ブックデザイン解説1:コンセプト・判型
コンセプト
小説本文・書籍のデザインともに、本作では親切・初心者向けにすることにしました。
はじめて山川夜高という作家の小説を読んだ人は「なんで自信満々にそんなことを言うんだ?」と引くこと間違いなしですが、私の作品は基本的に読みづらいです。
これは文法が稚拙で読みづらいといった理由ではなく(ですよね??)、次のような要因のせいです。
(1)
文章上でしか起こり得ない(映像化・音声化などの変換ができない)出来事を書いているので、読者が「想像」しなければ理解できず、結果として読者に脳トレを強いる
(1-1)
「(作品名) 考察」「(作品名) 解説」みたいな検索ワード使われがち というイメージ(それで本当に検索されているかは知らないしHit数ゼロでしょう)
(2)
情報が1タイトル内で完結していない。複数作品を読まないと内容を網羅できないことがある。
が、本作『Solarfault, 空は晴れて』ではどちらの要素も極力減らして、本作の書籍1冊で情報が完結し、読後にカタルシス・納得・爽やかさを得られるようにしました。
*「当たり前じゃん」と思われるかもしれないが、辛口カレー(本当に辛い)専門店がはじめて中辛味を出すようなものです。
*頂いたご感想を読むに「1周目での理解度は読者の体感で7割程度」みたいです。「分かりやすく書いた」つもりでもこれぐらいなので、やはり強めの「分かりやすさ」調整を加えて良かったと思います。
本文の「親切設計」方針と合わせて本の見た目でも「この本は親切です」アピールをしつつ、ジャケ買いも狙えるような良い見た目にし、変わった装丁でないと満足できない既存読者もご満足いただけるような仕様にしました。
本作では「親切」かつ「特別」な本を目指してデザイン実装を進めました。
判型
本を作るときは、寸法→本文の版面設計(文字組・余白を決める)→版面設計に合わせて表紙デザインから全体の雰囲気を詰める 順番でやっています。
寸法:新書判
本作の寸法は横110×縦182mmです。縦長の形は重心が高くなって不安感を与える効果があるので、本作に合うかなと思いました。
この判型は「新書判」と呼ばれるサイズですが、実は流通する「新書判」の本に決まったサイズはありません。洋書のペーパーバックを参考に「新書判」を初めて発行したのは岩波書店ですが、製造にあたってサイズの統一規格はなく、現在も出版社各社がめいめい違ったサイズで発行しています。
新書判のデメリットは、規定サイズがないため本棚で他の本に合わせてぴったり収納しづらいことです。今回は高さをB6判(128×182mm)と同じ高さにして、収納しやすさを目指しました。代わりに文庫本用の本棚には入らないですけどね。
横幅(110mm)は文庫本と同じ幅105mmにするか迷いましたが、方眼紙に実物大の図を書いて「これぐらいのサイズ感の方が使いやすそう」と判断して決めました。
Q. はじめから文庫判またはB6判で作ればよいのでは?
A. でもあの見た目かわいいでしょ?
サイズが持つ意味・高級感
文庫本は「小サイズで廉価な本」という位置づけで発行される判型なので、文庫本のサイズで「高級感」「特別感」を感じさせるのは難しいと考えています。(箔押しなどの高い後加工をすれば高級感が出るというわけではありません)
B6ソフトカバーも扱いは難しいと思っています。私の旅行記『連ねたり想う』ではうまくいっていると思いますが、カバーなしB6判はそのまま作ると「書籍」感よりも「冊子」感が出てしまい、何か安っぽい印象になるかもしれません。いま自分が作るならもう一工夫します。
新書判は洋書のペーパーバックを参考に考案された判型です。なので新書の縦長のサイズ感にはなんとなく洋書風のアトモスフィアが漂い、カミュとかブランショとかを引用しちゃう森澤くんの物語にはいいんじゃないかなと思っています。
書籍カバーがない(ペーパーバックスタイルである)技術的な事情については、後述の「使用用紙」のセクションで紹介します。
『Solarfault, 空は晴れて』
目次
「Solarfault」
- solarfault
- 水底の街について
- fragments
- あとがき
「空は晴れて」
- fault
- 空