではなく純文学なので、純文学読者を逃したくはありませんでした。(本作は「ライトノベルファンや小説メディアに親しみのない人が初めて読む初心者向け純文学」のような立場でありたい)

というわけで、イラストは現在流通している純文学・大衆文学に採用されるような画風を目指しました。

また人物の目線も、読者の方(手前)に向けずに横顔にすることで「イラストによって小説のイメージが固定されるのが嫌い」だったり「キャラクターが読者に向かってこびているような表現が嫌い」という読者に対してもある程度は譲歩できたのではないかと思います。

 

アイディアスケッチいろいろ

まだ人物イラストを採用していないとき最初期のスケッチです。

タイポグラフィで「Solarfault」というタイトルを表現しようとしていました。最初は「空は晴れて」というもうひとつのタイトルはありませんでした。

左は観覧車と周囲の街のモチーフ、右はプールの水面の屈折のようにゆらゆら揺れる文字のイメージです。文字から液体が滴るイメージや、煙草の灰皿と重ねたロゴを制作する案もありました。

 

タイトルの書体案。タイポグラフィ案では、セリフ体のうろこの部分(線の端のまるまっている部分)から水滴がにじみ落ちるような表現をしたくて、フォント探しに走っていました。

あとで別のページで書きますが、本作で「f」の字(fault→false, fragments, 1/f etc…)は重要な要素なので差異化することを決めていました。

「solarfault」が solar + fault の造語であることを示すために、タイトルでは fault をイタリックにして語の切れ目を分かりやすくしています。

 

イラストスケッチ

人物を採用した最初の案。ガイドのために本文の版面設計を下書きに入れています。赤い横線が帯の高さです。

青い窓は飛行機の小さな窓のイメージで、なんとかして花束を持たせようとしていました。

 

次の案。赤い花束、白いワンピース、横顔、だいぶ完成版に近づいてきました。

まだ窓に引っ張られていますが、本文の挿絵が「丸」に決定したことで、表紙の背景も丸に代わり、現行デザインになりました。

 

イラストのボツ案

初稿:白ワンピース
締まりが無いというか、あまりお洒落ではない気がして悩んでいました。

別案:黒ワンピース(画像保存していませんでした)
画面は締まったけど花束と相まって葬式に見える気がする……

別案:白黒2トーン
なんかちょっとマリンルックっぽい気がして、彼女にはちょっと違うかもなと思いボツに。(別作品『これは物語ではない』のセレスタがマリンルックのイメージ。っていうかセーラー服です)

採用案:ベルト
ファッションってむずかしいですね(頭の悪い人のAA)

 

帯に隠れる「赤色」

ラフスケッチの段階で、書籍の帯の下にちょっとした隠し要素を入れたいと思っていました。

書籍デザインではなく本文に対する解説で書きますが、本作の隠しテーマカラーは赤です(眠れない赤い夜、煙草の火種、SIGNALREDS、飛行機)。

小口染をはじめ青色が印象的な本書の帯をめくった下の赤色に対して、未読者は「なぜ赤なんだ?」と首をかしげるところでしょうし、通読した方は花束に込められた優しい意味合いを喜んでくれるのではないかと考えました。

花束に使われた花材の内訳は別のページで解説しています。

花束について

 

「カギ括弧」のモチーフ

タイトル、作家名とサークル名の配置は「カギ括弧」を模しました。カギカッコで囲まれた「彼女」を表しています。

この配置はデザインをこねくり回しているときに偶然辿り着いたのですが、括弧付きで「語られる」存在には良い感じになったと思います。

表紙の「括弧」のモチーフは本文レイアウトにも採用しました。p.3目次、p.5扉「Solarfault」、p.163扉「空は晴れて」、裏表紙の「作家」「記述」が括弧で囲まれているのはこのためです。

 

ブックデザイン解説2:小口染加工

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そうだ、小口染しよう

『solarfault』シリーズの再録本を出すと決めた数日後のある深夜1時半

真っ青な小口染加工をしたら 『solarfault』の読者にバカ受けするんじゃない?

