窓の外にも窓。家々や雑居ビルや高架を走る通勤電車。
身を乗り出せばもっと遠くまで。
他人の住む領域。
隔たれたセル。
他人がいる。
駅の傍のこの一角はアパートや雑居ビルが林立し、
窓から見える空はごく僅かな多角形に過ぎず、薄汚れて見晴らしは悪い。
駅前の巣窟めいた雑多な1マスの中に僕はまぎれて住んでいる。
遠目に見れば取るに足りないたくさんの窓の、その一角がひとつが僕の空間で、
ほかの部屋と同様取るに足りない一室である。
人口。
壁の向こうは見通せないが隔てた向こうには他人がいて、生活を想像することは許されている。
空間ごとにおおよそ一人は存在しているかしていたかで、活動中か不在時か空室かは見分けがたくても、
確かになにものかがあった。
そして僕も人からすれば途方もない未知の一角であり、一角であるということはただの一角に過ぎない。
何も特別な思考ではない。
何度も繰り返されてきた問題で、繰り返された数だけ見過ごされてきた問題でもある。
時には立ち止まらなくてはいけない。
立ち止まっていてもやがて歩きださなければいけない。
ずっと立ち止まって考えていたら生きる鼓動に着いて行けない。
時間も生物も流れるものだ。
でも、暇が出来たら思い出してみてほしいし、思い出してみるべきだ。
忘れていてもいいけれど、忘れていることを忘れてはいけない。
なかったことにしてはいけない。呼吸の空気だってちゃんと実体として存在しているのだから。
僕は忘れてきたものを思い出す手伝いをしたくてここにいる。
かたちを変えながら今に至るまで幾人もこういうパーソナリティーがいただろう。
僕は何も特別ではない。僕は珍しくないし、僕にできることしかしようとしていない。
やれることをやっている。でもきっと必要だからここにいる。
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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