これは物語ではない

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逆転しない発想

 月見そばを食べ終えて窓際でぼんやりしていた。よく晴れていて向こう側まで見通せた。温かい緑茶が美味かった。一人でくつろいでいたかった。

「もう無理っすよマジでぇ」

 隣でひとりごちる井下田君を適当にあしらう。聞くに、振られたらしい。既視感にまみれた話題だった。

「なんでだろう……」

 と、何度も同じことを言いながら給水機の水を煽っている。アルコールは入っていないがいやに饒舌だった。どうか自宅で酔いつぶれてほしい。誘われそうな気配ではあるが、今夜は魚と聞いているから、悪いが断ることに決めている。
 突っ伏していた彼が不意に顔を上げて僕を見る。

「なんでだと思います?」
「……なぜ僕に尋ねるのです」

 相手の顔も名前も知らないというのに、訊かれても何も答えられない。

「だってみんな聞いてくれないから」

 と呟くので、ため息を押し留めることが出来なかった。なぜ僕が彼の愚痴の相手をしているのだろう、彼の友人に逃げられたからか。僕が都合良く使われている気がしてならない。
 彼もまた大袈裟にため息をつく。

「僕としては、長続きしたいんですよ。やっぱ。別に俺軽率キャラのつもりありませんし。落ち着きたいんですよ、ご飯つくってもらったりとか、一緒に夜更かししたり、とか、フツウのこと一緒にやってきたいんですよ」

 男とも出来るなあと思ったが絶対に口に出さない。見えない走馬燈に嘲笑された気がした。頭が痛い。僕は一体何なんだ。

「で、どうやったら長続きしますかね?」

 逆に彼は何をして別離に至ったのか。
 そしてなぜ僕に訊くのか。

「どうやったら……。
 相手の不快になることをしない、とか」
「それは、そんなの、気を付けてますって。もう一押し、一般論以外に、何かないんですか」

 事情を知らないのだから一般論でしか答えられない。かつ、そこまで彼の話に真摯に答えるつもりはない。正直に言うと面倒だ。僕の飽きは表情に出ているだろうに、井下田君は話を引き出そうとする。

「じゃあ、じゃあ! ノウハウをお願いしますよ。どうしてんのか」
「ノウハウって」
「先輩のノウハウですよ」
「……だから、そもそも、交際は」
「……そうだった上級者ー!!」

 叫び、机に突っ伏した。声が大きい。

「そもそも付き合わない、とか! それなら別れる心配もありませんよねぇーって何ですかそれ!」
「だから、僕は別に」
「逆転の発想どころかゼロにしちゃうとか! そうっすよねーそれならそもそも別れないですねー……とか違いますって! 冗談やめてくださいよもう! うわー! 駄目だこの人まじマジックリアリズム!」

 人の話を聞かないから振られるんじゃないかと思った。
 騒いでいる間に、盆を持ち、そっと席を抜けだした。

 何だ、マジックリアリズムって。

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