act.2

pen pall

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From:Celesta
Title:おはよう*
おはようございます*
今日もいい天気でちょっと暑くなりそうですね><

 

From:VIIII
Title:RE:おはよう*
おはようございまーす
たしかに今日は暑くなりそうですw
正直もう出かけたくないけど、
電車の中は涼しいから助かります
ただ、学校が駅から遠くて面倒・・・
あー月曜やだ

 

From:Celesta
Title:そうですねw
うちも学校がちょっとアクセス悪くって…
急行止まるからうれしいんですけど(笑
VIIIIさんの読書課題はおわりましたか?

 

From:VIIII
Title:
読みおえはしたんだけど、本をちょっとなくしてしまって、課題の紙は手つかずです・・・w
celestaさんは終わりました?

 

From:Celesta
Title:RE:
終わってないです……(笑
実は本も買ってなかったり。どこかで借りられないかなあと思ってます

 

From:VIIII
Title:RE:RE:
けっこうせっぱ詰まってないですか?w

 

From:Celesta
Title:RE:RE:RE:
やばいですww
最後はウィキ先生にお任せしようかなあとか(笑
有名な本だから、あらすじはけっこうわかっているし……
結局ラストにどうなったかも知ってるので
何とかなる気もします(笑

 

From:VIIII
Title:RE:RE:RE:RE:
ウィキ先生wwww
ウィキ先生ネタバレの宝庫だからww
でもコピペ文はバレるらしいから気を付けてくださいー

 

From:Celesta
Title:RE:RE:RE:RE:RE:
ですよねーw
その辺はぬかり無いです^^

いまさらなんですけど、
VIIIIさんのお名前なんて読むんですか?(汗
ヴィー でいいのかな…?
ずっと聞けなかったので^^;

 

From:VIIII
Title:はち・いち です
ギリシャ数字の8=VIIIと1=Iを足しました
でもこれだと6・3にも7・2にも読めるんですけどねw
よく9と間違われるけど、ギリシャ数字の9はIX
でもヴィーでもなんでもおkです(笑)

celestaさんはどういう由来ですか?

 

From:Celesta
Title:
本当はセレスタって楽器の名前なんですけど
気持ち的には
celestial=空の
って意味です
celestial bodyで「天体」とか
あと水色の陶磁器って意味もあります
天青石って鉱石がcelestiteっていいます
水色好きなんです(笑

8・1 ですね(^^*)
誕生日か何かですか?

 

From:VIIII
Title:秘密ですww
僕も水色好きです^^

あ、もうすぐ授業はじまります
また今度!

 

From:Celesta
Title:またメールします*
お互い授業がんばりましょう(´∀`*)
私1限化学です~

timeline

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6:10
 携帯のアラームが鳴る。男は床に潜ったままカーテンを開ける。薄暗い部屋に明かりが差す。
 男、アラームを止める。
 そして二度寝。毛布を頭からかぶりやすらかな一時。

6:18
「起きろよ」とドアの向こうから声。男、目を瞑ったまま答えない。
「起きろって」
「……分かってますよ」
「分かってるなら起きろよ」
「……」
「おーい」
「……眠い」
 あんまり頭が回らない。

6:21
 ようやく目を開ける。布団を出て服を選ぶ。ただしその選択肢は異常に狭い。端から見ればだいたいいつも同じ格好だった。
 そろそろクリーニングに出すか、とぼんやり考える。男はまだすこし寝呆けていた。

6:25
 リビングにはすでに朝食が並んでいる。

・ご飯
・チーズオムレツ
・ハム
・生野菜サラダ
・味噌汁、とろろ昆布入り
・ヨーグルト

 色々と完璧であることに帆来くんは閉口する。
「おはよー」
 気の抜けた声がする。いつの間に住み着いた透明人間だった。帆来くんは眠いから答えない。洗面台へ向かう。

6:27
 時間をかけて洗顔する。実は睡眠に次いで洗顔が、彼のささやかなやすらぎだった。
 眠気を洗い流し、髪型も整える。

6:30
「食べないの?」
「朝食べられないんです」
 ザムザはと言えば、まだ手を付けていない。朝食はもう少し遅く作るべきなのかもしれない。

6:32
「前から思っていたのですが」
「?」
「なんで男と同棲しなきゃいけないんですか」
「おうちがないからです」
「……」
「同棲って言うとキモチワルイから“ルームシェア”って言おう」
「家賃払って下さい」
「……じゃあ“居候”で」
「……」
「“家事手伝い”でも可」
「……」
「セレスタがいるから、まだいいよ。まだキモチワルくない」
「……そうですね」

