これは物語ではない

星降る昼

1. Celesta

 革靴が駅からのレンガ通りを軽快にはねた。タン、タン、タン、小気味良い足音に少女は満足する。タン、タン、タン、タン、タン。ハロウィンが過ぎると駅前通りは一転し、気の早いクリスマスの装飾をはじめていた。LEDを木々に巻き付ける作業員を横目に見ながら、タン、タン、タン、少女の眼は青空に向けられていた。十一月の澄みきった青空には雲一つない。北風が吹いて、ミニスカートの脚をすり抜けた。ロングマフラーに顔をうずめる。誰の手作りというものでもない。サイズの大きいカーディガンが手のひらをゆったり隠している。重ね着したセーラー服の上半身に比べ、ミニスカートとハイソックスが寒々しい。それでも少女は臆せず歩く。タン、タン、タン、タン。

 黄葉したイチョウ並木では銀杏を踏まないように。少し厚底の革靴が枯葉をかきわけて歩く。歩き慣れた道だ。染めた明茶の髪がなびく。瞳は青空に似て明るい。生まれ持った色ではなく、カラーコンタクトレンズだった。純真清楚な学生服ではない。着崩したセーラー服の、ちょっとすれた女子高生、街にありふれた姿。枯葉が舞い散る。街路樹のなかを行く。タン、タン、タン、タン、タン、タン、タン。

 タン、不意に少女は足をとめた。楓に似た葉の樹の下だった。五角形の星の枯葉が一面にひろがっている。その中に、何か、違うものが見えた気がした。葉っぱの中に異質なものが……少女は足元を見渡した。すぐ目の前に、それはあった。

 ヒトデ。

 五角形の、星型のヒトデが、枯葉とともに落ちていた。大きな青い眼がきょとんと見開く。

 ──落ちてる?

 しゃがみ込んでそれを見た。ヒトデは白く、骨のようだった。少女は、ヒトデが乾いて生きていないと察した。死んだヒトデが落ちていた。

 ──誰か、落としてったのかな……

 辺りを見ても、もちろん、それらしい人はいない。少女は首をかしげる。ためらいながらもそのヒトデを手のひらにのせた。見た目の通り、ざらざらしていた。作り物ではなく本物らしい。少女は考える。微細なとげでおおわれたその星型を見つめる。この街に海はない。

 やがて少女はヒトデを手に立ちあがった。持って帰るものか、なやんで少女は苦笑した。持って帰っても仕方がない、と、元いた場所にヒトデを返した。そして少女は歩き去った。革靴の足音を響かせながら。

 その日、東京にヒトデが降った。

2. 高田たかだ 敬司けいじ

 閑静な午後の住宅地はとても平和で、事務仕事の手を止めて通りを眺めた高田巡査は、妙に心休まる気持ちになり、書類を置いて一服した。小学生の下校時刻に差し掛かる。そろそろ子供たちが派出所の前を通るだろう。若く人当たりの良い彼は、学区内の小学生と、近所の婦人に支持された。それは頼れるお巡りさんとしてというよりも、遊び相手のお兄さん、息子よりもかわいいアイドルという認識だったが、彼はイメージを否定しなかった。街のお巡りさんとはそういうものだと割り切っていた。やさしさ故というよりも、ある計算高さをもってやさしいお巡りさんであり続けた。

 さてと。巡査はガラス戸の外に目を向ける。日が差しているとはいえ、今日は風が冷たく、隙間風が扉を揺らした。こんな日でも半袖半ズボンの小学生がいる。いつの世代でもそうだ。俺の頃にもそういう奴がいた……向こうから来る子供たちを彼は笑みをもって迎えた。普段は通り過ぎるだけの子供たちは、この日は交番の戸をたたいた。みな自慢げな顔をして、「見て見て!」と後ろ手に隠したものを見せる。

