Cipher

Shipness?

「ちょ、見つめ合っちゃってもうラブいですよ///。この友情はひどく不釣り合いだった(身分違いのホニャララ)」

塩谷夏 / 下読みの際のご感想


Introduction

このテキストを書いたのは2014年なので、現在の考えとはちょっと異なります。修正は2020年5月です。

 作品の解釈はいつでも読者に委ねられる。作品のテーマは作者が押し付けるものではなく、読者それぞれが作品から見出すものである。作品の読まれ方を作者が決定することは出来ない。

 山川夜高自身はBL/GL含む恋愛ものへの好意は殆ど全く無く、また二次創作物に氾濫するBL解釈や腐女子たちについては嫌悪している。恋愛ものを書いた覚えは無く、また自作品に向けられるカップリング解釈にも懐疑的である。(*1) しかし読者による作品解釈を否定する権利は無い。同一性保持権を用いて二次創作(二次的著作物)を否定することは出来るが、作品の読み方自体を否定することは出来ない。

*1 「恋愛物を書こう」という動機から生まれた『She Sells~』が蓋を開けてみれば虚無中の虚無だったことによる。

↑恋愛ものを好まず、恋愛ものを書こうとして『She Sells~』が大破したのは、私がどうやら他人に恋愛感情を抱かない性的マイノリティだからっぽいです(余談ですがShe Sells~の語り手もどうやらAセクシャルです)。また腐女子に対するツッコミは言葉不足ですね。「男性キャラが2人以上出てくると、彼らのセクシャリティが不明orゲイ・バイでないのにも関わらず彼らの同性愛を直ちに妄想する条件反射」に対して疑問を抱いています。そういう邪推を企てるのは自由だけど、邪推しか企てられないのは想像力が乏しいのではないかと。

 

 作者の意思と読者の意思の対立は避けられない。製作者VS二次創作者という現代のオタク文化について、山川は著作『これは物語ではない』を生贄に捧げてシミュレーション企画『これはホモではない』を立てることで、二次創作世界の縮図を実験/再現した。企画内で発せられた山川の発言「もう好きにしろよ」は、作者と作品を切り離し、作者が読者を規定出来ないことを明快に示した迷台詞である。

↑これも古い情報ですね。リンク先は読まなくていいです。

 

 

 

 それを自作品に向ける日が来るとは思わなかったんだなあ。

 

 本作は作者にそんなつもりはなかったのに主要人物2人の距離がやたらと近い。

 先に引用した「ブロマンスの特徴」の強調部は本文中に記述のある項目である。ほか「手料理を振る舞う」「再三に渡る自宅訪問」「散歩に同行」「高所から風景を眺める」「小旅行に出掛ける」「海辺で夕日を見る」など仲の良さは枚挙に暇がない(海辺の下りでは肩を組んで抱き合っている)(*2)。書いている作者当人がMLとは言わずともブロマンスへの疑問を拭えなかったし、下読みを委託した塩谷夏(仮名)、ゆるみ両氏も「仲が良い」と感想を漏らしている。

*2 欧米文化圏のため、日本の生活と比較すれば格段にスキンシップは多い筈だが、その事情を差し引いても多い。
執筆時「登場人物が勝手に動き出す」という現象があるが、海辺の下りは書きながら親密さが暴走していったため、描写にブレーキをかけた覚えがある。

 山川は小説制作にあたりプロットを用意せず、その場のアドリブで物語を進める手法を採っている。よって本編中の仲の良さは一切意図したものではなく、作者自身も何だかよく分からないまま「仲良くなっちゃった」としか言えない。状況に取り残されているのは誰よりも作者自身である。

「あんなにBLディスってたのになんで自分がBL書いてんの?」と──

 とはいえ、BLだろうと何だろうと作者が二次創作を奨励するものではないが、「もう好きにしろよ」は本作にも当てはまる。酔狂な読者を感知することはない。『これは物語ではない』の作品は出典(作品名/作家名)を付記すれば個人利用の範疇での二次創作はフリーとしている。

