BlueWall / 降霊術

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某音楽誌2001年9月号p.44-45『she/see/sea』リリースインタビュー

Drive to Pluto

42分に及ぶ大作トラック「ナイトフライト」を収録した新作アルバム『she/see/sea』をリリースしたDrive to Pluto。
先日の渋谷アルブレヒトでのリリースワンマンライブでは「ナイトフライト」のフルバージョンがノーカットで演奏された。
彼らの音とイマジネーションの洪水は90年代シューゲイザーに影響されているが、甘々なメロディアスさはなく緻密で冷静。
緻密なプレイをするメンバーはマシーンみたいな冷酷人間だろう(!?)と思っていたが、
取材に来てくれたのはクールだが真面目で温かみのある好青年だった。

バンドメンバーひとりひとりが
船頭でありたいと思っている

◆今回の新譜を聴いて、前作よりもアルバム全体が実は親切なつくりに進化していると思いました。ドライヴのプログレ感や文学性、つまり他の追随を許さない高尚さを高めつつも、音楽としては聴きやすくなっていて、ポップスとしてもどんどん良くなっています。
青野 ありがとうございます。それって僕たちが経験を重ねて、色々なやり方ができるようになった証かもしれない。
田邊 全体を通しての聴きやすさは何度も議論しましたね。聴いてくれる人を置いてけぼりにはしたくないので、そのへんは少しだけ道をならすような工夫をした。
秋山 ファーストでは音圧で押し込むみたいな作り方をしてたけど、前作から少しずつ引き算みたいなことが出来るようになってきたかな。大きな音を出さなくてもみんなちゃんと話を聞いてくれるんだって、ようやく分かってきた感じ。
田邊 世界観としては、どこでも聴けるアルバムになるように考えてた。朝昼晩でも、うるさい場所でも静かな部屋でも聴けるような普遍性を目指しました。聴いてくれる人それぞれでこのアルバムにとって一番いい場所を見つけてほしい。
青野 僕たちは今までは狙って奇をてらうところがありました。ファースト(『A Hole New World』)は直球の剛速球で、前作(『daydream』)は「カジュアルだけど奇をてらっている」感が出るように調整した。でも、もしかして僕たちは奇をてらわなくても「素でちょっとヘン」なんだとようやく気づいたのが今作でした。じゃあ自然体でも全然いいんだ、自然体のまま研ぎ澄ましていけばいいという意識になったのが、今回のレコーディングから明確に変わった部分でしたね。

◆特に「鉛色の空」は今までのドライヴから一皮剥けた記念碑的な歌になりそうです。これまでの曲づくりはエレキギター、エレキベース、ドラムの音だけで、ピアノの音色が入ったことはなかったですよね。
秋山 あれは歌詞からのイメージで、僕もピアノははじめて使ったけど結果的に良かったと思う。ピアノの音色にしたのはけっこう自然な思いつきで、これまでだったらギターで音を作り込んじゃうんだけど、今回は聴いたら何の音かすぐ分かって懐かしさを感じる音が欲しくなって、それで自然とピアノになったんだよね。
青野 歌詞を書いた僕から言わせると、ピアノの音が出てきたときは驚いたけどね。しかも打ち込みじゃなくて本物のピアノを持ち込んできたからびっくりした。イエスの「Roundabout」のオマージュでもするつもりかなと僕ひとりだけ身構えてましたが、全然そんなことはありませんでした(笑)
田邊 「鉛色の空」を作っているときはごく自然に組み上がっていったんだけど、今アルバムを通して聴くと、自分たちもこういう曲ができるんだって発見がありました。
秋山 ギターは電気楽器だから、音色は永遠に作り出せるんだよね。あのインダストリアルな音は僕と青野くんで作ってる。
田邊 これもレコーディング中に話したんだけど、両手に収まって責任が取れる範囲の音が良いよねって話を繰り返しました。
青野 人間の肉体で制御できる音の範囲で曲を作りたいと、つまり生身の人間が演奏できて、生身の人間が演奏している曲を作りたいというのが、結成当時から僕たちは思っていて、ライブで弾けるかどうかが曲づくりのときにひとつの指標になってます。ライブが音源の完全再現になればいいってものではないけどね。それはそれ、これはこれで。

◆今回のリリースライブで「ナイトフライト」のフルトラックが披露されたのは驚きました。いや、きっとフルでやってくれるだろうと僕をはじめライブに行ったお客さんはみんな信じてたと思うんですが、それでも「本当にやってくれるなんて!」と仰天しました。
田邊 それもやるかやらないかで非常に揉めたんだけど……
秋山 リリースライブで一回は「やる」っていうのは最初から決めてたんだけど、最後までみんな「えっ本当にやるの?」って顔してて。それで「本当にやるけどいいよね?」ってリハのときまでずっと僕も念押ししてさあ。
田邊 当然ながらレコーディングそのままは演奏できないからアレンジは試行錯誤しました。生身の人間の演奏の話の続きなんだけど、俺たちはアンサンブルに価値を置いていて、とにかく良い合奏がしたいと思ってます。「ナイトフライト」は長いけど、40分程度なら別に演奏できる長さではあるので。
青野 僕は「ナイトフライト」をフルでやったらお客さんも喜んでくれるだろうなと思ってやりました。お客さんが途中で飽きちゃうんじゃないかって懸念もあったんですけど、そこは話し合って……確か「お客さんを信じよう」って結論に至ったんだっけ。

