ブックデザイン解説2:小口染加工
そうだ、小口染しよう
『solarfault』シリーズの再録本を出すと決めた数日後のある深夜1時半、
「真っ青な小口染加工をしたら 『solarfault』の読者にバカ受けするんじゃない?」
と天啓がおりました。たぶん悪魔の囁きだと思います。
作中で青色は『solarfault』のキーアイテムである「シロップ」の色だったり、『水底の街について』で滴り落ちる色であったり、思い出の中の夏の空や海の色として印象的に登場します。
本作が再録総集編で、青色が重要なモチーフであることは既存の読者には知られていました。読者へのファンサービス的な意味でも「青い小口染」は面白いのではないかと考えました。
天啓が降りてしまった翌朝から、実装方法の検証をはじめました。
(1) DIYコース
(2) おとなしく印刷所に任せるコース
(1) DIY
印刷所で製本までしてもらってから自宅で私ががんばるコースです。私の人件費を犠牲にすることで、書籍単価を抑えられます。
また私には「とりあえず試せるものは自分で試してみないと気がすまない」というDIYの不治の呪いが掛かっているので、すぐに画材屋に行って試さざるをえませんでした。
目標は「お手軽」かつ「色ムラがない」ことです。
(1-1) マーブル転写
参考:
https://madamsteam.com/neovictorianworkshop/190
水を用意するのが面倒くさいのですぐにボツ案にしました。ムラになるのも目に見えています。
(1-2) マーカーで小口を塗る
予想:
水性顔料マーカーを小口に塗ったらお手軽小口染めになるのではないか?
絵の具などの水分多めの素材は紙が波打ちそうだったので、マーカータイプの画材を選びました。また染料だと手に不着しそうなので、素材は顔料を選択しました。
予想される問題点:
・乾いてもなお手に顔料が付着するかもしれない
・むらなく塗るのが大変
・っていうか面倒→どれぐらい面倒な作業になるか、実際にやってみた
実験:
次の顔料系マーカーを購入。
・ポスカ 青
「特殊水性顔料インク」で非溶剤系
https://webshop.sekaido.co.jp/product/A119012
・リキテックス アクリルマーカー
038 セルリアンブルー ヒュー(不透明色)
041 ブリリアントブルー パープル(不透明色)
316 フタロシアニンブルー グリーンシェード(透明色)
アクリル樹脂、顔料マーカー、アルコール系
https://webshop.sekaido.co.jp/product/A119386
合計 440円 + 660円×カラバリ3色 = 2420円(世界堂割引後価格)
コピックに代表される油性染料マーカーは、紙への浸透が強すぎて、こういう用途には不向きらしいです。
結果:
メディウムがページとページの間に浸透してページがめちゃくちゃくっつきました。ボツ!
名刺ぐらいならこの加工はやっていいかもしれないけど、200ページ近い本でやるのはページがくっつくリスクが高すぎました。
(1-3) スタンプ台で着色する
予想:
スタンプ台には溶剤の油性・水性、色素の顔料・染料の違いがあります。染料インクは紙への染み込みが早そうなので、水性顔料・油性顔料で比較。
実験:
・ニューウォーターカラーインク
水性顔料
・ツキネコ ステイズオンピグメント マリーナブルー
油性顔料
ユザワヤで定価で買って合計1111円。本当は世界堂で買いたかった。
しかし:
ここで急速に面倒くさくなり、実験には至らなかった。
こうしてマーカー代と合わせて3531円が、経費の海へと深く深く沈んでいきました。
(2) 印刷所
一通りDIYを実験する前から「面倒くさい」ことが分かったので、小口染加工を実装できる印刷所を探します。
っていうかDIYは書籍の再販・増刷のたびに苦しみを負う羽目になるのでやめたほうがいいです。
さて、同人誌で「小口染」と呼ばれている加工は2種類あります。
(2-1) 「疑似小口染」=小口印刷
仕上がり線から内側3〜5mm程度をカラーで塗りつぶし、断裁時に裁ち落とし部分に色がついて見えるようにする加工です。
これを小口染と呼ぶユーザーもいますが、小口「染」ではないので即刻改めるべきだと思います(厄介な印刷クラスタ)
メリット
・小口染の着色料が手や他の本につくリスクがない
デメリット
・紙の断裁面の白色と色が混ざるので、発色は淡くなる
・小口「染」ではない=作中の「シロップ」などの「浸透する液体」のイメージを与えられない
・本文のページの端3〜5mmの部分に色ベタが入る。読書中にジャマになる
また定形外の変形サイズに本文フルカラー仕様を合わせると、許容できる単価をオーバーしました。なので印刷による実装はボツ。
(2-2) 本物の小口染
というわけで印刷所を使って本当に小口染する加工を採用しました。
ちなみに今回使用した印刷所のスターブックスでは、エアブラシで着色料を吹き付けているそうです。ご家庭にエアブラシのある方は試してみてはいかがでしょうか?
(実は実家には家族の私物の模型制作用エアブラシがありましたが、借りに行くのが面倒くさかったので試しませんでした。ご家庭にエアブラシのある家もあるんですよ)
小口染、実際どうなのか?
「小口染したから」良い本になるわけでなく、本の別の箇所(表紙装画の色や、帯の色や、本文の描写)との兼ね合いで評価は変わるし、その評価は読者に任せます。
制作者として予想していなかった良い効果は、ベージを開いて読書している間は小口の色合いが薄れる点です。「青色を溶かして薄める」ことも『solarfault』のメインモチーフなので、読者も「本を読んでいる間は青色が薄まる」という物体としての疑似体験ができてしまいます。
『Solarfault, 空は晴れて』
目次
「Solarfault」
- solarfault
- 水底の街について
- fragments
- あとがき
「空は晴れて」
- fault
- 空