小説『Drive to Pluto』のスピンオフ作品です。
通常『DtP』では作中の日付を明記していますが、この話はどの時間のなかにも収まらないかもしれません。
登場人物紹介: 創作バンド紹介まとめ
Drive to Pluto, SIGNALREDS, 環-Tamaki-, カメラマンのモールス(毛利)が登場します。
カメラマンのモールス(毛利)と Drive to Pluto の関係は小説『Without Your Sound』を、
SIGNALREDS の高校時代については小説『別の人生』を、
青野(Drive to Pluto)の故郷の話は小説『flat』をご覧ください。
東京、東京
夏はとうに去っていくのに、秋はまだ季節の流れに追いついていない、季節の隙間、そんな日だった。
確かにすこしは涼しくなったけど、紅葉はまだ始まっていないので、ファインダーを覗いても風景が秋らしく映らない。ここ市ヶ谷の江戸城外堀は、桜の季節なら花筏の見ごたえがあるだろう。今はといえば、天高く続く筋雲を見上げると、かろうじて秋を感じるかなといった具合。
「サニサーの『東京』のジャケってこのへん?」
「あれ、内堀だって。千鳥ヶ淵らしいよ」
と、平日の昼間から集う面々の背中を僕はカメラの画角に収める。平日の昼間、日向に突っ立っていると少し汗ばむ陽気のなか、紅葉はまだ始まらず青々したサクラの木の木陰に腰を下ろして、6人の男が釣り堀のよどんだ水面に向き合っている。総武線の市ヶ谷駅のホームから見下ろせるあの釣り堀だ。
他にこの場にいるのは、おっちゃんと呼べばいいのか爺さんと呼べばいいのか判別できない皺くちゃな身なりの男たちと、下の子はまだベビーカーに乗っているような幼いきょうだいを連れた若いお父さん、それと僕たちで終わりだった。というか、僕たちがこの場にいちばんふさわしくない、説明しがたい変な面々だろう。僕たちは、ええと、暇なバンドマンだった。
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2014年から販売していたスイマーズの書籍『VANITAS』が2022年に完売しました。これまで多くの方にお手にとって頂きありがとうございました。
本作『VANITAS』は再版を行わず、書籍のPDFデータを無料で配信します。
掲載作のうち、山川夜高作『入江にて』の本文テキストを公開します(13600字)
入江にて
兄が帰ってきた日は特別おだやかで凪いでいた。晴れた日、妹が庭で洗濯物を干していると、白い軽トラックに乗った兄が知らせもなく帰ってきた。車を停めて降りた兄が、葬儀で着るような礼服の黒いスーツを着込んでいたので驚いた。かつての葬儀のときは兄もまだ学生だったから、スーツではなく黒い学生服を来て、お堂に正座したのを思い出した。
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『Fortuna Theatre / Without Your Sound』 A5判 48ページ
2017年5月7日 初版発行
カバー:クラシコトレーシング-FS うす鼠
本文紙:ミューズ 更紙
架空のロックバンド Drive to Pluto にまつわる2つのお話。
書籍通販 ・ データ配信(0円以上投げ銭制) で頒布中。
書き下ろし「Fortuna Theatre」
1999年5月、ダメ大学生の間ではタロットカードを用いた賭けゲームが密かに流行していた。連勝を重ねる青野理史のもとに、火星の衛星フォボスとその妹を名乗る兄妹が現れる。「いっしょに映画を観ましょう」と謎の兄妹に連れて行かれた青野は、校内の空き部屋を改造した地下映画館を訪れる。
web再録「Without Your Sound」
2000年3月、さえない写真小僧・毛利信護は一風変わった音楽レーベル・ファイネッジレコーズの事務バイトに就労する。事務所内はとっ散らかってきったなく、変なあだ名を付けられたうえ、おっかねえ所属ミュージシャンに勘違いからいちゃもんをつけられてしまう。果たしてゴミの日までに分別は間に合うのか。そして事務所で飼ってる猫は毛利に懐いてくれるのか。
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多摩美文芸部OB会『あげぱん』 B6判 220ページ
2015年11月1日 初版
多摩美文芸部2015年卒生
有志8名による文芸作品集。
表紙装画:千葉大二郎(2014年卒)
表紙装幀・副編集長・書籍内偽広告制作:稲生梓
本文装幀・編集長:山川夜高
山川夜高 『ミッドナイト・ヘッドライト』『flat』 収録
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