6:33
 会話を反芻し、もう自分がなんとも思っていないことにため息をつく。とんでもなく特異な状況にあることを頭では理解しているのに、日常は淡々と過ぎていく。自宅には透明人間が取り憑き、朝夕の食事を作っている。
 自身の適応力の高さに驚いている。慣れって、恐ろしい。

6:40
 チャイムが鳴る。ドアが開き(ザムザが開けた)いつもの服を着たセレスタが敬礼のポーズ。
「おはよーっ」
『good morning (・∀・)』
「おはようございます」
『良いお天気です』
 彼女は食卓についた。朝食を食べに来たのだ。帆来くんのとなりに座った。たぶん向かいにザムザが居る。
 手を合わせ、「いただきます」

6:59
 テレビの占い。牡牛座10位、天秤座11位、双子座最下位。

『今日もっとも悪い運勢なのは……
 ごめんなさ~い、双子座のあなた。
 対人関係に疲れてしまい、ついつい相手を傷つけてしまうかも。
 冷静な行動を心がけましょう。
 ラッキーアイテムは海外文学。
 ラッキーメニューはハヤシライスです♪』

「今日の夕飯、ハヤシライスってことで」
「……どうぞ」

7:09
 ごちそうさまでした。
「量、多いですよ」
「うっそだー」
『ヨーグルトだけでいいかも』
「うーそだー!」
「なんで楽しそうなんですか」
「やだねえ小食は」

7:15
 歯を磨く。洗面台の歯ブラシがいつの間にか増えている。化粧品も置いてある。着々と私物が増えていた。
 もういいや、と帆来くんは思った。

7:26
 身支度を済ませ二人は家を出る。
「貴方は、何か予定ありますか」
「ちょっと出かけようと思う」
「帰りは」
「ああ大丈夫。合い鍵持ってるから」
「……は?」
 透明人間は(恐らくはポケットから)鍵を取り出した。
「セレスタと作ったんだよ、ねー?」
 ねー、と言わんばかりに、セレスタも鍵をちらつかせる。
「……勝手に?」
「無いと不便だろうと思って」
「いや、勝手に」
『不便』
「……」
 ザムザは手を振って見送ったが、二人にそれは見えなかった。見えないけれど、二人も手を振り返して家を出た。

7:27
 非常階段で一階まで降りる。
 セレスタは喋らないし帆来くんも喋らない。特に喋ることもないし、沈黙が気まずい訳でもない。
 今日は昨日より水が浅い。

7:30
 C駅までは徒歩20分の道程である。道は住宅地の中をくねくねと伸びて、その殆どが傾斜か階段になっている。T市が坂の街ゆえである。
 あまりに坂が多いためT市には橋も多い。橋の下に川があるという訳ではなく、幹線道路や住宅地の上を渡している。
 駅に着くまでに彼らは橋を三回渡る。

7:38
 ある橋のちょうど中程で、彼は立ち止まって橋の下を見た。どうしたのかとセレスタも立ち止まり、男の顔を覗き込んだ。「何でもありません」と彼はまた歩きはじめた。
 何でもない、なんて事がある筈ない。しかし彼が見たものを少女は知らなかった。

7:43
「昼食は買わなくていいんですか」
 コンビニの前を通る時、帆来くんは問いかけた。セレスタはNOを示した。あなたは? と言うふうに彼女は視線を返した。
「僕は学食使ってます」
 彼女は頷いた。
「給食とか学食はあるんですか」
 彼女は首を振った。途中で何か買っているんだろうと思った。

