She Sells Sea Shells by the Seashore

積み立てたCDの山から選ばれたのはスピッツだった。たまたまあったから再生した。Sheははじめて聴いたらしかった。歌詞カードは読まなかった。

「すきなの?」「たぶん」

煙草に火をつける。「一本いる?」そっと断る。慣れた手つきで吐息する。
Sheは音楽を聴かない。ウォークマンも持っていない。うちにあるCDを聴くようになったのは、それが僕の持ち物だからで、僕の物は自由に使うと決めているらしい。Sheは、まったくもって自由にしていた。好きに泳がせていた。ミニコンポや猫に似ている。そこにあるだけのものごとであり、この部屋にあればいい。

「音楽を『再生する』の?」「変な言い方かな」「それまで死んでるの?」「止まっているんだよ」

止まっているものは死んでいる。機械も血流も。
音楽は流れると言う。空気を震わせ波打っている。ならば音楽の流れ着く先はあるのか。吹き寄せに音楽が留まり渦巻く、終の地、砂浜に打ち上げられて。

「死んだ音楽を拾い集める番人みたいな奴がいてね」
「なに、それ」
「かれはたぶんただ集めている。誰も無駄死にしないように」

中空の都市と無人の砂浜とたったひとりの番人がこの王国の登場人物で、それが僕の抱く空想の正体で、僕は番人に似ている。番人は変な詞を書く。

「はじめてヘルプで入ったバンドでスピッツのコピーをやった。ベースがすごく変だった」
「変?」
「高校の時だよ。下手っぴだったんだ。今もだけど」
「そう」
「気に入った?」
「そうかもね」
「音楽はラブソングばかりだね、She」
「あなたは 書かないの?」

君を?
振り返るとシャッターを切られた。

本作は2013年に初版を発行した特殊装丁の小さな冊子『She Sells Sea Shells by the Seashore』をWeb用に再編したものです。
『She Sells~』はランダムな15枚の紙片から成る作品です。
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