act.1

本当に無人の公園

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 ゴアアアア……(すぐ隣の道路を車が走る)
 ……子どもたちの個性を尊重し、地域に根ざした明るい社会を……(選挙カー)……キキイー、チリンチリン、(手入れの行き届いていないママチャリ)(公園を通学路のショートカットに使う小学生達)

・九時を過ぎると人影はもう現れない。
 ツツツ。ツツ。ツツピ、ピ。ツツピ。ツ、ツツピ。ツーツーピ。ピ。ツツピ。
(ピピッピピッピピッピピッ……これは車のバック。さっきのは四十雀。ゴオオオオ……これは飛行機。ゴアアアア……走行する車。意外にも多い人工音)
 ザアと、ザザア……風にゆれる常緑樹。

(清掃員来る。落葉やら吸殻を掃く、竹箒)ザッ、ザッ、ザッ、ザッザッ。(ふ、と茂みを見る。そこに、中身の入ったビール缶の山。清掃員、いぶかしみつつもそのままにする)
(清掃員が去る頃に猫が来る。黒猫。鳴きもせず、寝そべり、毛づくろい。我が物顔。その後三十分程で猫は去っていく)

・昼過ぎ
(小学生らが帰ってくる。がやがや騒がしい)ランドセル置いたら第四公園集合な……DS持って……男子公園入んないでー。えー、何で? その公園お化け出るんだよー。そうそうウチも見た。女子嘘つくなよ。え、おれの兄ちゃんも見たって。……
(遊具も少なく、何かじめっとしている、その公園を好んで遊ぶ子はほとんど居ない)

・猫の周回、人の周回を終え、次は鳥の周回
 ピィーヨ、チュクリジュン。ピ――ヨ。ピィ――ヨ。
 ツッピ、ジリリリ。……ギーイ。ギイギイギイ。……ツッピ。
 デュエンデュエンデュエン。ギューイッチチ。ギィユーイ。ギューイッチッチ。
 カアッ、カア、カア、カア。……。

・風は強く、小枝、窓ガラスを揺り動かす。

・風はつめたい。
 チイ、チイ、チイ……。

・遠くの、ビルの角に、夕陽が朱くまぶしく沈んでゆく。
 ガサッ(枯葉を踏んだ鳩。小枝に棲まうメジロ)

・気付けば電灯が点っている。等間隔、音も無く。
 ヒヨドリが一羽、ピッと鳴いて飛んで行く。
・人は寝ぐらへ。猫も寝ぐらへ。鳥も寝ぐらへ。
・そうして公園は、本当の本当に無人になる。

悪霊だけど質問ある?

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悪霊だけど何か質問ある?
(地域BBS T市板)

1:悪霊
質問ある?あとコーンポタージュくれ

2:名無し
つ[ポタージュ缶]

3:名無し
何でコーンポタージュ?
というか詳細くれ

4:K缶
T市のポタージュ霊のフリだろ 冗談のつもりなら今のうちに止めとけ

5:†闇巫ノ騎士†
>>3
最近発生しているポルターガイスト現象。やたらとポタージュ缶が浮いているのが目撃されるから『ポタージュ様』命名俺な

6:名無し
・自販機が勝手に作動する
・夜中声が聞こえる(男)
・何人か膝カックンされた
・コックリさん作動
※誰も硬貨に触ってなかった

12:悪霊
>>2 サンクス
>>4 俺お前に会ったことあるけど
>>6 様付けでいいぜ、崇めろ
>>10 世の中嫌いになったから
成ろうと思えば誰でもなれる

16:名無し
何で膝カックン?

17:名無し
これガチじゃね?
てか超近所www

18:名無し
幽霊ならどこからアクセスしてんだ?ネカフェか?

21:悪霊
>>18 霊は人間の意思だけの状態だからネット使わなくても電脳に潜りこめる

22:K缶
あんなサイトやこんなサイトも見放題か羨ましい
つ[ポタージュ]
>>5 特定した

23:VIIII
・自販機が勝手に作動する→電気or誤作動
・夜中声が聞こえる(男)→ただのヨッパライ
・何人か膝カックンされた→腰抜かしただけ

夜中に声が聞こえた(=喋れる)のに、コックリさんに応じてわざわざ硬貨を動かしたってのは回りくどくないか
夜中の喋り声と悪霊は別だろう

24:K缶
>>23 HN間違ってるぞ~
9のギリシャ数字はⅨ

FFⅨやりてえ

27:悪霊
>>23 夜中の声?俺じゃねえよ

28:celesta
今夜会いに行ってもいいですか?