7:47
 駅構内で二人は別れる。C駅には二本の私鉄が走っていて、帆来くんは片方の上り方面、セレスタはもう片方の下り方面に乗る。
 彼女は鞄の内ポケットから何かを取り出し、帆来くんに手渡した。一粒のミルクキャンディだった。
「……ありがとうございます」
 少女はにこりと笑って親指を立てた。
 二人は互いに小さく手を振って、それぞれの改札へ向かった。また夕方に会おう、と。

8:15
 すし詰めになった車両の中、男は貰ったキャンディを口に含んだ。久しく食べていない味だった。彼は目を閉じ、車両の揺れに身を任せた。

daylight

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 トンネルを抜けると雪国であった。
 目を覚ますと毒虫になっていた。

 帰宅すると、自分のスーツがコーラを啜っていた。

「おかえり」
「何、やってんですか」

 目の前にいるであろう男は、居間のカウチソファに、僕のスーツ僕のシャツ僕のネクタイ僕のサスペンダーを付け、客人用のグラスで悠々とコーラを飲んでいる。本来ならば卒倒すべきシーンではあるが、悔しいことに正体を知っている為、平然と会話が進んでゆく。自分はきっと何かの毒に麻痺している。

「なぜ僕の服を着ているんですか」

 服は着ているって、貴方言ってませんでしたか。

「洗濯したんだよ。で、あれしか服持ってないから、借りた」

 コーラ片手に僕のスーツは釈明した。同じ服装で向き合うのもなかなか気分が悪い。片や僕、片や服のみ。

「換えが無い時はどうしていたんですか」
「それを聞くかあ? ぜったい喋ったら怒るのに。まあ、なるべく人がいないコインランドリーを使って、何回かに分けたりして、洗ってる間は隅に逃げてた。誰か来るとすげー嫌な気分になる。特にね、たまに一人暮らしっぽい女性が」
「もういいです」
「ほら見ろ怒った」

 僕のスーツは大袈裟に肩をすくめた。一言一句ジェスチャーが大きい。前日までの会話もこの動作で行っていたのか。最も透明人間に向かない人間ではないかと思う。……本当は、透明人間なる存在を僕はまだ信用しきっていない。信用しきっていないのに彼は勝手に上がり込み、冷蔵庫も箪笥も物色して人の衣服を着用している。そのうち財布も漁られそうだ、と考えたが、金銭目的なら財布でも通帳でも持ち出してとっくに逃亡している筈。
 それに一方的に寄生されているとは言えなかった。彼が勝手に食事を作るとき必ず僕達の分も作った。そして僕の料理よりもはるかに品数が多く美味であった。どうにも家事は好きで行っているらしい。ギブアンドテイクは成立していた。
 ザムザは一方的に僕を信用しているのではないかと思う。

「では、今、洗濯中だと」
「そうだね。あー、でももう干してるし、そろそろ取り込む」

 ベランダに洗濯挟みが釣り下げてあった。一見空白の空間だが彼に言わせると「ある」らしい。

「服も透明なんですか」
「そうらしい。ってことはおれは、今、服だけ見えてるの?」
「そうですね」

 納得いったのかいかないのか、腕組みして考えている。
 僕も何か飲もうと冷蔵庫を開けたが、麦茶も炭酸もことごとく空だった。仕方なく水道水を汲んだ。

「ああ、そうそう」と、最後の炭酸を飲み干した男が言う。

「ホウホケキョって何?」

 藪から棒に何を言う。

「法華経……南無妙法蓮華教」
「いや、たぶん違う」
「……ウグイス?」
「ああー、たぶんそれ」

「今朝、聞いたんだよ。公園とかで、すごい鳴き声でさ、朝五時ぐらいで、うるさくて驚いた。名前が分からないから訊いてみたんだけど」

 ウグイスくらい知っているものじゃないかと思ったが口には出さなかった。
 彼はグラスを置いた。視線の先は、衣服を干したバルコニーらしい。日中はよく晴れて暑かった。

「すると博学な方なのか、君は」

とザムザは僕へ呟いた。

「無学とは言いませんけど」

 博学と言うまでには及ばないし、博学という語は響きが悪い。たった今の問答は常識問題の範疇だ。

「じゃあ、今後色々訊くかもしれない」
「自分で調べた方が確実ですよ」
「辞書じゃ駄目なこともあるんだよ。今は常識の方が問題だろう?」

 否定は出来なかった。

「貴方自身、常識の存在とは呼び難いですし」
「……けっこう傷つくなあ」
「すみません」
「でも事実だもんなあ」

 ソファの上に僕のスーツは頭を抱えた。ザムザの葛藤はかなり深いらしいが、彼自身がそれを語ることは無かった。名前すら明かさない彼が身の上を語る筈が無い。
 氷を入れても水道水は生温かった。浄水の筈なのにその味はほのかに鉄臭い。味わわずに一口に飲んだ。

