これは物語ではない

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 僕の家で遊んだ日。彼女と高橋氏は何度か僕の家へ遊びに来た。僕達は公園に出て行って、わざと溺れて遊んでいた。あの頃はこの辺り一帯が深かったように思うが、たんに僕が幼く、背が低かっただけとも思える。
 晴れて光が網目をゆらす。美しい日だった。
 遊具を岩に見立てて遊んだ。彼女は岩よりも、沈んだ客船とすることを好んだ。僕は船内に眠る金銀財宝だとかには全く関心が無かったが、豪華客船が海底で朽ちている光景を気に入った。サンゴやウミエラがゆれはじめ、サメが通り過ぎて光を遮った。
 見ているものを互いに伝え合う。彼女は僕の思い描いたお話を気に入った。
 すべり台の脚を線で繋ぎ、かつての船室の姿を描いた。
 はじめのうちは走り回っていたが、飽きるのは早く、すべり台の甲板で潮風を受けて休息した。汽笛が鳴った。僕達は船旅に出る。行先の国は知らねども、船はどこまでも行き、知っている人々は皆遠くの陸地に残してきた。長い船旅で船は一度も停泊することなく海を渡り、僕たちは天気の良い日は幾日も甲板の上で語り明かし、ときには黙って欄干に手をつき、波頭が砕けるのを眺めていた。いかなる国にも立ち寄らないまま船の上で僕達は大人になった。

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