29:悪霊
>>28おk

30:celesta
今夜行きますね

31:名無し
ちょwwwチャレンジャーwwwww

32:K缶
止めとけ 遊び半分で行っていい場所じゃない
どうなっても知らないぞ
てかお願いだから事件にしないでくれ

33:†闇巫ノ騎士†
その後 >>30の姿を見たものはいない

34:VIIII
celestaさん
>>1は「ポタージュ様」の振りをしたイタズラ
わざわざ行く必要なし

 その日、これ以上「悪霊」「celesta」の書き込みは無かった。

人食いと李徴

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人食いと李徴

 男2登場。スーツに七三というクソ真面目な出で立ちの青年。背筋はすくと伸び足は長く身なりも良いが、人を食ったような無表情(もちろん青年は食人愛好者ではない。小馬鹿にする態度を人を食ったというのは何だかおそろしい言い回しだ)。帰路の途中、歩いていた所、公園から何者かの声を聴く。切れ切れに聴こえたことには、

「不毛だ……」

「外見?」

「いいや、そんなことは……」

「……壁を、壊す」

 物騒だ。関わるべきではない。

 男2は振り返り別の道を歩もうとする。しかし、

「誰か、居ねえのか?」

 と言う声に足を止める。

(気付かれている?)

 反射的に、「はい」と返事をしてしまう。男2、後悔。

声(男1)「え、マジで?」

 向こうも実は気付いていなかった。さらに後悔する男2。結局公園内へ入り、街灯の真下に立つ。影がくっきりと足元に落ちる。

 たしかに公園からは声が聴こえた。しかし今、公園には誰も居ない。

男1「ああ良かった。てっきり誰にも会えないかと思っていたんだ。おれはお前のことちゃんと見えるけど、前に会ったことは無いよな……お前は、おれのこと、見える?」

男2「……はあ?」

 男2、硬直。……誰も居ないのに聴こえる声。

男2「……お尋ねしますが、貴方はどこに居るのですか」

男1「君の真ん前」

 男2絶句。

男2「ご冗談でしょう?」

男1「そうかぁ、やっぱり見えないかあ。だよなぁ。ああ期待しなきゃよかった」

男2「からかっているんですか?」

男1「そんなことはない」

男2「では何と」

男1「おれのことが見えるかなあって思ったんだよ」

 沈黙。

男2「僕は暇じゃないんです。下らない悪戯なら止めて頂きたい」

男1「イタズラ? イタズラじゃあない。おれは本当に純粋に誰か居ないものかと庶幾(こいねが)ったただそれだけだ。そうしたら君が現れた」

男2「そうです、貴方が誰か居ないかと言ったから僕はここに来ました。ですが貴方本人は現れていない」

男1「現れている」

男2「何処に」

男1「ここに!」

 男1、あまりに悲痛に悲劇的に悲嘆する。劇的すぎてうさん臭い。

男1「信じられないだろうが聞いてくれ。おれはどうやら、人に姿が見えぬ身なんだ。姿が見えないから意思疎通もままならず、職もなければ知人もいない。仕方なくこの公園に潜み隠れていたが、なぜだか悪霊と誤解され、先日祈祷師まで呼ばれ、ハズカシイあだ名まで付けられた。悪霊扱いのお陰で人はますます寄りつかない。