「でも帆来くんも十分非常識だと思うよ」

 むせた。

「貴方に、言われたくないです」
「いやいやいやいやいや。
 だって、何でいっつもスーツなんだよ。どう見てもそれが私服だし、他の服着てるとこ、見たこと無いし」
「……それだけで非常識とは呼べないでしょう」
「それもあるって話だよ」
「他に、何が」
「いや……なんか、渦巻いてるんだよ。君にさ。空気からちょっと違った気がする。少なくとも平均値は外れているって、初対面で分かった。」
「平均値?」
「だからこそ今お邪魔させてもらってる訳だけど」

 彼はカウチソファを立った。その背丈は僕と同じ位だった。そのまま僕の横を素通りして冷蔵庫を開ける、が、

「何にもないじゃん……!」
「誰が空にしたんでしょうね」
「おれだけじゃない」
「単純計算で消費が三倍になりましたからね」

 諦めた彼がカウチに戻った時、玄関のチャイムが鳴った。返事を待たないうちに扉が開かれた。いつもの学生服、セレスタだった。

「セレスタ、おれのアイス食べた?」

 彼女はNOを示した。

「“おれの”ではなかった筈です」
「え、そうなの」

 ザムザの隣に腰掛けた彼女は足を投げ出して遊んでいた。プールサイドで水に戯れるようだった。
 ふと彼女は透明人間を見た。そして彼の衣服だけの肩に寄りかかった。

「なんだよー」

 彼女は頷きノートを取り出した。

『ずっと服着てればいいのに』
「毎日着てるよ? 透けちゃってるけど」
『見えるっていいね』
「セレスタは、いっつも見えるからいいなあ」

 みんなそうだ、とは言えなかった。

『ほらいくんの』
「洗濯したから換えに借りてるんだよ。……鬼のいぬ間に洗濯」
「それ、どういう意味ですか」
「冗談、冗談」
『スーツかっこいい』
「礼は帆来くんに言いなさい」
『ありがとー』

 返答に困った僕に『てれた?』と彼女は笑った。
 かの一件以来セレスタも僕の家に居つきはじめた。一階下の彼女の家には就寝の為くらいにしか帰らず、専らこちらで過ごしていた。依然として彼女もまた何も語らなかった。名前も声も聞いていない。それで特別不自由しているかと言えば、そうではない。語りたくないのであれば語らなければいい、というのが共通の見解だった。それは、それぞれの自衛の意味でもあった。

 ふと彼女はメモ帳に書き連ねる。

『What’s 夕飯?』
「ああそっか……買いに行かなきゃだ。誰か、希望ある?」
「特に」
『あげだしどーふ』
「なにそれ?」
「それは主菜になりませんよ」
『あげどうふ+めんつゆ+ねぎ とか』
「いいね、爽やかだ。で、メインは?」
「魚は」
「赤身? 白身?」
「白身で」
「たら?」
『◎』

 簡単に献立が決定される。合意する。まるで親密な関係みたいだと錯覚する。互いの名前すら知らないのに。

「行きましょうか」

 僕は席を立った。セレスタも手ぶらで立ち上がる。ザムザのみ慌て、ベランダの服を取り込む。

「ちょっと待って着替える!」
「必ず畳んで下さい」
「分かってるよ……ああ、着替えるから、向こう行ってて」
『見えないのに』
「見えないのに」
「気分的にヤなんだよ」