と天啓がおりました。たぶん悪魔の囁きだと思います。

作中で青色は『solarfault』のキーアイテムである「シロップ」の色だったり、『水底の街について』で滴り落ちる色であったり、思い出の中の夏の空や海の色として印象的に登場します。

本作が再録総集編で、青色が重要なモチーフであることは既存の読者には知られていました。読者へのファンサービス的な意味でも「青い小口染」は面白いのではないかと考えました。

 

天啓が降りてしまった翌朝から、実装方法の検証をはじめました。

(1) DIYコース

(2) おとなしく印刷所に任せるコース

 


(1) DIY

印刷所で製本までしてもらってから自宅で私ががんばるコースです。私の人件費を犠牲にすることで、書籍単価を抑えられます。

また私には「とりあえず試せるものは自分で試してみないと気がすまない」というDIYの不治の呪いが掛かっているので、すぐに画材屋に行って試さざるをえませんでした。

目標は「お手軽」かつ「色ムラがない」ことです。

 

(1-1) マーブル転写

参考:
https://madamsteam.com/neovictorianworkshop/190

水を用意するのが面倒くさいのですぐにボツ案にしました。ムラになるのも目に見えています。

 

(1-2) マーカーで小口を塗る

予想:

水性顔料マーカーを小口に塗ったらお手軽小口染めになるのではないか?

絵の具などの水分多めの素材は紙が波打ちそうだったので、マーカータイプの画材を選びました。また染料だと手に不着しそうなので、素材は顔料を選択しました。

予想される問題点:

・乾いてもなお手に顔料が付着するかもしれない
・むらなく塗るのが大変
・っていうか面倒→どれぐらい面倒な作業になるか、実際にやってみた

実験:

次の顔料系マーカーを購入。

・ポスカ 青
「特殊水性顔料インク」で非溶剤系
https://webshop.sekaido.co.jp/product/A119012

・リキテックス アクリルマーカー
038 セルリアンブルー ヒュー(不透明色)
041 ブリリアントブルー パープル(不透明色)
316 フタロシアニンブルー グリーンシェード(透明色)
アクリル樹脂、顔料マーカー、アルコール系
https://webshop.sekaido.co.jp/product/A119386

合計 440円 + 660円×カラバリ3色 = 2420円(世界堂割引後価格)

コピックに代表される油性染料マーカーは、紙への浸透が強すぎて、こういう用途には不向きらしいです。

結果:

メディウムがページとページの間に浸透してページがめちゃくちゃくっつきました。ボツ!

名刺ぐらいならこの加工はやっていいかもしれないけど、200ページ近い本でやるのはページがくっつくリスクが高すぎました。

 

(1-3) スタンプ台で着色する

予想:

スタンプ台には溶剤の油性・水性、色素の顔料・染料の違いがあります。染料インクは紙への染み込みが早そうなので、水性顔料・油性顔料で比較。

実験:

・ニューウォーターカラーインク
水性顔料

・ツキネコ ステイズオンピグメント マリーナブルー
油性顔料

ユザワヤで定価で買って合計1111円。本当は世界堂で買いたかった。

しかし:

ここで急速に面倒くさくなり、実験には至らなかった。

こうしてマーカー代と合わせて3531円が、経費の海へと深く深く沈んでいきました。

 


(2) 印刷所

一通りDIYを実験する前から「面倒くさい」ことが分かったので、小口染加工を実装できる印刷所を探します。

っていうかDIYは書籍の再販・増刷のたびに苦しみを負う羽目になるのでやめたほうがいいです。

さて、同人誌で「小口染」と呼ばれている加工は2種類あります。

 

(2-1) 「疑似小口染」=小口印刷

仕上がり線から内側3〜5mm程度をカラーで塗りつぶし、断裁時に裁ち落とし部分に色がついて見えるようにする加工です。

これを小口染と呼ぶユーザーもいますが、小口「染」ではないので即刻改めるべきだと思います(厄介な印刷クラスタ)

メリット

・小口染の着色料が手や他の本につくリスクがない

デメリット

・紙の断裁面の白色と色が混ざるので、発色は淡くなる
・小口「染」ではない=作中の「シロップ」などの「浸透する液体」のイメージを与えられない
・本文のページの端3〜5mmの部分に色ベタが入る。読書中にジャマになる

また定形外の変形サイズに本文フルカラー仕様を合わせると、許容できる単価をオーバーしました。なので印刷による実装はボツ。

 

(2-2) 本物の小口染

というわけで印刷所を使って本当に小口染する加工を採用しました。

ちなみに今回使用した印刷所のスターブックスでは、エアブラシで着色料を吹き付けているそうです。ご家庭にエアブラシのある方は試してみてはいかがでしょうか?

(実は実家には家族の私物の模型制作用エアブラシがありましたが、借りに行くのが面倒くさかったので試しませんでした。ご家庭にエアブラシのある家もあるんですよ)

 


小口染、実際どうなのか?

