『沈黙』 文庫 100ページ / 非売品
両側を綴じた、読めない本。片方は一般的な文庫本装丁、もう片方は和綴じとし、どちらも本として成立している。
『沈黙』は本が「当たり前に読めるもの」であることへの問いかけである。
本(お話)は主人公の内的体験を記述する。私たちは本を通じて主人公の身の上話を読む。人間の生活のなかには誰にも語りたくない経験もあるだろう。しかし、私たち読者は本を通じて、それがフィクションであるにしても、他人の秘密を知って満足する。私たちは他人の秘密や人生を知りたいという欲求:認識偏愛(エピステモフィリア)を持つ。秘密をあばき、結末を知り、真相をみたいという支配欲がある。
『沈黙』は認識偏愛に対するアイロニーである。この本を読もうとするのなら、読者は装丁の片方を破壊しなければならない。この本の装丁はどちらも完全であり、どちらも軽んじられるものではなく、復元することは二度と出来ない。この本を読むことは――ここに存在する秘密を知ることは――取り返しのつかない破壊行為に他ならない。
本を読むことは支配欲を満たす行為であり、読書は取り返しのつかない行為であることを、この作品に込めた。
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