◆今作も歌詞が非常に印象的で、同世代のバンドでは類を見ない「詩」の粋に達していると思います。ドライヴ・トゥ・プルートは結成当時からベースが作詞で、ギターがボーカルで、ボーカルの音量がないという非常に独特な編成です。インタビュー等で何度も語っていると思いますが、歌詞や歌に対する考え方を改めて伺いたいです。
秋山 僕は、歌詞は空気だと思ってる。見えないんだけどそれがないと死んじゃうやつ。歌詞があってくれてよかったと思うことは何度もあって、今回もプレスされたCDの歌詞カードを開けてみて、すごく良いなって思った。レコーディングでも実は歌のトラックは入れててマスターのボリュームをものすごく上げると聞こえるようになるんだけど……うるさいからやらないほうがいいよ。
田邊 歌詞と歌があることはある種のおまじないだと俺は思ってます。
青野 僕は歌詞を意図的な「不在」の状態にしています。つまりある意味で未完成なんですが、音楽を聴く人が歌詞カードを開いたときに歌詞を読むことによって音楽が完成したらいいなと僕は考えています。もちろん、あるべき歌のトラックが無いことは不足なんですが、足りない・寂しい・欠陥品って意味ではなく、空席の椅子の座面を座ってみるとまだ少しあたたかいような、存在の残り香を感じられる空白になってくれたら嬉しいです。もちろん歌詞は聴く人によって解釈が変わるから僕が意味を押し付けることはできないけど。

◆一方で収録曲の「Pseudoflummoxology」は歌詞カードに歌詞なしのインスト曲であると念押しされていますね。
青野 そうです、一回インスト曲はやりたかった(笑)
秋山 「automatic town」は?
青野 あっ……やってたね(笑) あれはファーストアルバムの時か。
秋山 (笑)いつまでも歌詞来ないな〜って思ってたらインストって書いてあったんだよね。

◆タイトルが難しいんですが、どんな意味ですか?
青野 造語です。合成語で、意味は辞書で引けばそれっぽいのが出てくるはずで、翻訳はみなさんにおまかせします。あと個人的にはoxoの部分が顔っぽくてかわいいなって。
秋山 歌詞は青野くんの好きにしてもらってる。ほんとに他のバンドにはこういう詩を書ける人はいないと思う。僕は「鉛色の空」「夜行人間」あと「ナイトフライト」の最後の「Nightflight to the beach」が好き。
青野 えっ、それは初耳(笑)
田邊 じゃあ俺は「せつな」と「なぎさ」かな。
青野 いやあ、嬉しいなあ、ありがとうございます。俺はどうだろう、「ナイトフライト」は尺が長いのもあって全編を通じて思い入れは深いですね。歌詞は基本的にお話っていう扱いで、僕の個人的な体験をそのまま書くことはしていないけど、「幽霊たち」の歌詞は僕の主張にいちばん近いかな。

◆ドライヴの曲作りやライブアクトは非常に緊張感がありますが、普段はとても和やかでプライベートでもメンバーの親交が深いですよね。バンドとしてのリーダーは決まっているのでしょうか。
秋山 ……うーん、たぶんみんな「自分以外のだれか」だと思ってる。
田邊 曲作りでもほかのことでも、誰かが言ったから従うことはないな。すんなり決まるか徹底的に話し合うかのどっちかだね。
青野 まあみんなバラバラのこと言ってまとまらないよね。
秋山 インタビューは青野くんに任せることが多いな。だからバンドの意見を言う人は青野くんになってるけど、リーダーを決める必要があったことがないかも。
青野 僕がバンドに抱いているイメージなんですが、船頭多くして船山に登るってことわざがあるじゃないですか。このことわざは意に反して物事が進んでいくマイナスの意味合いだけど、僕はバンドメンバーひとりひとりが船頭でありたいと思ってる。メンバーが互いに別方向に引っ張り合って、常に三角形の中心にテンションがかかった状態で、文字通り緊張感を持ち続けながら、ひとりでは辿り着けないような思いもよらない飛躍を遂げられたらステキだよね。

『she/see/sea』 Release Live “ナイトフライトは難しい”
8.3(Fri) at 渋谷アルブレヒト
OPEN19:00 START19:30
ADV3500 / DOOR4000 (+1Drink)

– SET LISTS –
1. 夜光人間
2. 幽霊たち
(MC)
3. Pseudoflummoxology
4. 鉛色の空 (Live ver.)
5. 月のない街
6. せつな
(MC)
7. ナイトフライト (Part.1 – Part.7)

Encore 1. Vista
Encore 2. Empty Hole

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