 図工で作ったのか? 巡査が抱いた予想は、全く的をはずれた。それは、一切脈絡のない。

 ヒトデ。

 どこか旅行にでも行ったんだ? 海? 尋ねるよりも早く、快活そうな男の子がぺらぺらと喋り出す。

「そこで拾ったんだよ!」

「……そこで?」

「向こう向こう!」「小学校のね」「通る道のぉ」、別の子も語りはじめる。ぺちゃくちゃ、ぺちゃくちゃ、話が読めない。「そこの、道に!」「おちてた!」「めっちゃ落ちてた!」

「……ヒトデが?」

「まじいるの!」「キモい!」「意味フメー!」……意味不明なのはこっちだ。

「じゃあそれは、落し物なのかな?」

「ちげーよあの」「超いっぱいいた!」「キモかった!」「あれ多分捨てられてんだよ」「みんな死んでんの」「白くってぇ」エトセトラ、エトセトラ……。

 まとまらない証言に巡査は苦笑で応対した。浮かべた笑顔と裏腹に、彼はひそかに推理をはじめ、事象の目星を立てていた。認識偏愛の気があるのだ。

 むらがる小学生の向こうから婦人が走ってくる。巡査は婦人を知っていた。あきらかにヒステリックな形相で、婦人はまくしたてた。

 聞いて、聞いてよ巡査さん。またなのよ、また、あれなのよ。あれ、あれ。今度はね、空からよ、空。雲も飛行機もないからっからの青空から、

「空から、ヒトデが降って来たの!」

 婦人と小学生に連れられて巡査は現場に駆り出された。無知な警察を振る舞いながら、彼はこの現象をしずかに貪欲に構えていた。彼の本心は醒めていて、よろこびさえ覚えていたかも知れない。殊にこのような意味不明の事物に関しては、胸の内に冷静な執着マニアを抱えていた。ほんのわずかに誰にも気付かれないほどに彼はかすかに微笑を浮かべる。既に現象名に心当たりがあったのだ。

3. 八月一日ほずみ 夏生なつお / 荻原おぎわら 映呼えいこ

「FAll FROm The SKIES 略して FAFROTSKIES(ファフロツキーズ)現象。こんなふうに、空から降ってくる超常現象のことを言う。降ってくるものはまちまちで、氷みたいな無機物もあれば、有機物、つまり生物の場合もある。飛行機がなかったような時代に、空から大量にオタマジャクシが降ってきた、みたいなケースが世界各地に残されている。降ってくるものはなぜが水生生物が多い。特に多いのが魚やカエル。これは、原因が、竜巻が川や海を巻きあげて生物を落としていったって説と、大型の水鳥が飛行中に餌をゲロったっていう説が有力。もちろん原因不明の例も多々あって、一概に竜巻のせい、鳥のせいにすることは出来ない。例えば……」

「この状況」

「……おう」

 男子高校生・八月一日夏生は説明を中断し苦々しげにそれを見る。同級生の女子高生・荻原と最寄駅傍のクレープ屋を出た所だった。自称・帰宅部の精鋭たる二人はクレープの買い食いを悠々と実践していたのだが、クレープ屋を出た直後、八月一日のクレープにヒトデが刺さった。クルクルと手裏剣のごとく回転しながら、彼のクレープのど真ん中にヒトデが垂直着弾した瞬間を、八月一日も荻原も見逃さなかった。

 とりあえず二人はヒトデを写メった。

「で、これはホズミんへの天誅、と」

「冗談じゃない」

 八月一日夏生と書いてホズミナツオと読む。某サイトのオカルト掲示板に浸かって過ごし、そういう知識を収集してきただけの、何てことのない高校生だった。

 彼はヒトデの角をつまんでクレープから引き揚げた。相当量のホイップクリームがヒトデの体表に持っていかれた。そのざらついたいびつな星を舐めようとは思えない。二九〇円のクレープはこうしてファフロツキーズの犠牲となった。

