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 美しい男であるというのは誰もが承知することだった。生まれもっての端正な身体の比率もさることながら、内奥に潜む精力的な野心が、彼を端正な人形に留まらせず、自らを燃やす炎のように彼を彼たらしめたのだろう。好意の有無に関わらず、美しい男であるというのは揺るぎようのない事実だった。それでも彼の美を認めたくない人は、口を揃えて、恐ろしいという形容を選んだ。どちらも同じ意味だった。0は美しく恐ろしい。それは誰もが知っていた。

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link: 『Cipher』予告編

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 彼は、家の前の海で拾われた水死体だった。とてもきれいな身なりをしているからと兄が私に与えたのだった。死んで蒼白で痩せこけた彼は夜の水中のように深く暗いなにもうつさない眼をしていたので、いつからか私は水死体をヨドミ氏と呼んでいた。若い男の水死体だった。

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link: 『入江にて』予告編

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スイマーズ『スイマー 完全版』 文庫 148ページ
2012年11月18日 初版
2014年02月02日 改訂・完全版
2016年11月18日 改訂・PDF無料公開

2012年11月発行の スイマーズ 第一作『スイマー』に、未収録作品と書き下ろしを収録した完全版。人気急上昇中の少年モデル・函崎カンタと彼をめぐる女性たち『UTSUWA』、青いシロップに対するひと夏の記述『solarfault』に加え、佐藤芙有短編集『5 dreams』の全作品と山川夜高書き下ろし『fragments』を収録。
水底から世界を仰ぎ見るような、光とゆらぎの小説集。

表紙:山川夜高
装幀:山川夜高

PDF全編公開

link: スイマーズ

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『現存する記念碑』2013.11.26-11.30
柱に小説、3704字
多摩美術大学八王子キャンパス絵画東棟1Fホールにて

 

仮設小説。
テキストは多摩美術大学八王子キャンパスの地理的条件をもとに書き下ろし、
展示期間のみ存在するインスタレーション(仮設)。
柱にらせん状に記された小説を、周りをぐるぐる歩いて読む。

芸術の媒体としての「小説」は以下の特徴を備えている。
1.モバイルである:本も電子書籍も巻物やパピルスも、どこにでも持ち運べる。
2.頒布される:多くの人の手に渡る。
3.鑑賞に運動性はない。

これに対し本作は、
1.場に固執:柱から切り離すことは出来ず、本文もその場所に由来している。
2.永続しない:数日間しか世に存在しない。
3.鑑賞に必ず運動を伴う。

記念碑とはまさにその場に記録を永続させるための装置である。
小説という芸術表現もまた永遠性を前提にしている。広く永く読まれることを目指した芸術活動である。
小説は目で追いページをめくる。いつでもどこでも何度でも鑑賞することが出来る。
小説を記した活字は、読みやすいよう最適化されている。

一方、美術におけるインスタレーションは、場を借りた一時的な表現であり、いずれ撤去が待ち受ける。
美術作品は殆どの場合唯一無二であり、その場に赴くという行為がなければ作品を味わうことは出来ない。
周を歩きながら目で追う行為は、酔いや苦痛などの身体性を呼び起こさせる。

本作は小説作品である。
小説の特性と真逆の特性を備えながらも、これは小説である。

11月最終週の数日だけ、これは『現存する記念碑』だった。
今はもうどこにも存在しない。

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