小説『Drive to Pluto』のスピンオフ作品です。
通常『DtP』では作中の日付を明記していますが、この話はどの時間のなかにも収まらないかもしれません。
登場人物紹介: 創作バンド紹介まとめ
Drive to Pluto, SIGNALREDS, 環-Tamaki-, カメラマンのモールス(毛利)が登場します。
カメラマンのモールス(毛利)と Drive to Pluto の関係は小説『Without Your Sound』を、
SIGNALREDS の高校時代については小説『別の人生』を、
青野(Drive to Pluto)の故郷の話は小説『flat』をご覧ください。
東京、東京
夏はとうに去っていくのに、秋はまだ季節の流れに追いついていない、季節の隙間、そんな日だった。
確かにすこしは涼しくなったけど、紅葉はまだ始まっていないので、ファインダーを覗いても風景が秋らしく映らない。ここ市ヶ谷の江戸城外堀は、桜の季節なら花筏の見ごたえがあるだろう。今はといえば、天高く続く筋雲を見上げると、かろうじて秋を感じるかなといった具合。
「サニサーの『東京』のジャケってこのへん?」
「あれ、内堀だって。千鳥ヶ淵らしいよ」
と、平日の昼間から集う面々の背中を僕はカメラの画角に収める。平日の昼間、日向に突っ立っていると少し汗ばむ陽気のなか、紅葉はまだ始まらず青々したサクラの木の木陰に腰を下ろして、6人の男が釣り堀のよどんだ水面に向き合っている。総武線の市ヶ谷駅のホームから見下ろせるあの釣り堀だ。
他にこの場にいるのは、おっちゃんと呼べばいいのか爺さんと呼べばいいのか判別できない皺くちゃな身なりの男たちと、下の子はまだベビーカーに乗っているような幼いきょうだいを連れた若いお父さん、それと僕たちで終わりだった。というか、僕たちがこの場にいちばんふさわしくない、説明しがたい変な面々だろう。僕たちは、ええと、暇なバンドマンだった。
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