 荻原のクレープは無傷である。「あたしは行いは悪いけど、ヒトデが降ってくる程じゃないし」

 クレープ屋は駅前のレンガ通りに面している。通りの花壇に二人は座っていた。向かいにデパートとヨーカドーがある。例えばその上階からヒトデを落とすことは可能だろうと、考えてはみるのだが、事故現場は通りの真ん中で、デパートもヨーカドーもクレープ屋の真上にはないから、投げたとしたら地上に対して斜め方向に落ちるだろう。クレープ屋の二階にも店舗はあったが、そこの窓は飾りで開かない。飛行機やヘリも通過しなかった。もちろん竜巻も水鳥も通らない。辺りにいるのはハトかカラスだ。ハトにヒトデは大きすぎる。カラスなら不可能ではないだろうが、カラスがヒトデを咥える事情が分からない。

「で、ファフロツキーズの、竜巻以外の説って何?」

 荻原は指に着いたクリームを舐める。八月一日は口を付ける気になれず、クレープとヒトデを眺めていた。

「空間転移、とか」発言してみると響きは馬鹿げていた。そういう説もあるにはあった。偶然少年の頭上にヒトデがワープしてきただけだ。

 ……ねえよ。ゆがんだクレープを手に呟いた。無いとは言い切れないが違うと思った。ワープなどという大仰なことが自分ごときに起こってはいけないと思うのだ。かと言ってより合理的な仮説が見付からないのも事実だった。偶然ということで、いいだろうか。

「ホズミん、食べないの?」

 手つかずのクレープを見て荻原が言う。早く食べないと悪くなってしまう。

 クリームまみれのヒトデを持て余しながら、ヒトデが突き刺さった瞬間を、今一度思い出そうとした。本当に上空に何も無かったか? 誰かが投げたのではないか?

 思い出そうとすると、つい五分前のことなのに、どうしてもデフォルメされた観念しか見えなかった。《クレープにヒトデが垂直落下した》事象はこれだけのことだった。しかし八月一日はその情景を図式的にしか思い出せない。《クルクルクルクル……、ズボッ》というふうに。

 本当はそうでなかったと思う。現象はもっと繊細で唐突だった。現実を現実のリアリティのまま語ることはとても難しい。ましてやリアリティのない現実など。《クルクルクルクル》を認識した時には既に《ズボッ》が完了していた。一方でクルクルからズボッの間に実に多くの事が駆け回った。その時覚えた迷いも感動も怒りも順番に並べることはとても難しい。思い出そうとするそばから微細な順番がぼろぼろくずれて伝えられない。最後に残るのは《クルクルズボッ》の略図だけだ。細部はどんどんすり減っていく。そうしてありきたりな笑い話が出来あがる。

「なんかさあ」、気の抜けた声で呟く。「食べたら証拠無くなっちゃうじゃん」

「ヒトデ?」

「だって説明しても誰も信じてくれないだろ」

 リアリティのない出来事だからこそリアリティをすり減らしたくなかった。珍しいことではあるが、覚えていても意味の無い現実で、忘れた方が健全な人生を送れると、八月一日は思うのだけれども、

「もったいなくって」

 ガラクタを捨てられないのと似ている。

「でも、ヒトデじゃん。とっていても意味無いよ」

 誰の宝にもならない。

「そうなんだけどさあ」

「たぶん偶然だよ。偶然刺さっちゃっただけ。気にしなくったっていいじゃん。たぶん誰も見てないよ。何ならあたしが覚えていてあげる」

 荻原はもう半分程食べ終えていた。オレも食べなきゃ、と八月一日はやっと一口ほおばる。ヒトデでぐちゃぐちゃだろうがクレープの味に変わりなかった。至福の味をかみしめる。

「荻原」

「なに?」

「ジェラートインブラウニー超うまい」

「買い食いのクレープって至福だよねえ。でもちょっと寒くなってきた」

 クレープの包み紙と一緒にヒトデを捨てた。ゴミ箱からヒトデを見つけた従業員の怪訝な顔を想像し、彼らは盗み笑いする。

4. 高橋たかはし 塔子とうこ

 彼からメールがあったことに驚く。神出鬼没な質で、こちらから声を掛けないとつかまえられない。神出鬼没な癖に律義だからこちらから声を掛ければ必ず返信がある。珍しく、彼の方から連絡があった。

