美しい男であるというのは誰もが承知することだった。生まれもっての端正な身体の比率もさることながら、内奥に潜む精力的な野心が、彼を端正な人形に留まらせず、自らを燃やす炎のように彼を彼たらしめたのだろう。好意の有無に関わらず、美しい男であるというのは揺るぎようのない事実だった。それでも彼の美を認めたくない人は、口を揃えて、恐ろしいという形容を選んだ。どちらも同じ意味だった。0は美しく恐ろしい。それは誰もが知っていた。
「目を閉じていれば絶世の美人だってね」
周知の評判を彼に聴かせる。開店前の、真っ昼間のぼくの店で、0は脚をしなやかに組んでトニックウォーターで唇を湿らせている。ぼくはミュージックボックスの整備にあたる。
「色んな例え方をされていたよ。あれこれレトリックを凝らしてあんたの目を論じてた。『刃物』が一番多かったかな」
「ダイヤモンド、氷、貴金属」彼はうんざりと指折り数える。「例えて言わねえと分かんねえのか」
「褒め殺したいんだよ、あんたのこと」
「眼球は眼球に変わらない。コンクリート色と呼んでも同じことだ」
態度も、声音も、何より眼差しの全てが鋭い男だった。嫌な奴ではないと知っている。むしろ俳優としてイメージを切り売りするには根が真面目過ぎるくらいに思えた。
「一番いいこと書いてたレビューは、『灰色』これに尽きる」
「そりゃ、何よりも、正論だね」
「間違いない。灰色だよ、例えようもなく正解だ」
ギラギラと輝く彼の目が細められる。それは間違いなく刃物を思い出させる程の鋭利さを湛えている。
ぼくは店でピアノを弾いて、酒のつまみの店内音楽の賄い役に就いている。観衆へ娯楽を提供する者として、程度の差はあれぼくたちは盟友のようなところだった。
「今度はこっちを観に来てよ」
ぼくは首を振って断り続ける。「仕事だからさ」だから、彼が舞台に立つ姿を未だに見たことがない。特にどうという訳ではないのだが、なぜか見たいと思えないでいる。