 奥の部屋に入った男は数分のうちに「おまたせ」と声だけの存在に戻った。

 セレスタが頷き先頭に立った。僕には彼らが兄妹めいてみえた。彼らはちょうど対のような存在だった。

 玄関を出て、鍵をかけ、エレベーターではなく非常階段を使う。こちらの方が誰にもすれ違わずに済む。
 湿気を孕んだ南風に包まれる。水の匂いがする。彼女が、行こう、と言わんばかりに、僕の手を取る。もう片手には彼を掴んでいるのかも知れない。

「雨みたいな匂いがする」

 ザムザが呟く。セレスタはふと、空を見上げる。雲一つないし、明日もきっと晴れる。明日は月曜日。
 それは水の匂い、とは答えなかった。みなもは風に揺れていた。

Good Morning

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act.2  Day & Dream
Good Morning

 夢を見た。やけに現実味を帯びていて、目覚めてはじめてこれが夢だったと気付いた。気付いたはいいものの、内容については一切を思い出せない。よい夢か悪い夢かも手応えが無い。携帯のディスプレイを見ると4時半。一瞬夕方と見間違えたが、そうではない、朝だ。ただしあまりにも早朝だった。昨晩眠りに就いたのは1時だったというのに、今日は日曜日だと言うのに、どうしてこんな時刻に起きてしまったのか。とにかく一度目覚めてしまったものは仕方なく、アラームを止めて布団を出た。僕は二度寝が出来ない。身体は睡眠を欲しているだろうけど、目は冴え冴えとして得るべき睡眠を認めなかった。カーテンを開けると外は夕暮れのように暗かった。日の出前だもんなと思う。外にも内にも何も気配はなく、寝静まるということばが似合っていた。

 ふと、夢の断片を思い出した。ような気がした。

 女性に抱きついて泣いていた。薄闇の中だった。

 フロイトが喜びそうな話だが著書も解説書も別に読んだ事は無く全くの偏見だ。しかし夢の中の時刻と現在はちょうど同じだと気付く。日暮れか夜明けの青い暗がりの中だったから。

 時刻とともに場所も思い出せないものかと考える。思い出せない。舞台は、外、中、どちらでもよかった。相手の顔も分からない。

 所詮は夢だから無駄な詮索は止めることにする。こうしている間にも断片はどんどん消えていく。夢は啓示でも何でもない、と割り切り考察を遮断した。さてと今行うことを考える。面倒くさいのでもう着替えてしまう。そしてメールチェックをするが返信はなかった。彼女はまだ寝てるんだろうなあと思う(彼女は僕のカノジョではない)。

 とにかく部屋着は脱いでしまったからなにか活動しなければと思いはじめる。しかし家族もまだ寝てるだろうに、何をすればいいんだろう。携帯で天気予報を見ると最高26℃で一日中快晴。少し暑くなる。ついでに掲示板を見るが進展は一切なく、ネタとグダグダのまま終了し、悪霊の話題は完全に失われていた。彼女は多分もうそこには現れない。

 携帯を戻すと、机の上の読みかけの課題図書の、目と、目が合った。本の表紙に人の顔を起用するのはいかがなものか。ましてや真顔。その表情には指さして笑える所が一つもない。真面目でありふれた顔立ちだった。もし朝のC駅で出会っても何も違和感無い。事実外人はありふれている。

 ある朝男が商社のスーツに身を包み僕を訪ねる。こんにちは、私はこういう者ですと名刺を差し出す。

 受け取ると、そこにはカフカとある。

 かくのごとき課題図書の〆切は今週末。読了後、証明のために要約文を提出しなければいけない。すでに88ページ(本全体の三分の二)まで読んでいるから造作ないのだけれど。

 家に居てもやることなんて高が知れていて、日はまだ昇っていないのに僕はすでに退屈していた。今僕にたのしく出来ることを考える。四畳半の自室は朝をもてあますためにはひどく狭い。外はさっきよりも明るみはじめ、比較的明るい紺色だった。望まなかったにせよ、早起きしてしまったのだから、この時間を有意義には過ごせなくてもせめて浪費はしたくない。何とかならないかと窓の外を見ている。真下に団地の駐車場が見える。そしてふと思った。

 そういえば。

 最近、崖へ行っていない。

 思えば小学生の時以来崖を訪れていない。中学も駅も坂の下だから坂を登ることもなくなった。そして崖へ行くためにかつて早起きしてまでしていたことも忘れていた。今の僕は完全に夜型。

