これは物語ではない

1 2

 そうして祈祷師さんが来たわ。何だか長い服を着てあやしい人ね。その日はご町内の人も一緒に見てたわ。日本酒が必要って言うから町内会長が持ってきて。お清めに使うみたい。

 祈祷師さんは公園に一歩入って、

「ふむ特別に強い霊気はありません。霊道もありませんし風水的には多少健康運が下降しているだけです、ご近所の奥様はお肌に気をつけると良いでしょう」

 そう言いながら祈祷師さんは問題の自動販売機の方へ歩いて行って、その前で立ち止まったわ。

「ここが問題の機械ですか。ふうん幽霊というのは機械と相性が良いんです。だからポルターガイストにも機械が影響されやすい。ですがここからは全く霊気を……」

 って、言い終わらないうちにね、その祈祷師さんの真ん前で、

「ピッ」

 って、自動販売機が点いたのよ!

 それだけじゃないの。誰も機械にはさわっていなかったのに、飲み物のボタンがおされたの! 缶のコーンポタージュだったわ。ガ、コンって缶は落ちてきた。そしたら取り出し口が勝手に開いて、信じられないでしょうけど、缶が空を飛んで出ていったのよ! 缶は祈祷師さんの隣までまっすぐ飛んでいって、パキンとプルタブが外れて、缶が傾いたの。当然中身は地面にこぼれる、と思ったら違ったの。空中のどこかに穴があるみたいに、コーンポタージュが空中になくなっていくのよ!

 真っ昼間からいきなり超常現象で公園はパニックよ。町内会長なんか一度気絶しちゃったわ。祈祷師さんもこれには真っ青で、口をパクパクさせちゃって、

「こ、こんな昼間から、ここまで強い霊力が、しかも、霊気を自在にあやつれるなんてウワァーッ!!」

 と言った瞬間、巡査さんみたいに倒れ込んだわ。

「この私に……ヒザカックンとは……これはとんでもない上級霊です……」

 祈祷師さんはがっくり倒れたままの格好で、

「この方を立ち退かせることは不可能でしょう。あまりに力が強すぎます。私の力をもってでもとても敵いません。それよりもご機嫌をそこなわない方を考えましょう。皆さんこちらに集まって」

 そう言って祈祷師さんは鞄から何か古い和紙を取り出したの。そこには毛筆で五十音が書いてあったわ。こっくりさんみたいなものかしら。

「いいえ、もっと上質のものです。この中でどなたか硬貨をお持ちの方はいませんか」

 町内会長が五百円玉を出したわ。祈祷師さんはそれを広げた和紙の上に置いて、祈祷師さんは真面目くさった顔でぶつぶつ唱えているの。さっきの缶に向かってね、

「ポタージュ様ポタージュ様どうぞお出で下さい」

 すると誰も触っていないのに五百円玉が動いたの。あっと皆声を上げたわ。硬貨は紙の上をなめらかに移動してね、

「い」「い」「よ」

 祈祷師さんがまたお祈りして、

「ポタージュ様ポタージュ様、先程は大変失礼いたしました。どうかお許し願います」

 また五百円玉が動いたわ。

「い」「い」「よ」

「ポタージュ様ポタージュ様、つきましてはお供えの品を差し上げたく思います。何が宜しいでしょうか。ポタージュスープでしょうか」

 五百円玉はちょっと動きを止めてから(何がいいかを考えたのかしら)

「び」「い」「る」

「ポタージュ様ポタージュ様必ずやお供えいたします。ポタージュ様これからは悪さをなさらないでいただけますか」

「い」「い」「よ」

「ああポタージュ様ありがとうございます。ポタージュ様ポタージュ様どうぞおもどりください」

「い」「い」「よ」

 そうして五百円玉は動かなくなったわ。祈祷師さんは五百円玉を袋に回収して、

「この五百円玉は私の方で大切に供養いたします」

 と言って帰って行ったわ。でも祈祷師さんは公園を出てすぐにまた「ウワアーッ」て倒れ込んだの。またヒザカックンされたのね。それを見た町内会長達はビックリして一目散に酒屋さんに走って行ったわ。

 ということがあったせいで、公園から人はますます減ったわよ。まあゴミもラクガキもチカンも減ったからよかったのかしら。自動販売機にも実はお代はちゃんと払われていたし、それにポタージュ様は結局女性には手を出さなかったから、意外と紳士なのかもしれないわねえ。

 でも最近ね、ここだけの話なんだけど、公園からポタージュ様じゃない新しい声も聞こえるのよ。夜に窓から覗くのは怖くなっちゃってもうやってないんだけど、確かにもう一人いるみたいなの。

 これはいよいよ祠を建てて供養しなければって、町内会長が嘆いていたわ。

1 2

PAGE TOP

掲載作品はフィクションであり、実在の人物・地名・団体などとの関係はありません。 Copyright©2012-2021 Yodaka YAMAKAWA All Rights Reserved.