She Sells Sea Shells by the Seashore
やっとひとりになれた。
しばらく種々のことで忙しくしていて、現場でのミーティングばかりだった。いろんな話を聞き、いろんな人に話をしたせいか、それともただの疲れなのか、自分の声が自分の物ではないような気がしはじめた。
やっと休みを頂けたのでひとりになった。窓辺にうずくまり、呆然と時を過ごしてみる。風が強く吹いている。
小説を書いてみないか と、ある雑誌から持ちかけられている。コラムの一つとして連載小説を書いてみないか、と。承諾したが、果たしてなにを書けばいいやら未だ見当がつかない。言いたいことはうたで歌えた。
いったいおれはなにを書くんだ?
物語なんて、大それたものを?
野音に耳を澄まし、宙に話しかける。
「いったいおれはなにを書くんだ」
もちろん返事はない。
「まあ、ちょっとは面白い」
「返事はない」
「やっぱり自分の声じゃないみたいだな」
風が窓枠を揺さぶる。裸足が寒い。
「あの子は大丈夫かな」
春の強風は、夜には嵐になるらしい。あの子がどこにいるかなんて知らない。
良い隠れ家を見付けられてればいいんだけど。僕じゃない誰かの元に。
それとも迷子になってるんじゃないか。帰るべきところがないのではないか。
あの子はひとりだ。いつだって決定的にひとりきりだ。
玄関を開けておいた方がいいだろうか?
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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