She Sells Sea Shells by the Seashore

窓の外にも窓。家々や雑居ビルや高架を走る通勤電車。
身を乗り出せばもっと遠くまで。
他人の住む領域。
隔たれたセル。
他人がいる。
駅の傍のこの一角はアパートや雑居ビルが林立し、
窓から見える空はごく僅かな多角形に過ぎず、薄汚れて見晴らしは悪い。
駅前の巣窟めいた雑多な1マスの中に僕はまぎれて住んでいる。
遠目に見れば取るに足りないたくさんの窓の、その一角がひとつが僕の空間で、
ほかの部屋と同様取るに足りない一室である。

人口。
壁の向こうは見通せないが隔てた向こうには他人がいて、生活を想像することは許されている。
空間ごとにおおよそ一人は存在しているかしていたかで、活動中か不在時か空室かは見分けがたくても、 確かになにものかがあった。
そして僕も人からすれば途方もない未知の一角であり、一角であるということはただの一角に過ぎない。

何も特別な思考ではない。
何度も繰り返されてきた問題で、繰り返された数だけ見過ごされてきた問題でもある。
時には立ち止まらなくてはいけない。
立ち止まっていてもやがて歩きださなければいけない。
ずっと立ち止まって考えていたら生きる鼓動に着いて行けない。
時間も生物も流れるものだ。

でも、暇が出来たら思い出してみてほしいし、思い出してみるべきだ。
忘れていてもいいけれど、忘れていることを忘れてはいけない。
なかったことにしてはいけない。呼吸の空気だってちゃんと実体として存在しているのだから。

僕は忘れてきたものを思い出す手伝いをしたくてここにいる。
かたちを変えながら今に至るまで幾人もこういうパーソナリティーがいただろう。
僕は何も特別ではない。僕は珍しくないし、僕にできることしかしようとしていない。
やれることをやっている。でもきっと必要だからここにいる。

本作は2013年に初版を発行した特殊装丁の小さな冊子『She Sells Sea Shells by the Seashore』をWeb用に再編したものです。
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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