『降ってきた』

 その一文に写真が添付されていた。二、三のヒトデがまばらに路上に散らばっている。

 彼女は寝ぼけ眼でそれを見た。時差により、彼女の滞在地では夜明け頃だった。『どこにいるの?』覚醒しない頭で返事を打つと、『家のそば』と帰ってくる。彼の家はよく知っていた。海沿いでも何でもない、東京の住宅地だ。

『ヒトデが降ってきたの? いま? なんで?』布団を頭から被る。十一月のかの地は寒い。

『また降ってきた。今、三時過ぎ 分からない 晴れてます』

 断片的な言葉ばかり届く。電話や対話の時もそうで、物腰やわらかではあるが、どこか冷めていてあまり話そうとしない。そんな彼がわざわざメールを寄越したのだ、とても深い事情があるに違いないけれど、寝起きの彼女は対応しかねていた。寒くて眠くて動けない。

『本当に、空からヒトデが降ってきたの? 原因は?』

『分かりません 晴れていて雲はありません
何もない所から落ちてきました 丁度真ん中にいます
おだやかです』

 本文の突拍子のなさの割に、文体から焦りを感じられない。

 彼の言葉を信じるとすれば、東京の天気は晴れ時々ヒトデだという。

 他にも数枚の写真が送られてきた。路上にヒトデがばらまかれていて、どれもがどうやら死骸らしい。悪戯ではないと思う。悪戯するような性格ではない。嘘をつくようなひとではなかった。

 ヒトデは彼にとって「おだやか」な事物だった。「おだやか」な彼のまなざしを思い浮かべた。やすらいでいる彼を見るのは嬉しいけれど、彼女は「おだやか」なのが苦手だった。つかみどころがない。どうしたらいいのか分からなくなってしまうのだ。今も、どのように返信を書けばいいのか、考えがまとまらない。

 朝の手前のうすくらがりのなかで、彼女の意識はふたたび眠りに遠のく。ぼんやりとした頭で送信した。

『嘘じゃないよね? 夢じゃないんだよね?』

 彼女は目をつむる。夜の残り香に沈んでいく。

 携帯の振動に彼女は気付かない。

『貴女がそう言うのなら夢ではないし嘘ではないと思います
安心しました 僕も不安だったのです 夢かもしれないと思ったので
突然のメール済みません ありがとうございました さようなら まだ降っています』

5. ザムザ

 住宅地の真ん中にある小さな公園、の一角を覆い尽くすヒトデの死骸、に申し訳ばかりの立ち入り禁止テープが張られる。現場の巡査が応援を呼び、不審物ということで現場検証をする。発見者の子供たちと婦人に聞き込みをし、その後は公園の外へ帰した。幾人の野次馬が残ったが、対象はたかだかヒトデであるため、関心はすぐに霧散した。ただ一人、男がいた。

 市民をよそに、テープの外で見張る警官をよそに、男は退屈な現場に足を踏み入れた。慌てふためく警官を眺めていた。現場に飛び交う、氾濫する、記述、写真、混乱、ヒトデ。大変そうだな、と思った。馬鹿馬鹿しくて笑ってしまった。辺りをふらふら歩きまわった。数えた所、二十匹程のヒトデが公園に落ちていた。みんな死んでいた。気持ち悪いなあと思った。ゆうゆう観察を済ませてから、彼はテープをまたいで現場を去った。警察はその男を見過ごした。せいぜいそよ風が吹いたくらいだった。

 騒動に対して、男は、ただただ面倒くさがった。あらかた見物は済ませたから、関与する気は起きなかった。喜劇としてはなかなかだが、放っておけばいずれ止むのだ。話のタネにはなるだろう。男は全然憂いていない。

 ──ヒトデ、ねえ。

 通りを歩きながら男は考えた。すれ違う影はない。風が吹く度に街路樹が枯葉を舞い散らせた。男はそれを苦手とした。雨、雪、人混み等、空間を埋めるものを嫌った。落葉もそれに類するものだった。吹き寄せを踏まぬよう歩いた。男は無音を振る舞った。だからこそ現場検証にも紛れこめる。

 ──リス、とか、可愛いものならいいのに。

 ──もしくは食い物。乾物。保存食系。

 ──ヒトデって、食えるのか?

