She Sells Sea Shells by the Seashore
電車は途絶え、真夜中にいる。
部屋の隅で、本とCDの山に埋もれて、君が寝息を立てている。
毛布をすっぽりかぶりうずくまるのが幼い流浪者に似ている。
細い腕。熱を留められない身体。
温かい場所を持ち合わせていないんだ。
君はひとつの空間も持ち合わせていないのかもしれない。身一つでさまよい続けていた。煙草とカメラだけを連れていた。
どうやら君にも名前があるらしい。でも僕が知る君はまるで物体みたいだった。目の前にいる姿が君のすべてで、過去も未来も友達もいない。君は写真を撮るというのに、君の記憶はきっと残らない。
君はどこにも留まれない。浮かんでは消え、漂い流れる。
じきに君は空気のなかに消えてしまう。そんな気がする。
選ばずとも君は生まれるべくして生まれてきたような気さえする。少なからずいるものだ。君はそういう存在で、この世にひとりは存在する。
君は漂流し、僕は待っている。何とは言わず、誰とも言えず、誰にも言わず、流れて来るものを待ちかまえている。一角に巣を張って流れて来るものを観測している。何も留めはしない。流れるものを流れるままに。海底の蟹のように。待っていた。流れる雑踏や時間や音楽。君が現れてから去るまでの言葉と動作を、受け入れて手放した。物体は何も留まらない。
君をひきとめはしない。けれども、僕が覚えている分にはいいだろう。思い出の中に確として君の記録が存在してもいいだろう。
君のことを書こうと思った。
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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