She Sells Sea Shells by the Seashore

安いカメラなのだとSheは言った。レンズもプラスチックでできていて、フォーカス調整も出来ないし、フラッシュもついていなかった。デジカメは持っていなかった。というか眼中になかった。全くの興味なしで、嫌うまでにも至らなかった。
使い捨てカメラの方がマシなんじゃないか。そう思うと500円で旅行1回は記録できる使い捨てカメラはなかなか優秀だと感じ入るが、実はあの正体は“レンズつきフィルム”というらしく、あれはカメラではなかった。カメラがフィルムに付属しているのだ。あれには中身しかなかった。
使い捨てギターが発売されるのもそう遠くはないのかも知れない。一夜限りの音色。自分は使わないと思うけど。フィルムを入れ替え弦を張り替え、同じものを保ちながら同じ動作を繰り返す。繰り返す中で変化もある。死ぬまで。全ての大陸が沈没するまで漣は寄せつづける。同じ波はひとつとしてなく、同じような波がある。僕は同じような波のひとつ。
安いカメラは色飛びした。仕方ないのだとSheは言った。でもこだわっているわけではないと。こだわってこれを選んだのではないと。
この箱を持たざるを得なかった。僕はそう補完して解釈した。そして撮らざるを得なかった。記録を。現像した写真は明るく白んで色飛びせざるを得なかった。
受け入れるもあきらめるも同じことで、打ち寄せる波を押し返すことが出来ないように、僕達はいつも流されるままだ。
くたびれてこなれた女の子。色落ちしたような人物。波にのまれて丸くなるガラス。すり切れてなくなるまでのお話。

「することに意味なんてないと思うけど」

かおりをまとい白んだ吐息。

「撮り続けたら理由も分かるのかもね、なんて、言ってみるけどね」

本作は2013年に初版を発行した特殊装丁の小さな冊子『She Sells Sea Shells by the Seashore』をWeb用に再編したものです。
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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