 落葉はカエデの木に似た星型だった。だんだんヒトデに見えてきた。

 足元ばかり気にしていた男は樹上に関心を払わなかった。

 ガサッと枝葉が揺れたかと思えば、「痛っ!?」、男の声だけがした。

 通りを行く姿ははじめからない。はじめから、何もない。

 もしもあなたがこの場に居合わせていたなら、風車のごとく回転しながら落下するヒトデが、地上一・八メートル地点で、不意に跳ね返るのが見えただろう。それは目に見えない何かにぶつかってバウンドしたように見える。あなたの目には見えない何かに。

 痛っ!? と声を上げた何かは、自分の脳天に落ちたヒトデを見つける。

 いまいましく舌打ちし。

 たった今地面に打ち付けられたヒトデは重力に逆らって地上一・五メートルの高さに浮遊する。直後、水平に高速回転しながら茂みの中へ飛んで行った。

 想像できない人は、フリスビーの要領でヒトデがぶん投げられた様を思い描いてほしい。

 腹いせを終えた彼は、ちょっとすがすがしい気分で通りを行く。

 一匹見たら五十匹いる。ゴキブリではなく、その手の現象が。ヒトデごときにかまけている暇はない。偶然東京の眼前に晒されたヒトデの背後には、五十倍の事象が蠢いている。もっと多いのかも知れない。あなたの目には見えないだけで。

 例えば透明人間とか。

6. 帆来ほらい 汐孝きよたか

 ヒトデが空から降ってくる。

 白濁した死骸が円を描いて、この現場に降りしきる。

 くるくる回る。落ちて来る。

 彼はそのなかに立っていた。

 黒のロングコートを身に纏っていた。外套の下も喪服だった。彼は青空を見上げた。またひとつ、空からこぼれ落ちた。白と黒の光景だった。

 貪欲な好奇心も、戸惑いも、怒りも面白さもなかった。現象をただ眺めていた。特に感想はなかった。ただ、空を見上げていた。晴れていて雲はなかった。晩秋の陽光にゆらめいていた。

 ふるい落とされてゆるやかに沈んでいった。ひとつひとつの現象を肌で受けとめた。凪いでいた。

 黒のロングコートは遠くからでも映えて見え、ヒトデの中に立つ彼もまた現象を演じる役者のようだった。

 タン、タン、タン。足音が鳴る方を見ると、少女が首を傾げて見つめていた。二人をはさんでヒトデが落ちた。

「僕のせいではないんですよ」

 どこか後ろめたさを漂わせて呟いた。

「僕のせいじゃないんです」

 とはいえ悔いた様子はない。少女は猫のようにゆっくり瞬きして彼の言葉に応じた。彼はその青い眼を見た。少女は笑い掛けた。ヒトデが降っていた。

 何故ヒトデなのでしょうか。尋ねようとして、彼はやめた。少女が答えないことを知っていた。少女は足元のヒトデを見て、それから青空を見た。薄汚れた白い死骸に、積雪を思い浮かべた。空を仰いだ。語るともなく呟いた。

「これでも随分治まった方です。少し前までは本当に本降りでした」

 彼なりにおだやかな心地だった。回りながら落ちるいびつな星々。光景はうつくしかった。

 彼の口角がやわらいだように見えて、少女は彼を今一度見た。殆ど笑ってくれないのだ。

 ずっと光景を見ていたのだが、彼はふと目を伏せ、ヒトデの雨を通り抜けた。

「行きましょうか」

 少女に声を掛けた。少女は頷き、ともに歩いた。

 しばらくは止みそうにない。

『星降る昼』(2012.11.18発行) より加筆修正・全文公開

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