 日の出を見に行こう。

 なんとなく脳裏が晴れわたる様を感じた。宇宙の晴れ上がりを想起する。右ポケットに鍵と携帯を入れ、左ポケットに課題図書をむりやりつめこんだ。家族を起こさないよう出来る限り静かに戸を閉めて、僕は早朝の街へ歩み出た。空気の冷やかさに僕は驚いた。ここはまだ夜の延長なんだと実感する。目指す坂まで十分の散歩。心持は夜よりずっと健康だ。

 見上げると頭上には雲ひとつかかっていなかった。僕はかすかに興奮している。思考は晴れて透明になった。

 まどろみの中もう夜明けが近いことに気付く。目を開ける気はしない。時間を確かめる気もしない。けれども瞼の向こうが青みはじめている。屋根無しの生活は自然と太陽に鋭敏になる。それは今日明日の気候が命取りの生活だから。さいわい今の季節は昼も夜も過ごし良い。……寝返りでもうちたい気分だ。背中が硬い。しかしおれが居るこのベンチには寝返りうつ程幅の余裕は無い。寝る為に設計されていないからだ。妥協して腕の位置をかえ目を塞ぐ格好をとる。自作の暗がりにほのかな安心を覚える。とにかくもうひと眠りしていたい。わずかな温もりに甘んじていたい。せめて六時までは「ホ――、ホケキョ。」……屋根無しの生活は寛大だ。そもそも侵入者の概念が無い。鳥のさえずりを聴いて目覚めるとは、風流と言えば風流だ。疲れ切った現代社会にいかがですか。鳥の声で目覚めるとはロマンチッ「ホ――、ケキョッ。」……うるさいな。朝っぱらから。こっちはまだ眠いんだ。ちょっと向こうに行ってくれな「ホ――――、ホケキョ。」「ツツピーツツピーツツピー」「ピィ――ヨ、ヂュンヂュン」お前別の鳥だろ。便乗しやがって、今何時だと思って「ホ――、ホケキョッ。」……今何時だと思っ「ケキョケキョケキョケキョケキョケキョケキョケキョ……」

「――う、うるせえぇ!!」

 とうとう怒鳴り散らして目が覚める。ただどんなに怒り心頭に発してもお話の通じる相手ではない。しかしそれにしても近所迷惑(ただし、その点に関して自分を棚に上げることはできない)。

「ホ――、ホケキョ。」

少し遠くへ飛んでいったらしい。姿は見えない。さっきまで、恐らく、ベンチに寝ているおれには気付かず、ほとんど耳元で騒いでいったのだろう。鳥にさえ気付かれないのかと思うと何か不健全な一人笑いがこぼれてくる。言いようも無く生ぬるいやるせなさに苛まれる。仕方なさというのは本当に仕方ない。

 ベンチから身体を起こし伸びをする。ついでに両手を空にかざし、いつも通りであることを確認する。その手で腕、膝、首筋から顔にかけて触り、脈拍とか体温、自分の姿を確かめ、深呼吸する。普通。普通ではないのにいたって普通だ。これではじめて安心する。まだ、自分は存在している。ここまで朝の動作を済ませてしまうともう眠る気にはなれない。

 空は紺色に変わりはじめているものの街灯はまだ灯り薄暗い。肌寒いし夜と言って通じる時刻だ。鳥自体はだいたいこの位から鳴き始めるけれど、こんなにうるさいのは今日が初めてだった。

「ホ――、ホケキョ。」

 まだ鳴いている。交番の方に移ったのかな。

「ホ――、ホケキョ。
 ケキョケキョケキョケキョケキョケキョケキョケキョ……。」

 よく息が続くものだと思う。それと、早朝はボリュームを一つ落とすといい。

「ホ――、ケキョ。」

 これほどの大音響なのに姿はまるで見えない。声ばかり聴こえる。それが少し気になり、ただ単純に姿を見てみたいを思った。(できることなら、とっちめたい。)公園を出て声を追ってみることにした。こういうことが前にもあった気がする。小さく咳払いして声を整え、夜明けの街へ、歩いて行く。

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