 それでもおれは、悪霊でなければ下らないイタズラでも無い。おれは生きた人間だ。身体もあるし、服も着てるし……全部、人には見えないだけで。――」

男1「――おれは、透明人間だ」

男2「……透明人間?」

男1「透、明、人、間」

 二人、全くの沈黙。かすかに時計の秒針の音。どこかで車のブレーキの音。男2は立ち尽くしたまま、何も言わない。男1、ハアとため息。

男1「……信じねえよなあ……おれだって信じられないよ」

 男1、自動販売機で缶のポタージュスープを買う。

 男2はそれを凝視する。

 缶が、どう見ても宙に浮いている。

 男1は(透明な手で)缶を開け飲む。男2はまじまじと観察。男1、ため息まじりに

男1「……多分、缶だけ見えてると思う」

 男2頷く。

男2「……手品ではないでしょうね」

男1「当たり前だよ、調べてもいい。……疑り深いな君は」

 男2、缶の周囲をくまなく探る。一通り終えた後、腕組みし考える。男1、飲み終えた缶をゴミ箱へ投げ捨てる。

男2「……それで、僕はどうすれば良いですか」

 男1も困り果てる。

男1「……呑む?」

 見遣ると公園の一角に、山のようなビール缶。

男1「冷えてないけどよ」

男2「いいえ今は結構です。でもこれは、何処から?」

男1「ミツギモノだよ、悪霊への。全く、奴等、極端すぎる」

 ぼやく男1。男2はビール缶の山を眺めていたが、ふとその方向に歩いて行き、

男2「……うちで冷やしましょうか?」

男1「マジで?」

男2「それ位なら出来ます」

 缶を数本手に取り鞄に詰め込む。

男1「お前、もしかして良い奴?」

 男2答えない。荷物を持ち、

男2「ではまた明日、同じ時刻に伺います」

 帰ろうとする。男1あわてて制止。男2振り返る。

男1「えっと……自己紹介! 名前は?」

男2「……帆来です」

男1「ホライ? 分かった帆来くんな。おれは……うーん、ザムザ、でも呼んでくれよ」

男2「ザムザ? カフカではなく」

男1「李徴でもいい」

男2「ザムザ」

男1「李徴じゃ駄目か?」

男2「ザムザで」

男1「……分かった」

 男1、もといザムザ、満足そうに微笑む。男2(帆来くん)には見えないのだが。

男1「じゃあ、また明日な、帆来くん」

男2「……さようなら、ザムザ君」

 男2公園を去る。独り残った男1。いまだ街灯はこうこうと輝く。会話が絶えた公園は、おそろしい程しんと静まっている。

 彼は、新しい友人が帰っていった方をしずかに見つめた。が、ため息のようにさみしい独白。

「壁に、入れちゃったか……」

 無人の公園。声は何にも妨げられず、ただ余韻をもって響きわたる。

「ごめんな、帆来くん」

それだけ呟くと、彼、透明人間は、自らの気配を消す。

第四の壁

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一体、獣でも人間でも、もとは何かほかのものだったんだろう。初めはそれを憶えているが、次第に忘れて了い、初めから今の形のものだったと思い込んでいるのではないか?
――『山月記』中島敦

深夜、全てが寝静まった頃。無人の公園。遊具は砂場、鉄棒、すべり台のみ。公衆トイレと自動販売機。植木、植え込み。中央に、一本だけの街灯。さながら、スポットライト。

(というような雰囲気であれば、別に公園でなくてもよい。公園である必要もないのだ。ただ無人で、ある程度の広さと照明があればよい。たとえば、舞台のような)

男1――公園中央、街灯の下に立つ。

男2――未だ現れず。

act.1  無人の公園
第四の壁

 完璧に寝静まり、物音一つ無い、夜の公園。男1、ふてくされてため息。公園の隅にありあまる程のビール缶。男は缶を開けようとし、指をかけるが、やっぱり止めてそのままにする。ため息。その後は無音。無言。
 男は自らの手を街灯に透かす。爪や指の稜線から光がもれる。角張った男の手。何の変哲もない。手の甲、平、腕、足、何から何まで普通。男はそれに満足していいのか分からない。困惑を振りはらうように、男は首を振る。

(……)

(誰かここに居る? 居ないだろ? 余計な奴は、悪いけど居ないでほしい。昼間の奴等は勘弁してくれ。これ、本当、どうすんだよ!?)

 ビール缶の山に対して男は独りツッコミ、しかしそれに答える者はもちろん居ない。

「不毛だ……」

 とうとう声に出す。無人の公園、声はむなしく響きわたる。男は、仕方なしに辺りをうろうろと回る。

(おれだっていつまでもこうしちゃいられない……ここはどこだ? おれは何をしている? 記憶喪失? いやそうじゃない。もっと大事なものだ。例えば……)

「外見? ……いいや、そんなことは分かっているんだ」

(問題はなぜこうなったのか。いいやそんなの、それも本当は分かっている。畜生また気分が悪い。どうせ、誰か、おれのなかを読んでるんだろう。だのにおれの外見は見えないんだ。いいよ、読めよ。壁の向こうの人。おれはもう舞台を降りたんだ。おれの役は終わった。だから、そろそろ壁をぶっ壊してもいいだろう? ……)

 独白ののち、男は決意する。

「いつまでもこうしていられない。壁を壊す」

「って、でもどうやるんだよ! ……くそー……」

 男はふと足元を見る。電灯がこうこうと足元を照らしている。遊具にも電灯自身にも、足元の砂一粒一粒にも、くっきりと影が落ちている。

 しかし、男の影は、ない。

「……だよなあ。

 そこまで、徹底されるとなあ……」

 男には、色々なものが欠落していた。そしてまたため息。

「誰か、居ねえのか?」

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