 というか疑惑の当人たちに「もう好きにしろよ」と言いたい。正直言って彼らの仲が公然の秘密なのではないか。知らんけど。

↑2014年当時の私の混乱が見られます。
でも執筆時の2013-2014年当時も「シスヘテロ(身体の性別と心の性別が同一=シスジェンダーで、異性が好きな人=ヘテロセクシャル)に限定して人物を描きたくない」とは思っており、曖昧にですがセクシャルマイノリティを描いています。まずIというトランスジェンダーの男性を設定し、Xを「トランス男性に惚れてしまい、相手の男の内面を好きなのか女の肉体を好きなのか分からない」クイアにしました。Xの性自認は、本人があまりにも自他に無関心かつ難しいことには蓋をするタイプなので、本人にもわかりません。本作には微塵も書かれていませんが、0はリスロマンティックなパンセクシャル(バイセクシャルとは違って「男」「女」のカテゴライズはせず「好きだから好き」(性的には女体の方が好き))という別のややこしいアイディンティティを持っています。
まず第一に芸術家として、そういう流れに作品が向かったのに私がチキって描写をマイルドにしたのは、作者自身のホモフォビアのためだったのではないかと2020年現在反省しています。(当時はとにかく腐女子が嫌いで、その枠の中に加わりたくありませんでした。腐女子に対する軽蔑を、ゲイへの嫌悪感と履き違えていたことを大変に反省しています。腐女子のことはまだちょっと「ふーん、へー、ほーん」ぐらいの気持ちで見ています。)どうせ作者はヘテロセクシャルを理解できないしそこに肯定的な感情が沸かないんだから、自分の書いた作品のなかで人々が互いに納得の上で幸福な関係性を築こうとしているのであればその流れは最後まで通すべきだったのではないでしょうか。
第二に小説家として、これは純愛ではなく作中の人物がその場の激情によって流された結果だったかもしれない。小説家が作品の舵を取り切れず、作品に振り回されてしまったことへの懸念もあります。一と二は相反しますが、どちらが正しい立場なのか正直今もわかりません。どちらも「書かなかった」選択肢なので。

今は、世界への無関心を貫いてきたXがはじめて0という他者の幸福を明らかに願い、0の自己犠牲に対して強く怒りと悲しみを表せたのだから、次はXの幸福も叶えていいのではないかと『Cipher』第五版作業中に考え/願いました。「この物語の続きを読みたい」というご感想も頂いているので、まあ……長い目で見たストーリーテリングでそこに帰って行こうと思います。0は名優なので何でも演じられるはずです。

 

作者の混乱はともあれ、本作の二次創作は二次創作ガイドラインに沿って自由に行うことができます。また、作品は作者と読者の対話ではなく、読者と作品の対話なので、読者のどのような読解も作者は差し止めません。

長々と釈明を書きましたが結局は自分も当時内輪向けとしてテキストを書いており、また身内から頂いたそういう読解の二次創作作品をこのページに掲載しています。


「頭をわしわし撫でたり背骨粉砕の勢いで抱きしめたりしたいけどむやみに触れると霧散したり砕けたりしそうだから七転八倒して挙句自分を抱く感じ」
「Xたんんんんんあああ(抱きしめ)」

ゆるみ / ゆるゆるカンパニー

山川夜高「よくツイッターで『ある状況を仮定して○○な方が受け』みたいな判断基準が回ってくるじゃないですか。それを試しにやってみたんですよ」
ゆるみ 「試したんかい」
山川夜高「両方同じ方でした」
松尾愛 「『ホモ界の百合』ですね」

2014年5月5日 スイマーズ飲み会にて


Works

『Cipher』を読了済みで、彼らの関係に性的なニュアンスがあると感じた読者へ

吹っ切れて互いにラブいので、苦手な方(*3)の閲覧はご遠慮ください。
各解釈は読者により異なり、原著作者はそれを統治しません。

oral phase

塩谷夏 作 / 小説 約4300字 / 0X(X0) / [R18]

誰よりも早く塩谷さんが書きました。Web掲載の許可済みです。
致している場面はありませんがその他の描写により18禁とさせて頂きます。

登場人物の配色は塩谷氏の解釈によるものです。文才の無駄遣い冥利に尽きます。なんか本当にありがとうございます。

Happy Holiday

山川夜高 作 / 小説 約4700字 / ヤニ臭い 性的ではないが親密過ぎ 本編には微塵も書いていない設定

『ashes to ashes』読後推奨。苦いクリスマスのお話。(※作中にクリスマスの時期は重なりません)

*3 山川夜高は本来「苦手な方」です。

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