「小口染したから」良い本になるわけでなく、本の別の箇所(表紙装画の色や、帯の色や、本文の描写)との兼ね合いで評価は変わるし、その評価は読者に任せます。

制作者として予想していなかった良い効果は、ベージを開いて読書している間は小口の色合いが薄れる点です。「青色を溶かして薄める」ことも『solarfault』のメインモチーフなので、読者も「本を読んでいる間は青色が薄まる」という物体としての疑似体験ができてしまいます。

写真:『Solarfault, 空は晴れて』小口染部分

コンセプト

小説本文・書籍のデザインともに、本作では親切・初心者向けにすることにしました。

はじめて山川夜高という作家の小説を読んだ人は「なんで自信満々にそんなことを言うんだ?」と引くこと間違いなしですが、私の作品は基本的に読みづらいです。

これは文法が稚拙で読みづらいといった理由ではなく(ですよね??)、次のような要因のせいです。

 

(1)
文章上でしか起こり得ない(映像化・音声化などの変換ができない)出来事を書いているので、読者が「想像」しなければ理解できず、結果として読者に脳トレを強いる

(1-1)
「(作品名) 考察」「(作品名) 解説」みたいな検索ワード使われがち というイメージ(それで本当に検索されているかは知らないしHit数ゼロでしょう)

(2)
情報が1タイトル内で完結していない。複数作品を読まないと内容を網羅できないことがある。

 

が、本作『Solarfault, 空は晴れて』ではどちらの要素も極力減らして、本作の書籍1冊で情報が完結し、読後にカタルシス・納得・爽やかさを得られるようにしました。

*「当たり前じゃん」と思われるかもしれないが、辛口カレー(本当に辛い)専門店がはじめて中辛味を出すようなものです。

頂いたご感想を読むに「1周目での理解度は読者の体感で7割程度」みたいです。「分かりやすく書いた」つもりでもこれぐらいなので、やはり強めの「分かりやすさ」調整を加えて良かったと思います。

 

本文の「親切設計」方針と合わせて本の見た目でも「この本は親切です」アピールをしつつ、ジャケ買いも狙えるような良い見た目にし、変わった装丁でないと満足できない既存読者もご満足いただけるような仕様にしました。

本作では「親切」かつ「特別」な本を目指してデザイン実装を進めました。


判型

本を作るときは、寸法→本文の版面設計(文字組・余白を決める)→版面設計に合わせて表紙デザインから全体の雰囲気を詰める 順番でやっています。

 

寸法:新書判

本作の寸法は横110×縦182mmです。縦長の形は重心が高くなって不安感を与える効果があるので、本作に合うかなと思いました。

この判型は「新書判」と呼ばれるサイズですが、実は流通する「新書判」の本に決まったサイズはありません。洋書のペーパーバックを参考に「新書判」を初めて発行したのは岩波書店ですが、製造にあたってサイズの統一規格はなく、現在も出版社各社がめいめい違ったサイズで発行しています。

新書判のデメリットは、規定サイズがないため本棚で他の本に合わせてぴったり収納しづらいことです。今回は高さをB6判(128×182mm)と同じ高さにして、収納しやすさを目指しました。代わりに文庫本用の本棚には入らないですけどね。

横幅(110mm)は文庫本と同じ幅105mmにするか迷いましたが、方眼紙に実物大の図を書いて「これぐらいのサイズ感の方が使いやすそう」と判断して決めました。

 

Q. はじめから文庫判またはB6判で作ればよいのでは?

A. でもあの見た目かわいいでしょ?

 

サイズが持つ意味・高級感

文庫本は「小サイズで廉価な本」という位置づけで発行される判型なので、文庫本のサイズで「高級感」「特別感」を感じさせるのは難しいと考えています。(箔押しなどの高い後加工をすれば高級感が出るというわけではありません)

B6ソフトカバーも扱いは難しいと思っています。私の旅行記『連ねたり想う』ではうまくいっていると思いますが、カバーなしB6判はそのまま作ると「書籍」感よりも「冊子」感が出てしまい、何か安っぽい印象になるかもしれません。いま自分が作るならもう一工夫します。

新書判は洋書のペーパーバックを参考に考案された判型です。なので新書の縦長のサイズ感にはなんとなく洋書風のアトモスフィアが漂い、カミュとかブランショとかを引用しちゃう森澤くんの物語にはいいんじゃないかなと思っています。

書籍カバーがない(ペーパーバックスタイルである)技術的な事情については、後述の「使用用紙」のセクションで紹介します。

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